第2-24話 英雄 VS 英雄
「あぁぁぁぁぁあああああああああああああああああッ!!!」
人が死んだ。アナスタシアが死んだ。
断ち切られた頭には、ヒロに助けを求めた表情が浮かんだままだった。
「何で、何で何でだよぉ!!」
ヒロは駆け寄る。その手には上級治癒ポーションが握られている。人の首が胴体と離れてから死ぬまでかかる時間がおよそ四十秒。意識があるなら、治癒ポーションで治せる。
だがヒロが駆け寄るよりも先に、大通りの入り口の方で上がった声を、ヒロは聞き逃さなかった。
「コイツッ! 皇族の関係者だ!」「見た事あるぞ! 英雄の妹だ!!」
「……やばいっ!」
英雄の妹とはすなわちラウラのこと。そうか、あの髪と肌の色は皇族の関係者だったから故の色だったのか。
「ナナッ! リリィ! アミ! 逃げろっ! ラウラを守れ!!」
ヒロが肺の全てを使って吐き出した言葉を三人は確かに受け取った。ナナがラウラを担ぐと、空を飛ぶ。そのまますぐに壁の上に飛び移ると壁の上を走って群衆から離れる。
それをめがけて魔法が放たれるが、ナナはさらに加速。すぐさま見えなくなる――はずだった。
壁の上に跳びあがってきたのは二人の兵士。その二人を避けようとして宙に飛び上がった、その瞬間を狙いすましたかのような魔法がナナの胸に直撃した。
ヒロはそちらに駆け寄ろうとしたが、リリィとアミが群衆に囲まれているのを見て、そちらを優先した。
「ヒロ君!」
リリィの声を頼りに、人間の波を飛び越え二人の近くに着地する。ヒロは15%の力を吐き出すと、そのまま人の波を飛び越えた。
「逃げたぞ!」「追え! 絶対に逃がすな!!」
「めんどくさい奴らだ」
「すまない、ヒロ君。足を引っ張ってしまって」
「いい、気にするな」
ヒロの視線の奥にはボロボロになったナナの姿。
「ここは逃げるぞ! ナナ!!」
「承知した」
ナナは腰が抜けたラウラを掴んでそのまま壁の外へ逃げようとした瞬間、見えない壁にぶつかった。
「……何?」
「悪いね。ここは閉じ込めさせてもらうよ」
ふと、誰にも察知されることなく壁の上に現れた男がそう言った。彼の右手にはどこまでも虹色に煌めく剣。
「アルバーノっ!」
ヒロの叫びにアルバーノが微笑んだ。
「元気そうで何よりだよ。妖刀使い」
「テメエは相変わらずのようだな」
壁の上で二人がにらみ合う。
ラウラを守るようにして、三人が壁を作った。壁の外には逃げられないようにアルバーノが魔法で不可視の壁を作っている。
「まさかここで英雄と戦うことになるなんて思ってもみなかったぜ」
「それは僕もだよ。それに、君だって今は英雄だろ?」
「言ってろ」
それが戦いの皮切りだった。ヒロは地面が砕けるほどに激しく踏み込んで飛び出した。
一瞬で初速にのるのは力任せの強引な方法。切り裂こうと加速して、そのまま通りぬけるがそれはアルバーノに当然のように見切られている。
【武装展開:刀身延長】
ヒロの魔力を使って伸ばされた刃とアルバーノの魔剣が接触し、全てを断ち切る【煌剣】がヒロの刃をそのままバターのように切り落とした。すぐさま妖刀がヒロの魔力を喰らって刃を延長する。
「『捻じれて、放て』」
ヒロの言葉によって背後に生み出されたのは三十を超えるほどの漆黒の砲弾。それら全てがギュルギュルと音を立てて回転すると、一斉に放たれた。
「往くぞ」
それはアルバーノの短い宣言。次の瞬間、両者がトップスピードに乗って人間の視界から消えた。
アルバーノは近寄ってくる砲弾を、斬って、弾いて、捻じって、逸らして、跳ね返した。
ヒロはこちらに返ってくる砲弾を『魔逸らし』と『魔押し』で弾くと、アルバーノと打ち合った。金属がぶつかるような音はせず、ただ空気の衝撃だけが二人の間からはじけた。
「煌剣が斬っていく端から魔力によって修復しているのか。君も中々な使い方をするようになったね」
「こんなのまだ、序の口だぜ」
ヒロは力任せにアルバーノを弾くと加速して、後方に回る。そのまま背中を斬り上げようとするが、アルバーノが生み出した魔法の壁がヒロの斬撃を防ぐ。大きく壁に弾かれたヒロに飛んできたのはアルバーノの飛び蹴り。
『常闇の帳』によって防御祝福がかかっているというのにも関わらず、ヒロの内蔵にダイレクトに衝撃が伝わってくる。そのまま後方に飛ぶことで衝撃を緩和し、ヒロは体勢を立て直すと、追撃に飛んできたアルバーノの剣を皮一枚で回避すると、顎を掌底で打ち上げる。
「まさか、この僕とここまで打ち合う人間がいるとは思わなかったよ」
「ああ、先に一勝しているからな。俺の方が強いのは自明だろ?」
「ははっ、確かにそうだね。だからさ、こういうのはどうだい?」
アルバーノは、指を鳴らすと壁の上にいた四人が不可視の壁に押されて地面に落ちた。
「手前ッ!!」
「速く助けないと、みんな死んじゃうよ?」
壁の下には多くの帝都民が押し寄せていた。彼らが壁の上に駆け寄ってこられなかったのは、ヒロとアルバーノが激しい攻防を繰り広げていたから。
だが、アルバーノによって狙った人間たちが落ちてきたということは。
「捕まえろ!」「殺せェ!!」
「畜生!!」
「ああ、勿論。行かせないけどね」
ヒロが壁下に助けに行こうと動いたのは、アルバーノには既に読み切ったことだった。
彼は、ヒロの背中を大きく斬りつけて、蹴り飛ばした。
「……ッ!!」
ヒロの身体が壁下に落ちる。落下しながらヒロが見たのは、ラウラを殴り、蹴り、ひたすらに暴力を振るっている帝都民たちと、同じように帝都民に手を伸ばされようとして、必死にあらがっている三人の姿だった。
「……畜生」
みんながてこずっているのは、一重にヒロが殺すなと言っているからだ。
もし、殺すなと言わなかったらこんなことにはならなかったのだろうか。それとも、今と同じになっていたのだろうか。
俺の不殺は、間違いだったのだろうか。
ふと、一つの涙がヒロの頬を伝って。
ドッゴォォォォオオオオオオオオオオオンッッッ!!!!!!!!
激しい爆発音とともに、新たな乱入者が帝都に現れた。
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