第2-30話 英雄、侵略を食い止める
「先に行くぞっ!」
ヒロは馬車の窓を開くと、馬車から外に飛び出した。
「ヒロ殿、ご一緒するでござる」
ナナがその後ろに続く。ヒロは地面を蹴ると、さらに加速した。
「飛ばすぞ、ついてこいッ!」
「勿論でござる」
ヒロは全力の30%を発動。一気に身体が前方へと飛ばされる。だが、ナナはその後ろにしっかり食いついてきた。流石は吸血鬼というべきか。
二人で走ること五分。二人は勢いそのままに市壁を駆け上ると、アレアの街を見下ろした。
「これは……、どういうことでござるか」
ヒロ達の目の前に広がっているのは、軍服を包んだ男たちが街を燃やしている光景だった。
「……あの軍服、王国か? 王国の軍隊がどうしてここにいるんだ」
王国とは共和国の北に面しているピエド王国のことだ。ヒロとリリィは一度だけ、地下迷宮攻略で訪れたことがある。とにかく男も女も高身長で、やりづらかった記憶がある。
「とにかく、止めるぞ。この街は俺にとっての故郷みたいなもんだ」
「了解したでござる」
「俺が指揮官に話を付けにいく。それでも止まらないようなら、痛めつけても構わない」
「……殺さない方針でござるな?」
「勿論だ」
ヒロは市壁から飛び降りると、白色の冒険者証がよく見える様に胸元に出すと、一人だけ階級が違う男の元に駆け寄った。
「何をしているッ!」
「貴様、どこから……。……白色冒険者か」
指揮官の男は何かを言いかけて、ヒロの胸元の冒険者証を眼にいれた瞬間、苦虫を嚙み潰したような顔をした。
「何、これは仕事なのですよ。冒険者殿」
「仕事だと? 俺の故郷になんの仕事だ」
「…………これは、申し訳ない。申し訳ないが、我々ピエド王国は三日前に、共和国に対して宣戦布告をした。侵略も仕事でね。見逃してくれると、ありがたいものです」
「馬鹿いうな。今すぐやめろ」
「ええ、勿論。そうおっしゃると思っていましたよ」
指揮官の男がそう言って、腕をまっすぐ振り上げた瞬間。ヒロとナナめがけて全方向から魔法が放たれた。
だが、
「舐めるな」
ヒロはその全てを、『魔逸らし』と『魔押し』で、あらぬ方向に持って行った。
「……ッ!」
指揮官が息をのむ。
「やれッ! 殺せ!!」
「ナナ、あとは任せた。俺は前線の人間の救助に向かう」
「うむ、任されたでござる」
ヒロはその場から離脱。無論、周りの男たちも止めに入るが全力を出したヒロをその目で捉えられるものはその場に誰もいない。故に、彼らの標的はナナに絞られる。
「女だと油断するなよっ! 白級冒険者の仲間だっ!!」
ナナが腰元からゆっくりと剣を抜く。隙だらけだというのに、誰も攻撃しようとしない。否、出来ない。
空には、大きな満月が浮かぶ。ナナはその光を余すところなく浴びながらゆっくりと剣を手にとった。
「名乗りも無しに、とは無礼にあたるな」
ナナの金髪がゆっくりと透き通っていく。それは、まるで月の光のように優しい色へと変化する。
「第四真祖の来孫が一人『血喰』のナナ。ナナ・イム・ダスクリャートがお相手つかまろう」
「貴様ッ、吸血鬼かっ!」
指揮官の言葉で、周りの男たちの息が一瞬、止まった。吸血鬼はどれだけ弱くとも、B+級の魔物に該当する。そして、そんな彼らの中でも真祖の血脈である二つ名持ちの貴族は、帝竜や神狼と同格の最強種の一角。
そんな化け物を相手出来るのは、当然ながら白級冒険者(それなりの人間)しかいないのだ。
「我らのリーダーの命である。命は取らない。殺しはしない」
ナナはゆっくりと、指揮官の元に近づいていく。
「だが、それ以外の全てを頂くでござるよ」
そうしてナナの刃が夜を斬った。
「今すぐ火を放つのをやめろっ!」
ヒロの言葉に兵士たちはちらりとヒロを見ると、刃を抜いた。当然だろう。彼らの邪魔をするのはすなわち共和国の人間以外いないのだから。
クソっ、めんどくさい。
ヒロは抜刀すると、絶刀を起こす。
「刀身を伸ばせ」
【了解】
【武装展開:刀身延長】
ずるり、とヒロの身体から魔力を奪って目に見えぬ刀身が生み出される。
「悪く思うなよ」
その言葉は果たして兵士たちに届いたのだろうか。
ヒロが駆け抜けた一瞬後には、脚や腕を断ち切られた兵士たちが転がった。
「誰かお母さんを助けて!」
ヒロが走っていると、そんな声が少し離れた場所から聞こえた。二年ぶりの街にわずかに戸惑いながらも、昔ながらの土地勘を使って声の場所に駆け寄ると、そこには瓦礫に挟まれた母親と、それを助けようとしている子供の姿。
「今いくぞッ!」
後ろからは火が迫っている。ヒロは50%の力で瓦礫を掴み上げると、そのまま火の海めがけて投げ捨てる。数百キロはありそうな瓦礫が宙を舞って落ちていく最中を、子供も母親も目を丸くしてみていた。
「立て……ないよな。これを飲んで」
母親の両足は瓦礫によってぐちゃぐちゃになっていた。
そんな中、ヒロが差し出したのは中級治癒ポーション。言われるがままに口に含んだ母親の両足が光に包まれると同時に、元に戻る。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
「礼はいい。今は逃げることだけ考えてくれ」
ヒロはそう言い残すと、前線で火を放ち続ける兵士たちを力づくで止める。
「化け物めッ」
ヒロと一合だけやりあった兵士がそう言った。
「英雄と呼んでくれ」
ヒロは後ろを振り返ることなくそう言うと、今度は助けと泣き声が聞こえる方に脚を運ぶ。
ナナは今頃、上手くやっているのだろうか。
ふと、そんなことを考えた。
「楽しいでござるなぁ! そうは思わぬか、人間たち!!」
ナナは狩った人間の血液を刃にまとわせて刀身を延長すると、吸血鬼の力任せに剣を振るっては、兵士たちを狩っていく。最初に斬り飛ばしたのは、ナナの後ろから襲い掛かった兵士。
両足を断ち切るとそのまま地面に転がったので、彼を足蹴に宙に舞い、さらに後方にいた男たちの両腕を断ち切った。出血は激しいが、すぐに適切な処置をすれば死ぬような傷ではない。
無論、そんなナナを倒さんと兵士たちは魔法と剣と人数でナナに猛攻をしかけるがそれのどれもナナは効かない。届かない。
「駄目だ、正面から向かうな! 息を合わせろ、単独で挑むと負けるぞ!!」
指揮官が兵士たちに指示を送る。
「どちらにしても変わらぬよ」
ナナの宣告は月の光のように冷たく、辺りに響いた。
血の刃とともに、銀の姫が舞う。一つ腕を振るう度に、いくつもの腕と足が飛ぶ。夜が彼女に圧される。誰も死なないパレードは、夜が明けるまで続いた。
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