第2-18話 英雄、皇女の護衛を務める
ヒロは戸籍がないため(そもそもこの世界に戸籍という概念は存在しないが)、どこの国の所属かと聞かれると困るのだが、一応この世界にやってきたときは共和国に出たので共和国民と言えるだろう。そんな共和国の最高責任者をまさか帝国で見ることになろうとは思いもしなかった。
「同盟? まさか、世界最大の冒険者数を誇る共和国が帝国に泣きついてくるとはな」
「……返す言葉も無いですね。我らは軍を鍛えなかった。そのツケが回ってきたのですよ」
「同盟を組むのに反対するわけではない。共和国の次は帝国だろうからな」
「えぇ、痕機を手に入れるだなんて言ってはいますが、地下迷宮の管理は冒険者ギルドがやっていますからね、戦争をふっかける相手が違います。恐らくは帝国の地下資源が目的でしょう」
「うむ。我らからは二個師団を出そう。それ以上出すと、今度は防衛が危うくなる」
「感謝します。では我々には出せるものが金銭しかないがそれで手を打ってはもらえませんか」
「分かっておる。共和国に軍を出せなどという馬鹿を言うものはおらぬだろう」
……共和国の軍、貧弱過ぎない?
「……待て、連合の戦術は分かっているのか?」
愚問だろうか。だが、あの合成獣が軍隊でどうにかなるとは思えない。
「ん、私は把握していないが……。まあ、軍部の奴らが分かっていればいい」
「護衛が口を挟むとは……白級冒険者? これはとんだご無礼を」
嫌というほど見慣れた掌返しをスルーして、ヒロは二人に言った。
「連合側は一切の人間をこちらに寄越していないと思うぞ、俺は帝都に来る際に連合側の……恐らく主戦力とぶつかったが人は一人もいなかった」
「人がいない、とはどういうことですか?」
「アイツらは合成獣と呼ばれる人造の魔物を使って攻撃してきている。合成獣の特徴は人間のパーツを組み合わせた醜悪極まる見た目に、魔法を吸収して反撃してくるという特性を持った魔物だ。対処方を知らなければてこずるぞ」
「対処方とはなんだ、妖刀使い」
「魔法を封じて地道に攻撃するか、もしくは奴らが吸収できないほどの火力で押し切るかの二択だ」
「貴重な情報感謝する。後で軍部の奴に伝えておこう。では大統領、もう少し煮詰めるとするか」
その後ヒロは二時間ほど彼らの談義を見つめていた。
「それは災難だったでござるな」
そういってからからと笑うナナをヒロは辟易した顔で見つめた。
「笑い事じゃねえよ……。蠍には情報ばらまかるし……」
「流石に口止めしておらぬヒロ殿が悪いでござるよ」
「その通りなんだけどさ」
二人が歩いているのは帝都のメインストリート。依然来た時はまさにとんぼ返りだったので、観光も何もできなかったのだ。戦火を逃れて帝都にやってきたので、しばらくは冒険者稼業を休みにして、帝都で観光としたわけだ。
ちなみにリリィもアミも帝国の服でファッションショーを楽しんでいる。ヒロには二時間退屈な時間を既に過ごしている上に、意見を聞かれても碌な回答が出来ないのでナナと抜け出したというわけだ。
「……そういえば、吸血鬼って昼でも普通に生活できるんだよな」
「まあ、私たちは夜行性なだけでござるからな。しかしヒロ殿、吸血鬼が太陽の光で死ぬなんて一体どこで聞いたでござるか?」
「元の世界だとそうだったんだよ」
「ヒロ殿の世界の吸血鬼は、大変でござるな」
「いや、吸血鬼なんていなかったよ」
「!?」
驚いた顔をして固まったナナを見てヒロは笑うと、帝国の郷土料理を売っていた屋台で小腹を満たせるだけの量を買って再び歩き始めた。
「食うか?」
「少しいただくでござる」
肉を甘辛く揚げたものをナナがほおばっているのを眺める。
吸血鬼って血液以外のものも口にするんだな。
「ヒロ殿はやりたいこと見つかったでござるか?」
ふと、聞かれたことにヒロは詰まった。
「やりたいこと?」
「何、出会う前に双極絶死の話を聞いていたでござるから、特壱級痕機を見つけた今、ヒロ殿は一体何をしたいのかと思った次第でござる」
「やりたいことか……。そういえば前にもこんなこと聞かれたな」
あの時は特に目的も、何も考えずに答えた気がする。
ヒロはこの二年間、ただひたすらにガウェインたちを生き返らせようとして、全身全霊を尽くしてきた。でも、死者をよみがえらせるだけの魔法は流石のヒロも使えない。だから、特壱級痕機に頼ったが、それほど優れたものは見つからなかった。
なら、俺は一体何を目的に生きて行けばいいんだろう?
「やりたいこととか、無いのでござるか?」
「やりたいこと?」
……そんなもの。
無い。それは元の世界にいた時からずっとそうだった。だから、新しい世界にいけば何か満ち溢れた世界が待っていると思っていた。でも、違った。結局、自分が変わらないことには異世界に来たところで何も変わらないのだ。
「今は平和に暮らしたいなぁ」
「えっ、冒険者がそれを言うのでござるか……」
「冒険者だからこそだよ」
異世界に来たから、冒険者にならないといけないという強迫観念にも似たものでヒロは冒険者になった。でも、別にそんなことは無かった。命の危機に身を置かなくても、ヒロはこの世界で生きていけることが出来たのだ。
「ふむ、戦争中だからこその発言かも知れないでござるな」
「まあな。前の世界で住んでいた国は戦争をしていなかったから、余計にそう思うのかもな」
「なら、戦争を終わらせるというのはどうでござるか?」
「俺が、か? ははっ、そんなことが出来たらとんでもねえことだよ」
「『暁の星』なら、出来るでござるよ」
「……アイツらは、化け物だよ。同じ白級冒険者でも、年季も実力も、何もかもで天と地ほど違う」
「そうでござるか? 私はそうは思わないでござる」
それは実際に襲われたナナだからこその意見だろうか。
「それに、戦争を終わらせるってなるとどうせ実力行使になるだろ? 俺は誰も殺したくないんだ」
「ヒロ殿は優しいござるからなぁ」
そんな他愛ない話をしながら、沈んでいく夕日を見て平和とはこういうものなのか。なんて慣れないことを考えた。
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