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外れを引いた異世界転移~世界を壊すは我にあり~  作者: シクラメン
終章 こんな世界も悪くない

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第01話 堕ちた英雄は救いを求める

 ベルムガルム皇国の南方に『吹き溜まり』という名の街がある。ここはどこにも行く場のなくなった人間が集まって、集団で暮らしを立てている場。と言っても、皇国もここには警察を配備せず、騎士団も存在せず、治安なんてものは最悪と言ってもいいほどだった。


 そこに一人、かつての英雄がいた。けれど、誰にも英雄などとは知られず、質の悪い酒ばかりを出す酒場で一人飲んだくれているのだった。


 「兄ちゃんよぉ、あんた最後に水浴びたのはいつだい?

 「いつだっていいだろぉ……。ってかこんな酒じゃ酔えねえよ。もっと強い酒ねえのか」

 「それがウチで一番強い酒だっつーの」

 「チッ、しけてんなァ」

 

 ヒロはそう言って酒を飲み干した。


 「ほら、金だ」

 「多いぞ、これ」

 「とっとけ。俺にはもういらねえ金だ」


 ヒロは三日間たむろした酒場を後にして外に出る。外に出るとこの街独特のすえた匂いが漂ってくる。アルコールと、タバコと、ドラッグと、ポーションが交じり合う匂いだ。


 「次はどこに行こう」

 

 二、三歩歩くとヒロの頭に掛かっていた霧が晴れてきて頭の中がクリアになっていく。体内に入ってきた毒物アルコールを身体が分解しきったのだろう。


 あぁ。まただ。


 酔いが覚めると、あの日のことをいつも思い出す。

 ロザリアが死んだ日。ガウェインが死んだ日。

 そして、ラウラが、アミが、ナナが、リリィが死んでしまった日。


 ヒロは腰につけていた革袋を手に取ると、一気にあおった。中身は高濃度の蒸留酒だ。すぐに酒が回ってきてわずかばかりの現実逃避になる。こんなことを繰り返して、既に一年以上の月日がたった。


 一体、俺はこの先どうなるのだろう?


 なんてくだらないことを考えて自嘲する。決まっている。この街のどこかで野垂れ死に、装備は追いはぎに会い、冒険者証ドックタグはどこかに売りに飛ばされるのだろう。


 「あーあ。みんな死なねえかなぁ」


 一時期は自殺も考えた。だが、ヒロには死ぬ勇気というものが欠片も存在していなかった。死ねなかったのだ。だから、こんなところでたむろっている。


 ヒロの胸元で、ガウェインとヒロの冒険者証ドックタグが触れ合って微かな金属音を立てた。


 ガウェインは、今の俺を見るとなんていうだろうか。


 ヒロはかぶりを振った。死者は何も思わない。彼らは何も考えない。何も言わない。

 全ては生きている者が何かに死者に代弁させるだけだ。


 「うぁぁあぁああああああああ。合成獣キメラだぁぁああああああああ!!」

 「逃げろ! 喰われるぞ!!」「皇国がこの街を消しに来たってのか!?」


 ふと、ヒロの向かい側から逃げてくる様々な人族たちがヒロとすれ違う。


 合成獣キメラは、完全に皇国と東邦連合オリエンタの主力になっていた。それがここに投入されるということは。


 「あぁ、やっと死ねるのか」

 

 皇国にとってもやはり、この街は持て余してしまうのだろう。それもそうだ。どこにも行かず、どこに行けない。そんないてもいなくてもいいような人間は、この世界に必要ない。


 見ると、体長3mほどの大きさの合成獣キメラたちがこちらめがけて走ってくる。どれもこの街の人間だけを殺すように調整された個体だろう。

 一体誰がしているのか、皇国と東邦連合オリエンタは完全に魔物の制御を可能にする術を手にしているようだった。

 

 ヒロはその場に立ち尽くして、自らが喰われるのを待った。


 だが、十秒たっても二十秒たっても一分たってもどこも喰われない。目を開けると、ヒロの周りだけを避ける様にして合成獣キメラたちが『吹き溜まり』の住人たちを喰いつくしていく様だった。


 あぁ、俺はここでも死ねないのか。


 気が付くと、身体が勝手に動いていた。条件反射的にこちらに一番近い合成獣キメラの身体を掴むと、力任せに振り回す。周囲の合成獣キメラがその一撃で半分以上吹き飛ぶと、ヒロは跳躍。壁際を走ると半分倒壊していた家から一番大きな柱を引き抜くと、それを合成獣キメラの群れの中心で振り回す。


