第2-16話 英雄、レルトを去る
ヒロ達が白級冒険者になったという話は、すぐにレルト中に広がった。恐らく、あの市長が意図的に流しているのだろう。だから、おちおちと外を出歩けない。
「まったく、この間までここで愚痴ってた男が英雄になっちまうとはな」
「なりたくてなったわけじゃねえよ」
ヒロが来ているのは、アミが仲間になった日にやってきた酒場だ。ヒロは夜になると飛び出してここに来るのが習慣となっていた。
「なんか飲むか?」
「今日は甘い奴をくれ」
「英雄が女みてえな注文してんじゃねえよ」
「いっつも強い奴を飲んでんだからたまには良いだろうよ」
酒場の主人は悪態をつきながらも果実酒を注いでくれた。この程度ではまったくもって酔えないから、ヒロにとってはジュースみたいなものだ。
「そいやお前、イグレス・バーニアって知っているか」
「あん? ああ、闇属性魔法の権威だろ?」
ヒロが闇属性魔法の勉強をしようと思って図書館に行くと、どの本を読んでもその男しか出てこないのですっかり名前を覚えてしまった。というか、闇属性魔法を体系化して本として知識の共有を図っているのが、イグレス・バーニアしかいないのだ。
「ソイツだよ。ソイツが優れた闇属性魔法の使い手を募集しているらしい。行く当てがないなら手伝ってやればどうだ?」
「暇ならな」
「元の世界に戻れるかもしれないぞ」
「……誰から聞いた」
ヒロが才異の集団というのは別に隠していることではない。というか、ヒロの外見とその成果をみると才異の集団だと考えるのが普通だろう。だが、才異の集団が異なる世界からやってきたという話は誰にもしたことがないし、他のクラスメイト達もしていない。
「こんな人が多い街で長い間、酒場なんてやってれば見えてくるものもあるさ」
「けっ……。時間、空間に干渉する魔法ってのはとんでもなく難しいんだ。かの権威といえども出来ねえだろうさ」
「さてな、現にお前はここにいるだろ」
「…………」
「んで、次は何飲む」
ヒロは肩をすくめると炎酒を頼んだ。
「黒瀬君、黒瀬君。もう昼だよ」
「……休息日くらい寝させてくれよ。あと五分だけぇ」
ヒロを起こしにきたアミを寝返りを打って足蹴にする。
もう少し寝させてくれよ……。
「それどころじゃないんだよ。戦争が始まったんだよ!」
「何?」
飛び起きる。ヒロは着替えると、アミとともに情報屋の男の元まで走っていく。
嫌に街が騒いでいる。まさか、本当に戦争が?
情報屋の男は、いつもの場所でいつものように叫んでいた。
「戦争だ! 戦争だ! 皇国と、東邦連合が共和国に宣戦布告だっ!!」
「……マジかよ」
「どうするのっ!? 戦争始まったよ!」
「……とりあえず、ここに来るまであと5日はかかるだろう。それまでに逃げよう。白級冒険者がいるとろくなことにならない」
市長はきっとこの展開を読んでいた。そのうえでヒロに白級冒険者証を渡してきたのだ。
腹立たしいことだ。
「んで、皇国と東邦連合はなんつって攻めてきたんだ。何もなく戦争なんて始められねえだろ」
「……それがね、特壱級痕機を求めるらしいの」
「は?」
「この国で発掘された特壱級痕機を全部要求してるの!」
「……俺たちのせいじゃん」
どう考えてもタイミング的にはそうなるだろう。
「尚更逃げるぞ。共和国には悪いが、あの痕機だけは渡せない」
「だと思って、ラウラさんには運び屋を、リリィさんには食料を、ナナさんに、ポーション類を買ってきてもらってるよ」
「有能かよ……」
「恩返しだよ」
「それで、どこに向かうんだ?」
「帝国に行こうかなって。あそこはヒロ君に経済を救ってもらった恩があるから受け入れてもらえるでしょ」
「賢いな、アミ……」
ヒロがただ眠っているだけの間に、全ての手配が終わっているようだった。
俺、無能!w
いや、笑ってる場合じゃないんだけどね。
「荷物は?」
「私の黒い箱に全部入れときましたよ。後で整理すればいいかなって」
「…………サンキュー」
「あっ、お金は全部黒瀬君の物を使わしてもらってるんだけど大丈夫だった?」
「……あぁ」
うーむ。ひたすらにアミが有能過ぎて怖い。
これも皇国でスパイやるために教育されたためだろうか。いや、ヒロが無能なだけのような気がする。
「西門に集合だから、行こう」
「おう」
恥ずかしくて行けねえよ……。
西門には既にリリィとナナが付いていて、ラウラが運び屋と交渉した後だった。
「おはよう」
「おはようヒロ君、よく寝れたか?」
「あぁ、そりゃもうぐっすりと」
「睡眠は大事でござる。ヒロ殿は疲れが溜まっていたのでござるな」
「ご主人様、体調に変化などはありませんか? 大丈夫ですか?」
……みんなの優しさが胸にしみるぜ。
「ああ、大丈夫だ。行こう」
ヒロ達は馬車に乗り込むと、『境界都市レルト』を脱出した。
……これよりわずか数日の後にレルトは連合軍に陥落することとなる。
「まさか、本当に戦争が始まるなんて……」
「皇国に残った奴らが体よく使われないと良いけどな」
「みんな元気しているといいんですけどね」
「便利屋にされてないといいなぁ……」
今回ラウラが頼んだ運び屋は黒曜馬を飼っている運び屋だった。そのおかげでとてつもない速度で、帝都へと進むことが出来ている。
「なあ、あんなところに街などあったか?」
ずっと進行方向を見ていたリリィがそう漏らす。
「街? 街なんてどこにある」
ヒロが窓から覗き込んだ先にはうっすらと壁のようなものが見えてくる。
おかしいな。前通った時は村すらなかったのに。国境的にはまだ共和国内だから、宝石マネーで新しく建てられた街というわけでもなさそうだ。
「……あの壁動いているでござる」
ナナの漏らした言葉にヒロが注意深く見ると、確かに壁が動いており、こちらに接近していることに気が付いた。
「あれって合成獣ですよ!」
「……あんな大きかったっけ」
アミの言葉に皆、止まる。けれど近づくにつれて、いやでもその正体が分かった。
人間の身体の部分を強制的にくっつけた醜悪な見た目。だが、今回のそれはそのまま巨大化させたように見えた。
腕だけで13mはありそうな巨体が、こちらに迫ってきていた。その数、およそ数百。
「もしかして、巨大合成獣にレルトを襲わせるつもりか?」
ヒロの言葉に返す者は誰もいなかった。
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