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異世界転移でホムンクルス無双  作者: 雪川フフ
第一章 いざ異世界へ
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#04 俗に言うWin−Winの関係

 レンが異世界リライトに来てルージュを作り出した日から既に1カ月弱が経っていた。その間は体力の回復や外界の偵察、常識の蓄えなど、いろいろなことをしていた。その中でも特に力を入れたのは戦闘についてだった。外に出て移動するともなれば必ずいつかはモンスターなんかと遭遇し、戦わなければならない。そのためにもレンはルージュに魔法を教えてもらっていたのだ。


 ルージュは火属性の紋章から作り出されただけあり、火属性の魔法ならほとんどのことができた。魔力のコントロールも繊細で、無駄がなく最高効率で行なっている。最初に作ったホムンクルスにしては最上級と言っても過言ではない。


 魔法以外にも体術等も十分な腕前だったが、レンの現在の身体能力はロキによって底上げされているため、ルージュよりも上をいく結果となった。もとより地球にいた頃から何の縁かそういう事に巻き込まれることがあったせいで自分の身体の扱いに慣れていたのだ。

 レンが一人で近くの森に行った時にはたまたま遭遇したゴブリンの頭に容赦なく回し蹴りを叩き込み、頭を蹴り飛ばした。飛んで行ったゴブリンの頭部の行方は誰も知らない。


 その日、2人は身支度を整えていた。レンは制服を脱ぎ、備え付けのクローゼットに仕舞うと代わりに黒いフード付きパーカーとジーンズもどきを着て青いロングコートを羽織った。腰には帯紐でつけた刀を差している。

 この刀の銘は『断絶刀 ホオヅキ』ロキからの選別の一つであり、とんでもない切れ味である。そこらに生えている木ぐらいなら軽く振るだけで余波によって切ったところの上からなくなってしまうほどだ。斬撃の射程もなかなかに広く、軽いのも特徴だ。


 扉を開けて外に出ると太陽は真上少し前ほどで、もうすぐすれば昼ごろだろう。どうやらレンがこの世界に来たのは春ではなく、夏の中頃だったようだ。今は秋が始まる頃だろう。日陰にいると少し肌寒い程度には季節が進んでいる。続いてルージュも外へと出てきた。彼女は細身の体に合った長袖のジャケットと黒いパンツを履き、髪は首上でポニーテールにしていた。


 ルージュが外から窓や何かの確認をしていると、地球でもよく聞いた、「カァー」という鳴き声とともにレンの肩に一羽の黒い鳥が止まった。クルリとした目でレンを見て首を傾げた。


「お帰り、ヤタ。向こうはどうだった?」


 レンにヤタと呼ばれた鳥には三本の足があった。日本では神話の生き物とされ、ありがたい存在と祀られていた鳥、八咫烏やたがらすだ。ヤタもルージュと同じようにレンが作り出したホムンクルスの一つである。実のところ、人型以外も作れるのかを実験しようと思い、どうせなら空から見渡せる鳥型のを作ろうとしたところ、偶々成功して生まれたのがヤタというわけだ。


 錬成にはレンの魔力と少量の賢者の石、そこらの鳥の羽と鶏肉を使われた。やはり人型を作るのはかなりの魔力を使うらしく、ヤタの時にはさほど苦しむことはなかった。それに加えてルージュとの魔法の練習などで魔力容量が増えたことも要因だろう。


 ちなみにだが、烏はとても賢い鳥であり、その上賢者の石を使って作られたヤタはーー


「まぁ特に何も無かったねぇ。この近辺にはこのログハウス以外何も無い。あるといえば道なりにまっすぐ進んだところにある街ぐらいだねぇ」


 ーーそう、喋る。舌の作りがどうなっているのかわからないがかなりフレンドリーに喋る。猫が恩返しをするジ◯リ作品に出てくるカラスのようだ。本人(本烏というべきだろうか)にそれを伝えると、ただのカラスと一緒にしないでほしいとの不満があった。人に見つかった場合は最高速度で逃げ去るように言ってあるので、せいぜい謎の黒い飛行物体が飛んで行ったぐらいで済むだろう。