 手当たり次第の合成獣キメラを狩ると、ヒロは他の合成獣キメラを探し始めた。


 【戦いを求めたな(・・・・・・・)?】


 腹のうちから響く声。それが、ヒロの呼び起された闘争心に火をつけてさらに加速させる。


 「久しぶりだな」

 【この一年半腑抜けたことばかりしやがって】

 「すまん」

 【いいさ。さぁ、暴れようぜ相棒】


 カタカタと絶刀が揺れた。

 ヒロは抜刀。ゆっくりと刀身が修復されていく。

最初から、こうだったのだ。絶刀こいつは戦いを求める。どこまでも、どこまでも、いっそ貪欲なまでに。


 だから、


 【もちろんだ。戦うためならなんだってやるさ】


 刀身すらも、治して見せる。


 気が付くと、街にきた合成獣キメラの全てを切り捨てていた。

 まだだ。まだ足りない。まだ、戦いたい。


 【いいねえ。それでこそ俺の相棒】


 強い相手と戦いたい。戦っている間だけは、忘れられるから。


 「英雄ってのは二つの末路がある」


 ふと、聞こえてきたのはヒロの背後。一切の気配を感じさせることなく、その男はそこにたっていた。

 

 「一つ目は、仲間や家族に囲まれて幸せな終わりを迎える」


 ヒロは刀を構えると、目の前の男を中心に見据えた。……底が見えない。


 「二つ目は、どこまでも堕ちていく。いっそ悪に染まるまでに」


 そうして、黒髪黒目の男はヒロを指さして笑った。

 

 「今の君みたいにね」

 「誰だ」

 

 ヒロの誰何の叫びに、男は微笑む。


 「今の僕が誰かなんて、そんなことはどうでも良いんだよ。しかし、妖刀使いが妖刀に飲まれるなんて、一体なんの冗談なのやら」

 「妖刀に飲まれる? はっ、これは俺の意志でこうなってのさ」

 「ふうん。ま、それなら良いんだけどさ。君に一つ用事があるんだ」

 「用事だと?」

 「ああ、死んだ人間を生き返らせてみたくはないか?」


 ヒロの心臓が高鳴った。


 「無論、代償が無いわけじゃない。この世界の理を壊す行為だ。世界そのものが敵になる。それでもやる覚悟がありそうな人間に声をかけて回っているんだ」

 【嘘だな。死んだ人間は生き返らない】

 「……方法を教えろ」

 【聞くなっ!】

 「ここじゃ言えない。企業秘密だ」

 「……無理だ、信じられない」

 「まあ、そうだろうね」

 

 目の前の男は何気無しに呟くと、黄昏を背景にヒロのもとに近寄ってきた。


 「僕は君に一つ恩があってね。それを返したいだけなんだ」

 「恩? 悪いが俺はお前にあったことなんて」

 「うん、無いだろうね。僕も無い」

 「なら、一体」

 「だからさ、力づくで君を連れて行こうと思うんだよ。これは、君以外では成功しないだろうからね」

 「やれるもんなら」


 やってみろ。と続けようとして、ヒロの足がゆっくりと男の影に沈んでいくのに気がついた。


 太陽を後ろにしたのは、影を操るためかっ!


 ヒロは力任せに飛び上がると、男の影から離れるため屋根の上に移る。


 「手前ェ……」

 「こんなの挨拶だよ。そう睨まないでくれ」

 

 男はそういって笑うと、二回ほど手を叩いた。


 それだけで、世界の時間が加速していく。信じられないほどの速度で太陽が沈むと、星が光初めて東から月が昇ってきた。そこで、手を叩く。その瞬間に、時間の流れが元に戻った。


 「闇魔法ってのは夜の方が使いやすい」

 「……お前は一体」

 「うん、流石に名乗ろうか」

 

 男はそう言ってヒロに向きなおる。


 「イグレス・バーニア。こう見えても闇属性魔法の権威でね」


 ヒロはとっさに漆黒の砲弾を五つ生み出して、イグレスを睨んだ。彼は、見ただけでその魔法を全て模倣して再現すると、ヒロに向かってこれまでで一番きれいな笑顔を見せた。


 「よろしく」


 そして、両者の砲弾が放たれた。

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