第07話 来訪者、武器を見る
残り4体のスライム狩りは、あっという間に終わった。
スライムに殺されそうになったあの瞬間に、ヒロは新しい魔法を覚えたのだ。あの水球を飛ばす技だ。威力はスライムと同程度で、木の幹を貫通するほど。
はっきり言って十分だ。
「『放て』」
ヒロの言葉で何もない空中に漆黒の球が生成され、スライムめがけて飛んでいく。
六体目のスライムに直撃すると、当たり所がよかったのか一瞬で液体に戻ると魔石をその場に落とした。
「ほぇー。ヒロは召喚系の魔法使いだと思ってたけど違うのかしら」
「球を召喚してるって考えは?」
「あれは生き物じゃないでしょ」
どうやら生き物を召喚するのが召喚魔法らしい。
「まあ、ヒロの魔法が何であれ遠距離魔法を使えるのが二人になってよかったよ」
「そうね。ヒロのはあたしほど威力は高くないけど速射性に優れてるし、良い分担じゃないの」
「……怪我、怪我はどこですか……?」
若干一名、変なことになってるけど大丈夫だろうか。
「どうだ? D-の魔物にも挑戦してみるか?」
冗談めかしたヒロの言葉。Dクラスの魔物が安定して倒せるようになれば、初心者卒業だ。つまり、E+のスライムを倒しているヒロたちは初心者と言える。
「いや、もう少しE+の魔物で様子見しよう。調子にのった初心者パーティーが実力外の魔物に挑んで全滅なんてありふれた話だよ」
「まあ、そうだな」
リーダーであるガウェインは慎重派だ。いや、リーダーとしてはそれくらい慎重派にならざるを得ないんだろう。何しろ俺たちの命を預かっているわけだし。
「なら、明日はどうするんだ? もうこの場にスライムはいないっぽいし。もっと奥に入るのもアレだろう」
「帰ってクエストを見てみよう。僕らにとって手ごろなクエストがあるかもしれない」
ガウェインの言葉に三人は賛同すると、冒険者ギルドへの帰路へとついた。
スライムの魔石は一つ三千イルで売れた。三千イル!
最初のころ、一日中薬草を集めて千イルだったころを考えると半日で四千五百イルである。
なんたる進歩か。ヒロは宿屋を少し良いところにしたので朝食、風呂付きで二千イルほどはするが、それでも二千イルほど余るではないか。
ヒロは今のところ余剰資金を全て貯金に回している。武器が欲しいためだ。
今ヒロが使っているのはヒロが初めて殺したゴブリンが持っていた短剣を研いだもの。切れ味としては普通のナイフとそう変わりない。
この世界の武器には魔法を込められた物や、妖刀、魔剣といった類のものも存在する。これからもっと強くなろうと思ったら、そういった刀剣を手に入れないといけない。
弘法筆を選ばずとは言うが、冒険者は筆を選ばなければ死ぬのである。だが普通の鍛冶屋で売っているロングソード、コイツの値段が大体10万イルから20万イルほどする。とてもじゃないが手が出せるような値段じゃない。
ロザリアとリリィがガールズトークに花を咲かせている間にガウェインに尋ねたところ、彼の剣は200万イルを超える物で切れ味強化と自己修復の祝福を受けているらしい。それは通りで何を斬っても刃こぼれしない訳である。
稼ぐためには剣がいるが、剣を買うには稼がないといけないのである。
「世知辛いなぁ……」
異世界ってのはもっと気楽にチート能力を使ってキャッキャウフフ出来るものだと思っていた。出来ねーじゃん。いや、当たり能力を引いていたらこの世界でも出来たはずなのだ。これも一重に、この『死にかけた攻撃を模倣する』魔法のせいである。
俺は死にかけなければ強い魔法を覚えられないのである。サイヤ人かよ。
