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異世界転移でホムンクルス無双  作者: 雪川フフ
第一章 いざ異世界へ
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#05 ゴロツキという言葉が恐ろしく似合う

 当然だが舗装されていない道をバルナの馬車に乗り、歩けば3日のところを2日目の昼過ぎにレンたちはフォロイアに到着した。ブラッディウルフの一件以降これといったこともなく順当に進み、目の前にはフォロイアを囲む外壁が見えていた。


 フォロイアは円形の街であり、それを石の外壁と水が入った縦溝が囲んでいる。門には跳ね橋がついており、おいそれと侵略できない。


「バルナ、俺たちは通行許可証だったり身分を証明できるものを持っていない。そんなでフォロイアに入れるのか?」

「問題無いさ。私の命の恩人なんだ、それぐらい任せてくれ。そうでなくとも通行料を払うなら街に入れるようになっている。」


 少し門に列ができているが、バルナはそれを無視して直接門番に話に行き、レンたちのことを話した。自分や馬車の御者をブラッディウルフから救ってくれた恩人であり、信頼に足る人物である、と。余談ではあるが、レンとルージュが潰したブラッディウルフの死骸からは一番大きい牙と魔石だけを抜いて持って来てある。魔石は魔獣の心臓部で、これを壊せば魔獣の生命活動は停止する。魔道具作成に使われたりするので、これを渡せば金銭と交換してくれる。


 閑話休題

 しばらくするとバルナが話し終わったらしく、レンの乗った馬車は門を通過してフォロイアへと入った。いかにもと言った風な中世チックな街並みで、中央の噴水広場を中心として広がる街には、バルナの経営する商会や宿屋、武具屋や買取屋など、それこそゲームのようである。


「それで、レン君たちは今後どうするんだい?」

「ひとまず今日泊まる宿を探してそこからだな。しばらくは滞在するつもりだ。」


 そう言うとバルナはフォロイア内の簡易的なガイドマップのようなものを取り出し、オススメの宿屋と暇があれば顔を出してくれ、とバルナ商会の場所もレンに教えた。そして、レンたちがこの街に来たもう一つの目的を果たせる場所も教えてくれた。


 互いに別れの挨拶をしてから、レンとルージュはひとまず宿屋へと向かった。バルナおすすめの宿屋、『ウサギの園亭』。宿の中は一階が食堂兼受付、二階、三階が宿泊部屋になっているようで、緑色に塗られた木製のドアを開けるとレンよルージュに目が集まるが、すぐに十六歳ぐらいの活発そうな茶髪の女の子が奥から飛び出して来た。


「ようこそ、ウサギの園亭へ!宿泊ですか?冷やかしですか?後者なら勢いよく出て行ってください!」

「冷やかしな訳あるか。宿泊だ。とりあえず一泊頼む。必要なら後々追加で支払いたいんだがそれでいけるか?」

「了解です!それではまず一泊がお食事付きで1500エニです。」


 エニとは、この世界リライトの最も大きな東大陸で広く使われている通過であり、その価値は驚くことに日本と同じだ。100エニは100円、1000エニは1000円と、日本から来たレンにとってとても良心的なシステムなのである。この世界に来た時点である程度の金はロキからの支給があり、今日宿泊する分には十分だった。


「それで…その…お部屋の方なんですけど、お二人で一部屋ですか?」

「あぁ、頼んだ。ルージュもいいだろう?」

「はい、問題ありません。」


 顔を少し赤くしながらチラチラとレンを見る女の子だが、その言葉に食堂にいた野郎どもの目が一瞬にしてレンに突き刺さる。それもそうだろう。間違いなく美少女であるルージュが男と同じ部屋に泊まり、それが問題ないとまで言っている。ここまでくればもう女の子の顔は赤かった。


「は、はひ、わかりました。そ、それではこれが部屋の鍵です…えと、その、うちのベッドは軋みやすいんで手加減してくださいね…?」

「何を考えているかは知らんが、違うからな?」


 女の子はそう言うのが気になるお年頃というのもあり、未だあたふたしている。苦い顔をするレンに対して少し顔を赤らめるルージュに余計男たちは恨みがましくレンを睨みつける。そう言って鍵を受け取ったレンとルージュが階段を上がって見えなくなるまで野郎どもはレンを睨み続けていた。


