第04話 未来へ飛べ
「……まだ?」
「思っていたよりも難しいわ、これ」
イグレスが門を開くと言ってから、既に一時間。ようやく魔力が形を持ち始めた。
「今度は未来に飛ぶからね。さっきの魔法と使う魔法が逆なのさ」
「ふうん……?」
ヒロは感覚的に魔法を使う才能肌なので、理論的なことは一つも分からないが実際に魔法を使っているイグレスがそういうなら、それが正しいのだろう。
「おっ、そろそろ飛べるぞ。次は帝都消滅の一日前だったね」
「あぁ、そうだ」
「今日の出来事がきっかけで未来が変わってないといいけどねえ」
「変わってたほうがいいさ。あんなこと、起こしちゃいけないんだよ」
「そうかい。おっ、行けるぞ。帝都消滅の一日前。場所は帝都近郊だね?」
「あぁ、やってくれ」
「仰せの通りに」
イグレスの言葉とともに門が開く。
「行くぜ」
「頼んだよー」
ヒロは黄金の火花をくぐった。一瞬にも、永遠にも感じられるだけの時間を経過して、外に吐き出された。
「ここどこだ?」
周囲の場所を確認しようとした瞬間に巨大な腕を振り下ろされた。
「フッ!!」
避ける間もなく、ヒロはその腕を受け止めた。
ズンンンンッツ!!
あたりに重たい音を響かせて、ヒロの両手と巨大な腕がぶつかり合った。
「……ああ、クソ」
イグレスが門から出るなり、開口一番そう言った。
「仮説2の方が正しいかったみたいだっ!」
「あぁ。そうらしいな」
ヒロたちが出てきたのは、帝都からわずかに離れた場所。そこにいるのは、数百体の巨大な合成獣。
「これは、全部俺が殺した個体だ」
「おおー。流石は英雄だ。すごいね」
「いや、でもこれどうすんの」
巨大な合成獣たちは、群れの中心に表れたヒロとイグレスを取り囲んだ。
「食べる気かな」
「いや、こいつらは人間は食わねえよ。殺すために殺すんだ」
「怖い怖い。僕は戦闘職じゃないからね。ここは君に任せるよ」
「めんどいな。お前もやれよ」
「一年半前に全部自分で倒しているんだろ? 経験値アップだと思って、頑張って」
「ああーくそ。そうなるのかよ」
ヒロは絶刀を抜く。
「まさか、二度もこんなことをする羽目になるとは」
イグレスは自らの魔法を用いて空に浮かび上がると、そこに自分の身体を固定して高見の見物と決め込んだ。
「いやあ、流石は妖刀使いといったところかな」
ヒロが一番近くにいた巨大な合成獣を一刀両断したところから、数百体の合成獣VSヒロという構図が出来上がっていた。
いや、この表現は正しくない。
VSというのは実力が拮抗している場合に使う表現だからだ。
「ははっ、こりゃすごい」
まずヒロは両断した合成獣の数トンはありそうな肉体を難なく片手でつかみ上げると、そのまま大きく振り回し最後は遠心力に任せて放り投げた。
それで、ヒロに腕を伸ばしていた合成獣のほとんど肉塊になり、ゆっくりと消えて行く。
そして、その屍を乗り越えてヒロを殺さんとする合成獣たちは、ヒロが伸ばした不可視の刀身によって上半分と下半分に分割される。
その瞬間、周囲にいた合成獣の数と同等の漆黒の砲弾が合成獣たちの直上に生み出され、一斉射。全て残さず塵になる。
「こりゃ欲しがるわけだ」
現在、皇国の主戦力は合成獣であり、恐怖を知らず魔法を喰らう合成獣は、皇国以外の国が恐れている兵器なのだ。
それを、ここまで圧倒するとは。
「やっぱり、白色冒険者に相応しい人間は相応しいね」
ヒロはわずか十分足らずで周囲にいた合成獣を駆逐した。
「うん、流石じゃないか」
「お前も働けよ」
「いやぁ、僕は門を開くだけで手いっぱいだよ」
「……まあ、そういうならそれで良いんだけどよ」
ヒロは納刀すると、走って帝都に向かった。その後ろをイグレスが付いていくる。