けれど塵もつもればなんとやらだ。冒険者ギルドの銀行でスライムの報酬により少しばかり増えた貯金額をニマニマしながら眺めていると、ガウェインに声をかけられた。
「今日はいいクエストも無いし、飲みに行こう!」
「い、いや。遠慮しとくよ。今月金が厳しンだわ」
「そうなんですか。ならまた次の機会に!」
飲みの誘いを断ったというのにガウェインは気分を害した様子も見せずに、笑顔で立ち去った。俺もああなりたいものである。
ヒロはいつまでも貯金額を眺めているわけにもいかないので、足早にギルドを立ち去ると、ここ最近足しげくかよっている鍛冶屋に向かった。
「おう、兄ちゃん。また来たのか!」
「ええ、今日も見ていっていいですか?」
「良いぞ! 俺も駆け出しの鍛冶屋だったころは自分の加工槌が欲しくて兄ちゃんみたいに見たもんだ」
ヒロがやっているのはただのウィンドウショッピング。買う金も無いが、鍛冶屋に来て売られている刀剣類を物欲しそうな顔で眺めるだけである。
あぁ……。この剣良いなぁ。デザインがカッコイイし、何より魔法強化の祝福持ちは良いよなぁ。
そう思い値段を見て、すぐ次の剣に移った。流石に150万イルは不可能である。
ヒロが眺めているのは中級クラスの冒険者が少しばかり背伸びして買うような武器である。いつか自分が強くなった暁にはこの剣を買おうと心に決めて、初心者が背伸びをして買うコーナーに移る。
10万、15万、20万。どれもそれなりの値段がするがこのままのペースで貯金をすると三ヵ月いかずに手が届きそうな感じである。
「おっちゃん! 手入れ頼むよ!」
ヒロが商品を眺めていると、とても聞き覚えのある声が響いた。
「あれ? 黒瀬じゃん! 元気にしてた!?」
元気そうに語り掛けてくるのは槍をもった軽そうな男。
「藤村……。この間はありがとうな」
「気にすんなって! お互い様だよ」
ヒロは藤村……アキに命を救われた恩がある。けれど彼はその重みを感じていないのか、ヒロの言葉に笑顔で返しただけだった。
「おっちゃん、この槍オークの骨でかけちまったよ」
「オークだぁ!? この間冒険者になったばっかのガキがオークなんて手を出すもんじゃねえぞ」
「でもそんな強くなかったぜ!」
オーク。D級の魔物だ。オークを手こずらずに倒すことが出来る様になればその冒険者は立派な中級者だ。つまり、藤堂たちのパーティーはこの世界に来てから二週間と少しほどで、初心者を脱したのだ。
……あれ? 異世界慣れ(自称)してる俺より速くない?
「あーあ、完全に穂先が潰れちまってら。叩きなおすからちょっと待ってな」
「頼むよ!」
鍛冶屋の男はそういって槍を持って奥に入っていった。
鍛冶屋の中で二人残された。
……気まずい。
何を隠そう。俺はこの藤村みたいに何も考えないタイプの陽キャが一番苦手なのである。
「黒瀬、パーティー組めたの?」
「あ、ああ。四人パーティーだ」
「へえ。どんな編成してんのよ」
「男二人に女二人だよ」
「うちと一緒じゃんか!」
声が出けえよ。別に珍しくないだろ、その編成。
「そいや黒瀬ってなんの才能選んだの?」
「闇魔法だよ」
「ああ……」
そんなあっさり納得すんなよ。
お前ならそれを取るだろうという目で見てくるんじゃねえ。
「そういう藤村は……槍か」
「俺昔から槍で、敵をついてみたかったんだよねえ」
そういって藤村がシシシと笑う。
あーもうだめだ。きっついわ。
「そ、そっか。俺これから行かなきゃいけないとこあるから」
「おう! 今度俺たちのパーティーと一緒に狩りいこうぜ!!」
その誘いを苦笑いで受けながらヒロは鍛冶屋を後にした。
なんでこう、陽キャというものはこちらの壁をいともたやすく壊してくるのだろうか。
はなはだ不思議である。




