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外れを引いた異世界転移~世界を壊すは我にあり~  作者: シクラメン
終章 こんな世界も悪くない

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第07話 世界は彼を殺せない

 「ヒロ君、ヒロ君!」

 「黒瀬君!! ッ! 息を吹き返したっ!!!」


 目が覚めると、ひどく痛む胸。大きく咳払いすると、喉の奥から血が固まって吐き出した。


 「げほっ、げほっ……。ここは……」

 「ヒロッ、生きてたのね!」


 そう、声をかけて来たのは。


 「ロザリア……?」

 「どうしたの、そんな顔して」

 「いや、何でもない」


 純白のローブに身を包んだロザリアだった。ヒロの周りにはひどく焦った表情のリリィとアミ。だが、その服装はヒロが最後にみた服装とは細部が異なっている。彼女たちの姿を見るに、ヒロは大きな負傷を負い彼女たちに助けられたのだろう。

 しかし、どうしてそんな負傷を負ったのだろう?


 「ここは……?」

 「……一時的な記憶の混乱ですね。無理もないです」


 そう言ってアミが諭す。


 「私たちは、二国を転覆させようとした犯人。魔物を操る『魔王』の確保に来たのです」

 「魔王?」

 「ええ、白崎ハル。異才の集団(ギフターズ)の一員です」


 ……才異の集団(ギフテッド)じゃないのか。

 ヒロが周りを見ると、ヒロ達の周囲には夥しい数の魔石。そして、水の結界が張られており、その前方ではガウェインとナナが必死になって結界を守っていた。


 「ヒロ君が、私を守るためにゲイザーの攻撃を防御もせずに直接受けちゃったんですよ」

 「……そうか、みんな。生きてるんだな。良かった……」

 「みんな生きているんですけど、結構危ない状況ですよ……」

 

 ガウェインがエンペラーオークの攻撃を受け、ナナが横から断ち切る。ヒロ達に手を伸ばそうとするスケルトンとオークと、餓鬼を一掃した。


 みんな、満身創痍だった。


 ヒロはゆっくり身体を起こすと、脚と腹が痛んだ。


 「……大丈夫だ。俺が全部片づける」

 「どうやって、やるんですか」

 「……任せろ」


 ヒロの腰には絶刀。時間を超えてなお、まだ自分の元について来てくれることに感謝の念を覚えながら、抜いた。


 ありがとう。ずっと、側にいてくれて。

 【準備は良いのか、相棒おれ

 ああ、もうとっくに出来てる。

 【なら、行こうぜ】


 魔物の海のその最果て。ひどく飽きた表情のハルが椅子に座っていた。


 その顔に、驚愕を刻ませる。


 ヒロの身体は鉛のように重たかった。それも当然、この時間軸のヒロはエンペラーオークも、ドラゴンも『暴食グラ』で喰らっていない。その分、ヒロの身体能力は落ちているのだ。


 だから、


 ヒロは自分の手首を切った。どろりと、ヘドロのように地面に漆黒の闇が落ちる。闇の速度と同じ速度でヒロが歩みを進めていく。ヒロの行進とともにゆっくりと魔物が闇の海におぼれていく。


 地面から生える乱杭歯と舌がさもうまそうに魔物を喰らっていく。無論、仲間たちは喰らわない。そういうように魔法を使ったからだ。


 魔物が一体、飲まれる度にヒロの身体に力が宿る。


 「ヒロ、その力は……?」

 「その魔法は、一体なんでござるか」

 「魔物を食べる魔法だ」

 「魔物を食べる……でござるか」

 「あぁ」

 

 魔物の奥に一人佇んで、飽き飽きしていた表情のハルが、ここで初めて驚きの顔を見せた。


 慌てて地面から魔物を生やすが、それも完全に出でる前に喰らわれて沈んでいく。そして、それが全てヒロの力になるのだ。


 ……もし、二人が手を組めば最速で最強になれるな。


 なんてことを考えながら、ヒロは魔物の海を渡り切った。



 「俺はこの世界のお前に恨みはない」


 両者、距離五メートルの位置でにらみ合う。


 「……うん?」

 「でも、俺がここに来たってのは何かしら理由があるんだろう。投降しろ、白崎」

 「馬鹿言うなよ。投降したって俺は死刑だ」

 「そうか? ああ、そうかもな。でも、このまま戦ってもお前は負ける」

 

 ナナとガウェインはリリィとアミに治療を受けている。すぐに全回復して前線に戻ってくるだろう。そうなれば、魔物が敵ではなくなったヒロ達はすぐにハルを捕らえるだろう。今までのヒロ達なら、分からなかっただろうがここにいるのはいくつもの戦いを超えた歴戦のヒロだ。


 この世界のハルが、勝てるような相手ではないのだ。


 「さぁ、どうだろうな。俺にはまだとっておきの秘策があるかも知れないぜ」

 「あったとしても、潰すだけだ」


 ハルはそう言って笑い、ヒロはそう言って睨んだ。


 「そう睨むなよ、黒崎。俺はお前に勝てないかもしれない。けど、お前に一矢報いることはできるんだぜ。そう、例えば今治療しているお前の仲間たちにドラゴンをけしかけたりとかな」

 「それより先に、俺が喰う」

 「ほんとかよ」

 「あぁ。ほんとだよ」

 

 気が付くと、ハルの周りには500を超える漆黒の弾丸が飛んでいる。それらは全て、ヒロの意志とともに音速の回転を保ち、ハルを狙っていた。


 「何かをしようとすれば、この弾丸を全てお前に撃つ。頭は狙ってないから死にはしないだろうが、まあ相当痛いことには違いない」

 「……お前、本当に黒瀬か?」

 「あぁ」

 「エンペラーオークに逃げ惑って、合成獣キメラ相手に気絶して、A級の魔物すら一人じゃ満足に狩れない黒瀬か?」

 「……あぁ」


 この世界の俺はだいぶひどい言われようをしているようだ。


 だが、


 「それは、俺だよ」


 きっと、ヒロは仲間がいればそうなっていただろう。ガウェインとロザリアが死んだから、リリィとアミとラウラとナナが死んだからこそ、ヒロは強くなった。


 強くなれたのだ。


 だから。


 「もう、終わりにしよう。これ以上は無駄な戦いだ」


 この戦いは、時間を旅したヒロを排除するための物だったのだろう。だからこそ、弱いヒロたちがハルとぶつかり合うような状況に、ヒロは持ち込まれたのだ。


 だが、ヒロは世界が思っているよりも強かった。それが、この戦いの明暗を分けた。ただ、それだけだったのだ。


 白崎はまだ何かをしようと動き、口元を動かし自らの魔力を練った。


 ヒロは、急所を外した弾丸を狙いすまして撃ち込んだ。



 無数の鮮血と、骨と肉が潰される音とともに白崎は血の海に沈んだ。


 「……あっさり、終わったな」

 「今までさんざん苦戦しておいて、なんだその言い草は……」

 「ははっ、そうかもな。けど、俺は勝ったよ。白崎」

 「あぁ、お前の方が強かったみたいだ。黒瀬」


 そう言って二人の男たちは血だまりの中でどこまでも笑いあった。


 それは、諦めの笑いであり、安堵の笑いであり、そして馬鹿馬鹿しさからくる笑いだった。そうして、思わぬヒロの敵討ちは果たされたのだった。

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