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外れを引いた異世界転移~世界を壊すは我にあり~  作者: シクラメン
序章 強くなければ意味はない
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第06話 来訪者、スライムを狩る

 「ヒロの初魔法を祝って!」

 「「かんぱーい!」」


 ガウェインの音頭でローブ二人がグラスを掲げ、それに合わせる様におずおずとヒロが掲げた。ヒロは一口果実酒を飲んでコップを下ろしたが、ロザリアは中身を一息に飲み干して口を開いた。


 「いや~、ヒロ。あたしは絶対魔法使えると信じてたよ。やっぱりガウェインが見込んだだけはあんねぇ」

 「うわっ、酒くさっ。え、ロザリア。何飲んでんの」

 「蒸留酒の原液よ」

 「割れよ、死ぬぞ」

 「馬鹿ねえ。弟子が初魔法を使ったってのに、酔わないでどーすんのよ」

 「えぇ……。俺、弟子になっての?」

 「あったりまえでしょ! 天才魔法使い、ロザリアの一番弟子よ! 誇っていいわ」

 「そりゃあ、どうも……」

 「治癒魔法の練習がこれから少なくなるのは残念だけど、ヒロ君が怪我しなくなって私はうれしいです!」

 「ありがとな、リリィ。俺が魔法を使えるようになったのも怪我しても大丈夫だっていう安心感があったからだよ」

 「えへへー」

 

 照れくさそうにリリィが笑う。ロザリアは店員にお替りを要求していた。

 蒸留酒の原液を一気飲みして、まだ追加で飲むのか。大丈夫か? つぶれねえか?


 「しかし、召喚系の魔法とはね。盲点だったよ」

 「ああ、俺もだよ」


 初めて魔法を使ったヒロは、直観で自分になんの魔法適正があるのかを知ってしまった。ヒロの魔法の能力は、死にかけた時の敵の攻撃を模倣し、再現する魔法。キラービーに連れ去られたとき、ヒロは藤堂たちの助けが無かったら死んでいた。それゆえに、あの時キラービーが召喚されたのだろう。

 説明するといろいろ面倒なことになりそうなので、召喚系の魔法だと言ってごまかしているが。

 

 「でもこれで、晴れてヒロも魔法使いだ。僕たちのパーティーはもっと上を目指せる」

 「意外と野心家なのか? ガウェイン」

 「男なら、冒険者で一山当てたいと思うもの。でしょ?」


 ガウェインは爽やかに笑う。ヒロはそれに笑って応えた。

 確かにそうだ。


 「たーしかに、私たちは良いパーティーになりそうだもんね」


 既に酒が回ったのか、ヒロにもたれかかってくるロザリア。

 あ、すっごい良い匂いする。というか、二杯でそうなるならハイペースで飲むなよ……。


 「もしかしたら『暁の星(ヴェヌニア)』だって越せるかも知れない」


 ガウェインの言葉に三人が顔を合わせて、笑った。

 『暁の星(ヴェヌニア)』。冒険者をやっていて知らぬ者はいないだろう。伝説の剣を使う英雄と、全てを防ぐ盾を持った騎士。そして上級攻撃魔法が使える賢者に上級治癒魔法が使える聖者。

 冒険者の歴史を語るにおいて彼らは決して欠かすことの出来ない伝説のパーティーだ。だから、新人の冒険者たちは皆彼らに憧れ、彼らのようになりたいと羨望する。


 「あ、明日はどうするんですか?」

 「明日はE+の魔物、スライムを狩りに行こうと思う」

 「す、スライムですか。強敵ですね……」

 「スライムってE+なの……?」

 「そうだよ、知らなかったの?」

 

 E+。E+と言えばキラービーと同じくらいの強さを持つということだ。

 魔物のランクは全てギルドがつけている。そこに一分のミスも存在しない。


 でも、スライムだろ? あのぷよぷよしてそうで水色をした、アイツだろ?

