第2-17話 英雄、侵略を止める
「馬車を止めるなッ! 迂回しろ!!」
ヒロの言葉にビビっていた運び屋が噛みしめる様にして、馬を加速させた。
「ヒロ君、何をっ!」
「……ずっと、思っていたんだ。俺の魔法は、死にかけた時の攻撃を再現する魔法だから」
ヒロは馬車の窓から馬車の屋根へと移り変わる。ヒロは屋根に短刀を突き刺し、落ちないように身体を固定すると、目の前にいる化け物たちをしっかり見据える。
「死にかけた攻撃を再現するのか? それとも、命の危険に瀕した攻撃を再現するのか?」
……それなら、
「死んだときの攻撃も、再現できるんじゃないか?」
魔法は飲み込まれる。だが、魔法でないのなら、飲み込まれない。
「『天は裂け、地を砕き、無意味な命は零になる』」
ヒロの身体から膨大な量の生命力、魔力が消費されていく。その瞬間、それに呼応するようにして空が暗くなっていく。ぐるりぐるりと魔力が渦巻き、世界を切り裂いてそこに現れるのは大きな夜空。
晴天の昼間の中に、唐突に一部だけが夜空になったのに合成獣も、運び屋も、そして馬車の中にいる仲間たちも驚いたまま、固まる。
そして、そこからたった一つの岩石が夜空を飛び出して合成獣めがけて落ちてくる。
大きさは15m。時速4万キロを超える隕石が合成獣の中心めがけて放たれた。ヒロは着弾の瞬間に、壁を生み出す。その刹那、
ドッゴォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!
激しい轟音と、まばゆい光に包まれた。激しい衝撃波と、鼓膜を破りかねない音が辺りを包んだ。鍛えられた黒曜馬も、驚いて足を止め馬車が急停止する。その瞬間にヒロはドーム状に壁を展開した。いくつもいくつも飛び上がった岩石が降り注ぐ音が辺りに響く。
「なっ、何をしたんですかっ!!」
「心配するなラウラ。じき収まる」
ヒロの言葉の通り、三十分も経たないうちに空からの岩石が停まった。ヒロが魔法を解くと、辺りの景色が一変していた。先ほどまで『レルト』を目指して突っ走っていた巨大な合成獣たちは一匹としてその姿が残っておらず、先ほどまでの真っ平らな大地は大きく陥没してしまっていた。
「……これは」
「俺と、アミはこの世界に来る際に一度死んでいる。無論、あの岩は早すぎて見えなかったが、それでも死んだというなら俺の魔法は使えると踏んだんだ」
「よく分からないけど、とんでもない魔法を使えるようになったんだな。ヒロ君は」
「これって……もしかして私たちが死んだ隕石ですか?」
「その、再現だ」
「……ッ」
アミが息をのむ。隕石というものがよく分からない三人は、目の前のクレーターをみて唖然としている。
「敵も消えたし、帝都に逃げるか」
ヒロの言葉に黒曜馬がヒヒンと鳴いた。
「久しぶりだな、妖刀使い。見ない間に一人女を増やしたのか」
「なんつー言い方するんだ。仲間だよ」
帝都に着くやいないや、アナスタシアに捕まった。黒曜馬から降りた後、身分確認をした際に白級冒険者なんぞが帝都に来たものだから、皇族に連絡が飛んだのである。
「ふむ、まあそういうことにしておこう。お主は我が国を救った英雄だ。ゆるりと休んでいけ。宿は城の一室を使うと良い。食事もこちらで出そう。もう従者には話を付けておいたから好きに振舞うと良いぞ」
「助かる。……アイツは元気にしてるか?」
「ん、新しい鉱山の発掘部隊の護衛をやっているよ。研究者たちからは頼もしいと評判だ」
アナスタシアの言葉にラウラが少し安心したように息を吐く。
「そりゃよかった。生きてりゃ何でもできるからな」
かの英雄も元気にしているようで何よりだ。
「ヒロ、お主には少し話があるからついてこい。後の者はそこのメイドについていけ。一人一室貸し出そう」
「話ってなんだよ」
「ここでは話せぬ。ついてこい」
「あいあいさー」
「話ってなんの話でござるか?」
「えっちなやつでしょ、えっちなやつ!」
「アミさん。そんな大きい声でいうもんじゃないだろう……」
おうおう、皆さん好き勝手言いなさる。
そんな彼女たちを放っておいて、ヒロはアナスタシアに連れられて部屋から出た。
「んで、話って何だよ」
「一つ目は依頼だ。これからの会談における護衛を頼みたい」
馬鹿みたいに長い廊下を二人で話しながら歩いていく。
「幾ら払う」
「宿代だ」
「ケチくせえな。まあ、一宿一飯の恩っていうし、受けてやるさ。それで、一つ目があるなら二つ目もあるんだろ?」
「ああ、二つ目は聞きたいことだ。お前が手に入れた特壱級痕機、本当に特級魔法が使える様になるのか」
「どいつもこいつも、どこで情報を手に入れてんだ……。まあ、そうだ。魔石は消費するけどな」
「とんでもない痕機を見つけ出したな。本当にお前ってやつは……」
「なんで俺が悪いことになんだよ……。っていうか、本当にどっから情報手に入れてんだ?」
「うん? ああ、皇国の間諜の蠍ってやつが情報流しまくっているぞ? 多分、この大陸の王族ならお前が持っていること全員知っていると思うがな」
「あの野郎……」
次に会ったらボコボコにしてやる。
「ん、知り合いなのか。まあ、お前は有名な分いろいろ恨まれてそうではあるからなぁ」
そう言ってアナスタシアはけらけらと笑った。
笑いごとじゃないんだけどなぁ……。
「ったく、俺のせいで戦争が始まったみたいになって気分悪いよ」
「そう気にするな。奴らの国は資源が乏しい。常に戦争出来るきっかけを探していただけだ。まあ皇国の方は自業自得ではあるけどな」
「なんかしたのか」
「実際に目で見たお前は知っているだろう。皇帝が使いつぶしたんだ」
「あぁ……」
納得した。そういえばそろそろ報酬金が振り込まれていてもおかしくない頃だ。後で確認しておこう。
「さて、ついたぞ」
そういってアナスタシアが停まったのは、大きな扉の前。
「あん? 渉外ってお前がやってんの?」
「そうだが?」
さも当然であるかのようにアナスタシアは言って、胸を張った。
ほえー、十代前半にしか見えないのによくやるよ。
「遅れてすまない。大統領」
……大統領?
「いえ、時刻ちょうどですよ。第三王女」
ヒロの目の前にいるのはかっちりとした服装に身を包んだ、眼鏡をかけた四十代前半の男。
「そちらの男性は?」
「護衛だ。気にするな」
そういって、大統領と呼ばれた男の前に座る。
……俺の椅子無いけど、もしかして立ちっぱなし?
大統領の後ろには、ヒロと同じようにして二人の男性が立っていた。
うん、立ちっぱなしなのか。……抜け出していいかな。
っていうか、大統領って誰だよ。
「本日伺ったのは他でもない。共和国と、帝国の同盟についてだ」
…………あっ、大統領って共和国の代表か。