「……間に合ってくれよ」
まだ、帝都の中から歓声のように激しい声は上がっていない。アナスタシアはまだ、生きているはずだ。
ヒロは地面を蹴ると、三十メートルほどの距離を一気に飛び越え帝都の壁を乗り越えた。
そこから見えたのは、ギロチンにかけられたアナスタシアと、それを助けに行こうとしているヒロの姿。
「……良かった。間に合った」
ヒロは手元に粒子を生成。それを弾丸状に集めると、回転させる。イメージは狙撃銃。落ち着いて、ギロチンの刃を狙う。まだだ。まだ溜めろ。
「貴様、コイツが何をしたのか知っているのか!」
「帝国を滅ぼそうとしたんだぞ!」
「部外者が口を挟むな!」
「ふざけるなッ! 子供に責任負わせて恥ずかしくねえのか!!」
一年半前のヒロが叫ぶ。そうだ。その言葉は何も間違えてはいない。
ふと、大通りの後方にいた男が昔のヒロめがけて魔法を放ったのを見た。魔法を喰らって落下していくヒロを後目に、
……ここだ。
ヒロはその瞬間に、ギロチンの刃めがけて弾丸を放った。
パァン。
空気が破裂する音とともに、ギロチンの刃にヒロの弾丸が激突。そのままギロチンの刃を粉々に砕いて煌めく粒子の雨を降らせた。
「……馬鹿な」
「あり得ない!!」
「王女を殺せェ!!」
群衆が声を上げる。近くにいた処刑人がゆっくりと斧を持ち上げた。
そう、処刑が完全にいかないことなど想定済みなのだ。だから、斧を振り上げて、
「ここは僕が行こう」
「任せた」
イグレスがアナスタシアに向かって指を向けた。その瞬間に、振り下ろされた斧はヒロやエンペラーオーク様に、勢いは止まっていないのに彼我の距離を詰められない。
「そこの少年が言うことも最もだ。彼女はまだ子供だよ?」
イグレスがそう言って、帝都民たちの注目を集める。突然現れた乱入者に、帝都民たちは軽いパニックを起こしていた。
ヒロはその瞬間、壁から降りてアナスタシアのもとに向かう。
その状態のヒロとイグレスのわずかなアイコンタクト。ヒロの意志を分かった彼は、空中に飛び上がると、自分の身体を固定した。
「君たちの怒りも分かるけどね、子供には可能性を与えないといけない」
そう言って、イグレスは両手を上げる。
「僕はこう見えても闇魔法の権威でね」
両手を鳴らした。その瞬間に、時間が加速していく。太陽が尋常ならざる速度で沈むと、星が煌めき始め月が東の空から現れる。
帝都民たちが大きなパニックに包まれるなか、ヒロはアナスタシアの拘束具を外すと、近くの民家に飛び込んだ。
「お主、ヒロかっ!?」
「…………」
一応、念のため顔の下半分を粒子で隠しているが、アナスタシアにはすぐに見破られてしまった。
ヒロは困ったように肩をすくめると、民家からヒロは飛び出した。
彼女も馬鹿じゃない。この後、どうするかなんて自分で考えて行動するだろう。
問題なのは、
「うぁあああああああ、ドラゴンだぁああああああああっ!!!」
そう、こっちがいることなのだ。
「悪いな、昔の俺」
ヒロは、転がっているヒロの意識を落とすと黒い箱にしまい込んだ。
帝都民たちは空にそびえるドラゴンから逃げるために北に向かっていく。
その波にのまれないように、ヒロは民家の屋根に飛び上がると、そこでイグレスと合流した。
「これで良かったかい?」
「ああ、助かる。帝都民たちの意識は完全にお前に向いていたからな」
「まあ、こう見えてもパフォーマンスには自信があるからね」
ヒロとイグレスは空から降りてきた竜と対敵した。その背中には、やはり人間が乗っている。
「そこにいるのは、黒瀬か?」
そして、その人間はヒロを見るなり、そう言ったのだ。
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