 キラービーと同じほどの強さがあるなんて到底思えないんだが……。


 「どんな魔物もあたしにかかれば一撃よー!」


 すっかり出来上がったロザリアの声が、喧噪とした酒場に響いたのだった。



 翌日


 「あ、頭痛い……」

 「昨日何も考えずに飲むから」

 「弟子の初魔法は祝わなきゃダメでしょ……」

 「リリィ、二日酔いって治癒魔法で治せないの?」

 「け、怪我してないから無理ですよぉ」

 

 E+の魔物に向かうというのに肝心の火力源が二日酔い。

 

 「幸先悪いなぁ……」

 「ロザリアに頼りすぎも良くないということだよ。僕たち前衛が頑張ればいいだけさ」

 「気楽に言うなよ……」


 割と心配性のヒロは不安で仕方がないが、四人いるから何とかなるという気持ちも持っている。キラービーに殺されそうになった手前、E+の魔物に油断は出来ないが、心配しすぎても仕方ないのだろうか。


 「スライムは水場付近によくいるらしい。今日は川をさかのぼってみようと思う」

 

 ガウェインの言葉にうなずく。

 そうして、四人はいつものように街を出ると、いつもとは別方向へと足を向けた。

 一時間ほど、さかのぼっただろうか。あたりは草原から森へと移り変わっていた。

 

 「この森、なんか薄暗いな」

 「そう? どこの森もこんなもんだよ」

 

 なんだろう。キラービーに連れ去られた時のことを思い出す。

 あの時、森の奥に入った時がこんな感じの薄暗さだった。


 しばらく川にそって歩いていると、突然開けた池に出た。

 ガウェインが腕を突き出して、これ以上先に進むなと三人を静止させる。

 

 ヒロは木に隠れるようにして池を眺めていると、一か所水の中に不思議に蠢く場所を見つけた。


 「あれが、スライムか」

 「そうだよ。見つかってない今がチャンスだ。ロザリア、魔法を」

 「今魔法を撃つのは辞めといたほうが良いわよ。池の深さが分からないからせっかくの魔石が無駄になるわ。あー、頭痛い」

 「なら、上がってくるまで待とう」


 しばらくそうして木々の間に隠れていると、蠢く水面が移動を始めてゆっくりと陸地へと上がってきた。


 え、あれがスライム? 汚ったねえ……。


 その姿はさしずめ動くヘドロといった感じだろうか。茶色の粘性の生き物が、体中に落ち葉や折れた枝を纏ってゆっくりと水際を動いている。


 「行くわよ。『燃えて貫け』」


 一小節の初級魔法。初級中位の火属性魔法はロザリアの手元で二メートル近い槍の姿になるとスライムめがけて目にもとまらぬ速さで突き刺さり、貫通した。

 スライムがその身体を大きく揺らす。


 「行くよ、ヒロっ!」

 「ああっ!」


 二人合わせて飛び出す。その姿に気が付いたスライムが身体を大きく絞った。


 「頭を下げて!」


 ガウェインの言葉に従ってヘッドスライディング。

 次の瞬間に、ヒロの頭があった高さに飛んできた水球が空を横切り、木に着弾。そして、音を立てて貫通した。

 え……? 俺、ガウェインの言葉に従わなければ死んでたの?


 スライムが元の大きさに戻った瞬間に、ガウェインが剣を振り下ろす。液体だから斬れないと思っていたが、予想に反してぱっくり綺麗にスライムが裂けた。

 そこから見えるのは黒い核。ガウェインは躊躇いなく腕を入れると、核を手で掴んで、握りつぶした。その瞬間、ぱしゃりと音をたててスライムの身体が液体に戻る。その中にはゴブリンのものより大きな魔石。


 「ひ、ヒロ君。怪我ないですか!」

 

 リリィが駆け寄ってくると、ヒロの身体を確かめて怪我がないことを確認すると露骨に残念そうな顔をした。なんでやねん。

 

 「あぁー。二日酔いが効いてるわ……。これさえなければ一撃なんだけど」

 

 ロザリアが本当にしんどそうに言った。

 これに懲りたらもうあんな無茶な飲み方をしないように。


 「じゃ、残り四体。狩っていこうか」


 えぇ……。これ後四回もすんの……?


 ガウェインの言葉に、ヒロは顔を大きく顰めた。


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