「で、どうするつもりだい?このまま道に出て北に向かって3日ほど歩けばフォロイアという街がある、南に向かって歩けば山に入って、かなり遠いが国がある。僕のオススメとしては北に向かうことだねぇ。山やら森やらはルージュ様にとって不利じゃないかい?」

「たしかにそうだな。ルージュならうまくやると思うが、山火事でも起きようものなら大惨事だ」


 ヤタの視界はレンも共有することが可能であり、そのヤタはそこらの鳥と視界を共有できる。ヤタ曰く、自分はそこらの鳥なんかよりもよっぽど上位の存在だからそれぐらいは余裕らしい。そこから見た限りだと、やはりヤタの言った通り、街に向かうのが最適かと思われた。


「よし、街に向かおう。とりあえずそこでもっと金銭を手に入れなくちゃ始まらない」

「同感だ。おっと、ルージュ様も確認が終わったようだ。じゃ、僕は空からついていくよ。食料にされかねないからねぇ」


 そう言い残すとヤタは漆黒の羽根を広げて飛び立っていった。先ほどのヤタの発言だが、ルージュが初めてヤタを見たとき、反射的に狩って夕食にしようと動いてしまったからだ。それ以来、ヤタはなにかとルージュから離れるようにしている。油断すれば喰われる、自然界は恐ろしい!

 確認が終わったルージュにヤタと話したことを伝え、フォロイアを目指して進むことに同感をもらった。


「それでは予定通り、このログハウスは隠しておきます」

「あぁ、頼んだ」


 ルージュがログハウスに向けて手をかざすと周辺の景色がゆらゆらと歪み、空気に溶けるようにして見えなくなった。これはルージュの火魔法と蜃気楼の逆現象を組み合わせたもので、熱を操って光の屈折角を変えることで実態はあるがそのもの自体を見えなくする、というものである。しかし、その周辺だけ異様に暑くなるので隠れることには使えないだろう。


 完全に景色と同化したことを確認してから丘を下りて道に出た。やはり周りには何もなく、ただただ草原が広がっている。


「時間も食料も余るほどある。ゆっくり行こうかーー」


 レンがそう言ったときだった。今から向かう方向とは逆の南の方から土煙が上がっているのが見えた。どうやら土煙の原因はこちらに向かって爆走して来ている馬車のようだ。底上げされた身体能力とセットで元々両方ともAだったがさらに強化された視力のお陰で御者の顔ははっきりと見え、その顔は真っ青で脂汗を滲ませている。


「馬車の後ろに反応がありますね…13、いえ、14でしょうか。ヤタ、見えていますか?」

『あぁ、見えているとも。ルージュ様の反応当てクイズは正解だよ。馬車の後ろから大型の狼の魔獣が猛追しているねぇ。アレは多分ブラッディウルフかなぁ?』


 ヤタから念話が入り、レンは状況を飲み込めた。ログハウスにあった本によれば、ブラッディウルフは馬車が走ってくる方向にある山に住み着いている魔獣であり、脅威度はSS〜DランクまであるうちのBランクと、そこそこ高めの魔獣だ。十数匹の群れをその中でも最も強い個体が引き連れ、チームプレイで獲物を狩るハンターだ。


『ん?どうやらそちらに向かって助けを求めてるみたいだよ?恰幅のいい男が窓から身を乗り出して手を振っているねぇ』

「見えている。貴族か商人かのどちらかだろうな。いい馬車に乗っている」


 レン達が見える範囲でも馬車を引く馬は艶がよく、馬車にも装飾が施されている。食料にはもってこいの馬…。レンとルージュは道の脇にそれ、馬車に手を振り返した。これで協力する、と伝わるはずだ。御者がこちらを見て手を振り返したので理解できたのだろう、それが分かるとレンは腰を低く落としてホオヅキの鞘と柄に手をかけた。所謂、抜刀の構え。