 なぜ睨まれているのかがわからないレンはルージュとともに三階の部屋に向かうと荷物を置き、改めてバルナがくれた地図に目を通した。と、言うものの、すでにこの後行くところは決まっている。ルージュに声をかけて部屋を出たレンたちが一階に降りると、すぐさま視線が突き刺さる。


 悠然として外に出ると、目的地はすぐそこに見えていた。『ウサギの園亭』よりも大きく、ファンタジーといえばお馴染みの存在、冒険者ギルドだ。



 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽



 重厚な雰囲気の扉はだれでも受け入れるかのように開かれており、中に冒険者たちがいるのが見える。皆背中や腰に自分が使う武器を携え、席に着いたり騒いだりしている。レンとルージュが一歩入ると彼らの目はルージュかレンの腰のホオヅキへと吸い寄せられた。テンプレ展開だとここで何かしらの理由で突っかかってくるゴロツキがいたりするが、ここでは理性的にこちらを見るだけで止まっている。


 受付に行くとそこには定番の可愛い受付嬢ーーーではなく、五十代半ばかと思われる身体中からダンディが溢れ出す男が立っていた。執事服のようなものを着ており、佇まいから、少なくとも客に向かって冷やかしかと尋ねる宿娘よりもまともであることがわかる。


「いらっしゃいませ。ご用件は?」

「ギルドに登録したいのと素材の買取だ」

「お二人でよりしいですか?それならステータスプレートとお一人1000エニが必要となりますが」

「構わない。これで頼んだ」


 袋から2000エニと二人分のステータスプレートを出す。レンのステータスプレートはもとよりあったが、ルージュのものはレンが自分のを元に作った、いわば贋作だ。しかしこれでもちゃんと機能するのだから設定がガバガバすぎるのに多少なりとも不安を抱える。


「ーー完了致しました。こちらがレン様の、こちらがルージュ様の冒険者ギルドの登録票となります。これを提示すればギルドの依頼を受けることが可能です。それに加えて最も簡単な身分証明にもなりますし、対応している店であれば割引が行われます。依頼を達成し、基準に達すればランクは上がります。最初は最低ランクのEランク、最高ランクはSランクとなりますのでそれを目指してください」

「なるほど、わかった。で、これが素材だ」


 受付カウンターの上にブラッディウルフの魔石と牙が入った袋を置くと、中から取り出して状態の鑑定が行われた。たまたまではあるがほぼ全ての魔石が無傷であり、それがBランクのものだから高くなるのではないか。


「ふむ…登録前からこのサイズの魔石を。牙から見るにブラッディウルフですか。よくご無事でしたね」

「運が良かったんだ。昔からそれだけが取り柄でな」


 自虐的な笑みを浮かべるレンを見て何か察したのか、受付の男はうなづきながらカウンターからエニを取り出した。ルージュが頭部を吹き飛ばした一匹を除いたブラッディウルフ十二匹分の魔石と牙で28万6000エニと、中々に高値で買い取ってくれた。彼曰く、ブラッディウルフは群れで行動するため脅威度が高く、素材の活用法も高いため買取価格もいいらしい。


「レン様、つかぬ事をお伺いしますが、そちらの帯刀されていてる刀は?」

「家宝みたいなものだ。切れ味抜群だから持ってきた」

「なるほど、鞘だけでも名のある匠が鍛えたことがわかりますね。それほどの刀なら実力を知らない商人や同業者も憧れるでしょう。夜道にお気をつけを」

「…肝に銘じておく」


「申し遅れましたが、わたくし、冒険者ギルドフォロイア支部にて受付をさせていただいておりますキーランと申します。以後、お見知り置きを」

「こちらこそ、明日からも頼んだ…あと、明日の朝少しだけギルド前がうるさくなるかもしれないが、そこは大目に見てくれ」

「…なるほど、お互いに得することでしょうし大丈夫でしょう。それでは、お気をつけて」


 頭を下げるキーランを後に、レンとルージュはひとまずギルドを出た。


「あの受付、キーランの言う通りですね。見ている限りだと、奥にいた男たちが少し計画を立てていました。今日の夜に襲い、ホオヅキと私を攫うつもりのようです」

「わかっている。すでにキーランからの許可は得た。明日の朝が楽しみだな」


 終始一言も話すことがなかったルージュだが、どうやらヒソヒソと話していた男たちの計画を聞いていたらしい。どちらも渡すわけにはいかないレンは黒い笑みを浮かべ、『ウサギの宿亭』へと帰った。



