第05話 強者の余裕
「お、やっぱり黒瀬じゃないか」
クラスメイト達と別れてから三年半。この時点ではまだ二年だが、ヒロの目の前のいる男は寸分たがわずヒロの正体を当ててきた。
「いや、あいにくと人違いだな」
「あー確かに、俺たちよりも年上っぽいな、あんた」
「まあな」
目の前の男は、うんうんと頷いてドラゴンの背中から飛び降りた。
「それで、竜の背中で何をしていたんだ」
「うん? ああ、合成獣たちの様子を見に来たんだけど。あいにく、どこかに行ってしまったらしくて困ってるんだ」
『おい、ハル。敵かも知れぬ奴に易々と情報を渡すな』
「ああ、確かにそうだ。ごめん、今のは忘れてくれ」
そういって、目の前の男は軽々しく頭を下げた。
ハル……。そうか、コイツ。
「……白崎か」
「なにか言った?」
「いいや、何も」
流石にヒロも覚えていた。白崎は、入学してそうそうヒロに絡んできた男だ。曰く、俺たちは似ていると。人嫌いのところや、クラスの中心にいるような連中が苦手だというところに確かにヒロと白崎の共通点が無いわけではないが、ヒロと白崎は致命的に合わなかったのだ。
「うーん、やっと集大成ってとこなんだけどなぁ」
「集大成?」
「ああ、俺は才異の集団なんだけどさ、『闇属性魔法の才能』を選んだんだよね。それで、俺の才能は他人に自分のいうことを強制的に聞かせることの出来る『魅了』なんだよ。それで、エンペラーオークにいうことを聞かせたり、神皇を誑かせたり、合成獣を操って遊んでたんだ。んで、もうちょっとで国を落とせそうだったんだけどね」
「……国を落とす? じゃあ、お前が」
「うん、俺がこの国の住民に革命を起こさせたんだよ」
あーあ、全部無駄になっちゃったな。と、ハルが漏らす。
「……お前が俺の敵だというのは分かった」
「そうか、それは困ったな。あいにくと僕はそこまで強くないからね、ガルリュート頼んだよ」
『うむ、任されよ』
そう言って、ドラゴンがヒロとイグレスの前に着地した。
「……一年半ぶりだな」
『む? 余には記憶が無いが』
「気にするな。俺の独り言だ」
『そうか。ハル以外の人間とやるのはあまり気乗りがしないが、これもハルの頼みだ。悪いが全力で行かせてもらうぞ』
そう、ガルリュートが言った瞬間に彼の右翼が根本から切断された。
『……ッ!』
「私怨で悪いけどよ、お前のそっくりさんに仲間を二人殺されているんだ」
ヒロは絶刀を構えながら、目の前の竜に近づく。イグレスもハルも、ヒロが動いたことに気が付けず唖然としてガルリュートの右翼が地面に落ちてくるのを眺めていた。
『……かかっ。油断した余が恥ずかしい。お主、相当に強者であるな』
「俺が強者? いや、それは違うぜ」
ヒロは自らの手首を絶刀で軽く切った。ポタリと血液が地面に落ちる。それは、薄く伸びて地面を広がっていくが、ヒロ以外の三者は誰もそれに気が付かない。
「この世界は、『強くなければ価値がない』だけさ」
その瞬間、ヒロの手首から洩れる血がどす黒く変色した。
イグレスが時間を夜にしたのが、幸いした。どこまでも広がっていく黒い液体に誰も気が付かないのだから。
「喰え、『暴食』」
ヒロの掛け声とともに、地面が一気に隆起した。ヒロから広がった黒い液体から無数に生えた乱杭歯と、大きな舌たちがゲラゲラと嗤い声を上げる。
『むっ!』
ガルリュートは思わず羽ばたいて逃げようとしたが、それよりも先にヒロの魔法が喰らいついた。ガルリュートは両足を喰いちぎられてそれでもなんとか空に飛びあがった。目を凝らすと右翼には半透明に煌めく無数の糸が絡み合って羽を作り上げていた。
『一切の油断はせぬぞ』
ガルリュートの宣告。その瞬間、周囲の魔力が一気にガルリュートの口腔に収束していく。
「おわわわわわ。ここで撃つんかい!!」
ハルが情けない声を上げながら、戦場から逃げていく。
「イグレス!」
「分かっているよ」
イグレスは逃げたハルを追いかけて、同じようにして戦場から逃げ出す。
『覚悟しろ、これが余の『息吐』だ』
「知っているか? 冒険者の鉄則だ」
『息吐』が放出される寸前、口腔内部にあった魔法が一瞬でゼロになって掻き消える。
「先手必勝。必殺技は使わせない」
『貴様ァ! どこまで余を愚弄させるのだッ!!』
魔虚。どんな魔法であろうとも、打ち消してしまうヒロが持っている最強の対魔法。
「愚弄? いい加減にしろよ。本当の戦いで、お前の必殺技を待ってやる必要なんぞ無いだろ」
『……確かに、貴様のいうことにも一理ある』
そういうと、ガルリュートは人間の形をとった。
『ならば、お主の言う通り本当の戦いを教えてやる』
「いいや、お前はここで死ぬ。気が付かないのか? お前の魔法は俺が打ち消したが、打ち消された魔法に使われていた魔力はどこにいった?」
『……魔力がない?』
「ああ、俺が使った」
その瞬間、ガルリュートの直上から天を裂いて現れるのは、直径三十センチ、秒速20キロメートルで大気圏に落下してくる突入物。
『馬鹿なっ!!』
ガルリュートは両手を上げて、その隕石を受け止めた。
ドウッツツツツツツ!!!!
今までとは比べ物にならないほどの巨大な衝撃波とともに、周囲の住宅が軒並み吹き飛ばされる。
ヒロは直前に壁を貼ることで巻き込まれるのを避けたが、イグレスは大丈夫だろうか。
……いや、アイツのことだ。平然としているだろう。
一瞬で通り過ぎた衝撃波が消えた瞬間に、ヒロは壁を解除して目の前にいるドラゴンの姿を見た。
両手は腕より先が消失し、両足はともに複雑骨折。全身のいたるところに火傷の痕と、怪我を負ってそれでも目の前の竜は生きていた。
「流石は最強種。隕石を喰らっても生きているのか」
『いや何、流石にこれは堪えたぞ……』
そう言って、ガルリュートはその場に倒れ込むと気絶した。魔石にならないあたり、まだ生きているものと見える。ヒロは留めを指すかどうか迷ったが、殺す必要も無いのでその場に放置すると、しばらくはなれた場所で、黒い箱から気絶したままのヒロを取り出し、地面に寝かせておいた。
「しっかりやれよ。俺」
そう言い残してヒロはイグレスの後を追いかけるべく走り出した。
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