「ルージュ、俺がなるべく斬る。斬り漏らしは対処してくれ」

「わかりました」


 荷物を置き、ルージュの手の平にはいくつかの先端を尖らしたフルメタルジャケット弾のような【火球ファイアボール】が浮かび上がる。本来の初級魔法である【火球ファイアボール】とは違うそれはレンがルージュに教えたものであり、当たった対象を貫通、もしくはめり込んだ瞬間に爆発する仕様になっている。そのせいか、まるで初級魔法とは思えないような威力を発揮する。


 馬車から聞こえる声は近づき、それに伴いブラッディウルフも近づいてくる。こちらの世界に来て初めて生物を斬るレンにとって、すでに焦りはなかった。立ち塞がるものすべて斬る、否、敵意在るものすべてる。


 馬車が横を通り過ぎる直前、中から何か聞こえた気がしたが、もはやレンには聞こえないに等しかった。高校の屋上から落ちたあの日のように、急に周りがスローになる。ゾーンに入ったレンには、飛びかかるブラッディウルフの動きさえもほぼ止まって見えていた。


(ーー今っ!)


 すべてのブラッディウルフがレンとホオヅキの射程内に入ったと思った瞬間に抜刀した。左手で固定した鞘からは流れるように刀身が抜き出て、鋼色の刃が露見する。空を斬り裂く音とともに刀身はブラッディウルフたちを通過した。たしかに斬った手応えを感じたレンは鞘にホオヅキを戻すと、少し遅れてブラッディウルフたちは上下や左右に真っ二つになった。1匹を除いて。


「しまったーー」


 振り向いたレンがそう言い終わる前になんとか尻尾を斬られるだけで済んだ群れの長のこめかみにルージュの【火球ファイアボール】ver.銃弾が炸裂し、首から上を吹き飛ばした。


 あたりにはレンとルージュによって作られたブラッディウルフの血の海が広がっており、少し先には先ほどの馬車が止まっている。鉄臭いがそこはしょうがないだろう。


「悪い、一匹逃した」

「いえ、十分でした。私も新しい【火球ファイアボール】が試せました」


 すぐに馬車から男が降りて来てレンたちに駆け寄った。近くで見ると確かに恰幅が良く、身なりも裕福そうだ。護衛がいないことからおそらく貴族ではなく商人だろう。


「巻き込んでしまってすまない!君たち、大丈夫だったかい⁉︎」

「あぁ、大丈夫だ。これを見ればわかるだろう?」


 レンが指を指した先に広がる血の海を見て商人らしき男は口を押さえた。耐性がないのだろう、顔が青くなりかけている。


「…すまない、あまりこう言うのには慣れていなくてね。そういえば名乗っていなかったね。私はバルナ・ウィンセント、この先の街、フォロイアで商人をやっているんだ。バルナと呼んでくれ」


 そう言うとバルナはレンたちに一枚のチラシを渡した。そこには経営主がバルナで間違いないであろう、『バルナ商会』のことが書かれていた。ちなみにこのバルナ商会、かなり大きな商会らしくそこそこ有名らしい。それだけに、ネーミングセンスもっとどうにかなったんじゃ、そんな気持ちが拭いきれない。


「俺はレンだ。こっちはルージュ。今は旅の途中だ。」

「ほう、旅の途中。と言うことは、今からフォロイアに行くのか?だったら私の馬車に乗ってくれ!なにせ命の恩人だからな!」


 フォロイアの位置的に歩けば3日で着くが、馬車で行けばそれより早く着くだろう。バルナもレンたちに護衛として一緒に来て欲しいというのも在る。どちらにとっても利益があるこれを断るはずはなかった。


「お言葉に甘えてそうさせてもらう。その代わり、護衛は任せてくれ」

「心強い護衛だ。頼んだよ、レン君」


 差し出されたバルナの手は手汗がすごかった。

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