第2-19話 英雄、アレアの街に戻る
帝都に滞在して二週間ほどたったころ、『境界都市レルト』が陥落したという知らせがヒロ達に届いた。
「ここも危ないかもな」
「帝国と共和国が同盟を組んだからな、必然的に次のターゲットは帝国になるだろう」
ヒロとリリィは向かいあって、紅茶を飲みながらゆっくり会話していた。ナナとアミは買い物に、ラウラは家族の元に帰っている。
「そろそろここも潮時だな」
「帝国が危ないからと言って次はどこに向かうというんだ?」
「北とかどうだ? ピエド王国とか」
「これから冬になるのに北の国か……。私は良いが、あとの三人がなんと言うかだな」
「戦火に巻き込まれるよりも、寒さに耐えるほうが楽だとは思うけどな」
「ヒロ君のいうことも分からないではない。けど、ピエドの寒さは堪えるぞ」
「行ったことあんのか?」
「ああ、一度だけだが」
「うーん……」
「皇国、という選択肢はないのだろう」
「ああ。進んで人殺しをするような連中のもとに行きたくはない。それに、皇族は守ってくれるだろうが、潜んだやつらが痕機を奪いに来ると俺としても休めないからな」
「……皇国にはだいぶ恩を売ったから、なんとかなると思ったのだがな」
「アレアの街に戻ってみるか?」
「アレア、にか」
リリィが少しだけ眉をひそめた。
「いや、ありだな。うん、アレアの街なら戦火から離れているし冬もそこまで寒くない。おだやかに過ごすなら結構良いぞ」
「よし、なら明日出発しよう。アナスタシアに言ってくるよ」
ヒロは紅茶を飲み干すと、アナスタシアの元に伝えに言った。
彼女は渋い顔をしたが、ヒロが言うのならと言って納得してくれた。どうして渋い顔をするのかと、ヒロは聞きたかったが、それよりも先にアナスタシアは予定があると言って仕事をしにどこかに行ってしまった。
「……そういえば最近仕事してないな」
一週間前に冒険者ギルドに立ち寄り口座の残高を確認すると、信じられないほど増えていたので冒険者を続ける必要もないのだが。
それでもこの世界にやってきて二年間、やめることが無かった人生初めての仕事だ。それなりに愛着もある。
この世界にやってきて食べるものにも苦労していたころを思い返せば、なんと贅沢な悩みだろうか。
ヒロは運び屋に話を付けに街に消えて行った。
翌朝、五人は運び屋の馬車に乗り込んでいるとアナスタシアが見送りにきた。
「短い間だったが、お主に恩を返せたようでうれしかったぞ」
「大したもんでもないさ。アルバーノによろしく言っておいてくれ」
「うむ。ではな」
「ああ、戦争がすぐに終わるといいな」
ヒロの言葉にアナスタシアは深くうなずいた。
「また会おうぜ」
ヒロはその言葉を最後に馬車に乗り込んだ。
この時、交わした言葉がアナスタシアとの最後の会話になるなどこの時は思ってもいなかった。
「アレアの街までどのくらいかかるんですか?」
「ここからだと、2週間くらいかな」
「け、結構かかりますね」
「まあ、普通の馬車だからな」
黒曜馬は寒さに弱い。これから冬になっていくアレアの街には向かえないのだ。
「まあ、ゆっくり行こうぜ」
戦の炎から逃れられればなんだって良いのだ。ヒロはただ、自分の目の前で命が奪われていくのを見たくないだけなのだから。
がたがたと馬車は進んでいく。岩の乾燥地帯を乗り越え、湿地帯を抜けると、今度は山脈に差し掛かった。山の反対側が共和国だから、山さえ越えることが出来ればすぐにでも迎えるのだが、流石に五千メートルを超える急峻な山を越えることが出来るほど、この世界の馬は強くはない。
故に大きく迂回するようなルートを取る。道中で数回ほど、魔物に襲われたがヒロ達がすぐに撃退した。
その日は、山脈の裾にある村に泊まった。その村は、ハーピーなどの飛行型の魔物に困っていると言っていたので、ヒロ達が狩るとひどく喜ばれた。
次の日も、その次の日も、山脈を眺めながら移動した。宿泊した村々の問題を解決して、周った。
辺鄙な村には、冒険者は訪れない。依頼を出そうにも、村には報酬を支払えるだけの金が無い。だから、魔物の問題をただ黙って見過ごしているような村は少なくないのだ。
故に、ヒロ達が訪れると村長がやってきて、魔物の狩りを頼まれる。
「英雄みたいなことをしていますね」
五日目の馬車の中でラウラにそう言われた。ようやく山脈を通り過ぎて、低くなった山を越えようとしていた時だった。
「そうか? 俺はやることをやってるだけだぜ?」
ナナも、リリィも、アミもすっかり寝てしまって起きているのは二人だけだった。
「でも、他の人には中々出来るものでもないですよ」
「冒険者ならやって当たり前だと思うけど、そうでもない連中もいるからなぁ」
「お金にがめつい冒険者なら、依頼料を取りますからね」
「まあ、別に俺は金に困ってないから貰わないだけで、生活に困窮する人間が金を求めるのは別に悪いことじゃないと思うぜ?」
「何事にも、限度ってものがあるんですよ」
「そうだな、その通りだ」
そうして、ヒロ達は共和国へとまた戻ってきた。
そこからはただ、北上するだけ。山を下り、川沿いに延々と馬車を進める。夜には近くの村や街によって、そこで宿泊した。やはり共和国でも、村はどこも魔物に困っておりヒロ達は大いに歓迎された。
ヒロ達はそれとなく戦争の話を振ったが、やはりというか誰も自分たちの出来事であるとは認識していなかった。それも、『境界都市レルト』からこれだけ離れれば当然か、なんてことを考えた。
そうして、ヒロ達が共和国入りしてから一週間ほど経った夜、既に日は暮れているが、魔法の灯りを使って『アレアの街』まで馬車を進めていた。別にヒロ達が早く着きたいがために馬車をせかしたわけじゃない。アレア以外に、近くに村も街も無いからである。
「ねえ、みんな。なんかあそこ明るくない?」
することも無く、馬車の外を眺めていたアミがそう言った。
ヒロ達が馬車の外を眺める。……確かに、アレアの街の方角が明るい。
「……どういうことだ?」
日の入りはもう1時間ほど前のことだ。だというのに、街のあるほうがひどく明るい。
その理由は、すぐにでも見えてきた。
「……街が、燃えてる」
アレアの街が、火に包まれていたからだ。
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