 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽



 日が沈みきった頃、ルージュが昼間の三人の気配を察知した。こちらの様子を伺っているらしく、レンでも流石にガラス越しだと何を言っているかはわからないため、ヤタを向かわせた。ヤタと聴覚を共有すると、男たちの話し声が聞こえてきた。


『あの小僧ってこの宿にいるんだよな?』

『おう、女も一緒だ。ありゃ上玉だしな、楽しむには十分すぎるぐらいだ』

『そうだな。とりあえず出てくるのを待つか。反撃に出られても所詮はEランク、ボコボコにして身ぐるみ剥いでそこらへんに捨てとけばいい』


 なるほど、かなりのゴロツキトリオである。話を聞く限り、レンを片付け、それからルージュをなんやかんやしようとしている。そもそもレンたちが宿の外に出ることを前提に話していることがおかしい。知能レベルが低い方々なのだろう。


『彼等バカだねぇ。僕が見る限りだと持ってるもの全部巻き上げたものっぽいねぇ。あーヤダヤダ、バカは嫌いだよ』

「面白いバカもいるがこいつらはうざったいな。トリオの目論見通り、とりあえず俺だけで外に出てそこら辺をぶらついてやるか」

「それなら私もご一緒します」

「いや、一人で大丈夫だ。それに、さっき考えていたことを実践してみたい」

「そう言われるならわかりました。お気をつけて」


 ルージュを部屋に残して一階に降りると、女の子が食堂へと料理を運んでいるところだった。奥には両親かと思われる二人が料理しているのが見える。


「あれ?今からお出かけですか?」

「ちょっと用事があったのを思い出してな。すぐ戻るから夕食は後からでもいいか?」

「はい、大丈夫ですよー。基本的には遅くなりすぎなかったらいつでもいけますので。楽しみにしててくださいね!あと…女性の方もいろいろ楽しみにしてると思うんで、早く帰ってきてあげてくださいね?」


 まぁそういうことだ。レンにはそんな気はサラサラない。しかし女の子はそう勘違いしている。頭の中は桃色空間なのだ!


 またもや顔をほんのり赤くしている女の子は放っておいて、宿を出てしばらく歩くと、しっかりトリオはついてきた。バレバレの尾行は実にわかりやすく、あっという間に人目のつかない路地まで誘導できた。角を曲がったところで上に跳び、壁を蹴って後ろに回り込む。トリオから見れば角を曲がるといきなりレンが消えたように見えるはずだ。


「あれ?さっきここ曲がったよな?いないぞ?」

「いや、暗くて見えていないだけだろ。Eランクが巻けるわけない」

「たしかに、普通のEランクならそうかもな。で、お目当てはコレか?」


 驚くほど自然に会話に入りこんだレンはホオヅキを見せつけるように持ち出した。気づいた三人はバックステップで距離を取り、自分の武器を取り出した。短剣や片手斧、ロッドなど、路地でも使える短いものばかりだ。対してレンが持つホオヅキは刃渡り50〜60cmほどで、このような路地での戦いには向いていない。それ故にホオヅキを後ろに立てかけると、指を鳴らした。


「実はちょっと試したい術式があってな、さっき考えていたんだ。コレは例だが、武器に魔法を付与できるなら、人間の人体にも付与できるよな、って」


 そう言うと音を合わせて合唱し、魔力を一点に集めた。イメージはルージュの火魔法を両腕全体に纏う。瞬間、爆発的な魔力が両手を覆い尽くし、それは肩まで駆け巡っていく。

 この世界において始めてレンが自分で考えて作り出した魔法術式ーー


魔纒まてん第十四術式 上爻じょうこう 火天大有かてんたいゆう


 地球にあった六十四卦ろくじゅうしけをモデルとしたその術式は、本来なら外に放出する分の魔力を自分の内側に止め、練り合わせることによって爆発的に威力を高め、加えて身体能力にブーストもかかるものだ。

 暗かった路地を轟々と燃える炎が照らし、トリオの顔は真っ青になった。

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