表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移でホムンクルス無双  作者: 雪川フフ
第一章 いざ異世界へ
4/14

#03 What your name

 目の前は真っ暗だが、どこか無重力のような場所をふわふわと漂っているような感覚をレンは感じていた。体を動かそうにも動かせず、目を開けられたとしてもやはり何も見えない。この状態に至るまでの記憶が曖昧で、否、何も覚えていない。なぜこうなったのか、ここがどこなのか、それどころか自分は何者なのかさえも忘れそうになってしまう。


『ーーーまーーーーさまー』


 かなり遠くから何か聞こえる。女性のような声で誰かを…呼んでいる?更に耳をすますと声ははっきりとしてきた。


『ーーじ様ーーー主様」


 明確な声が聞こえ、目を醒ました。今度は色づいた視界があり、たしかに見えている。試しに手を握ったり開いたり、足を上げたり下げたりを繰り返すが特に異変はない。


「俺は…そうか、思い出した。ホムンクルスを作ろうとして…」


 なぜ自分が横たわっているのかを思い出したレンは自分の後頭部に何か柔らかいものがあることを知った。それは昔、まだ自分は幼少期で母が生きていた頃に感じたことのある感触だ。


「大丈夫ですか、主様?」


 それが何かを確かめようと体を起こそうとすると、突然誰かがレンの顔を覗き込んだ。反射的に当たらないように上体を起こし、すぐさま跳ね起きて距離を取った。その正体はーーレンと同じ年頃の少女だった。腰まである髪は鮮やかな紅色で、黒い瞳がこちらを見ていた。そして、なぜか全裸。いや、シーツは羽織ってるけど、これは全裸。


「お前誰だ?」


 警戒態勢で腰を落として拳を握るレンだが、さっきまで倒れていたものだから力が入らない。視線を動かしてあたりを見回したところで、ホムンクルスを作った際に使った道具だったり賢者の石だったりが全て元のプレゼントボックスの中に片付けられていることに気がついた。


「驚かせて申し訳ございません。私は先程主様によって作り出されたホムンクルスでございます。何なりとお申し付けください。」


 そう言うと少女は深々と頭を下げた。レンは警戒態勢を解くと、家の中央へと戻されたテーブルに手をついた。どうやらホムンクルスの錬成は成功したらしく、よく見るとプレゼントボックスの中の賢者の石は最初よりも小さくなり、およそ半分にまでなっている。


 視線を前に戻すと少女がレンを見ている。シーツは両手で持ったままであり、全身を覆うようにしている。さっきの柔らかい何か、の正体は膝枕だったのであろう。


「さて、ホムンクルスだって言ったけど、名前は?」

「まだ名前はありません。よろしければ主様に名付けていただければ光栄です。」


 そう言ってまた頭を下げた。ひとまず名前をつけるのは後にして、初めての命令をした。


「ーーとりあえず服を着てくれ。」



 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽



 台所には自前の紅い髪が映える白い羊毛のセーター(?)を着たホムンクルスが立っていた。今ホムンクルスが着ている服は、なぜか備え付けのクローゼットに入っていたものだ。ロキさんや、何を考えておられた。

 既に外は暗くなりかけており、太陽も地平線に半分隠れている。彼女曰く、初めての錬成で魔力を使いすぎて極度の枯渇状態になってしまったことが気を失ってしまった原因だそうだ。どれほどの間そうしていたかを尋ねると、およそ4時間との回答が返ってきた。こちらで目を覚ました時の太陽の位置は少し西に傾いていたことから、季節は春頃だろう。もちろん、地球と同じであればの話だが。


「主様、食事の準備ができました。」


 顔をこちらに向けてそう言うと彼女は皿をテーブルへと運んだ。食欲をそそる匂いの正体はシチューだったようで、白パンもつけてある。向き合って座り食べ始めると、彼女はレンをじっと見つめている。味がどうかを見たいのだろう。白パンをちぎり、シチューにつけて食べると、濃厚な味が口の中に広がる。


「…どうでしょうか?」

「あぁ、すごく旨い。料理上手でよかった。」


 そう言いながら食べ続けるレンを見て、彼女は嬉しそうに微笑んだ。そうして、2人でシチューを食べてひと段落過ぎ、片付けを始めたところだった。


「名前だけど、ルージュとかどうだ?紅い、と言う意味なんだけど、髪も綺麗な紅色ってことを加味して。」


 レンがそう言うと彼女は一瞬キョトンとした顔をして、顔を少し赤らめてほほえんだ。


「ありがとうございます。それではこれからはルージュと名乗らせていただきます、主様。」


 台所の窓から差し込む月明かりに照らされた微笑みは美少女ということもあり、より一層輝いて見えた。自分の顔が少し熱くなっていることに気づいたレンは照れ隠しのように違うことを言った。


「ーールージュ、もう一つ。右頬にパンの欠けらが付いてる。」


 レンのその言葉を聞き、慌てて右頬に手を伸ばすルージュの顔は先程の微笑みよりももっと赤くなっており、耳まで真っ赤だった。自然とレンは笑みがこぼれた。


「主様、そんなに笑われなくとも…」


 そう言いながらもルージュも小さく笑い、夜の小高い丘の上では優しい時間が流れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