第2-14話 冒険者、黒幕を倒す
ヒロは誰も殺さない。
ガウェインと、ロザリアが死んだあの日から自らに殺さずの誓いを立てた。それは、もう誰も死んでほしくないという願いから。命の大事さを学んできたヒロが、命が軽いこの世界で出来る唯一の抵抗だ。
「遅い」
ヒロの言葉とともに短刀が振るわれ、四肢が舞う。脚を断ち切り、腕を斬り飛ばす。だが、首は飛ばさない。ヒロはほぼ止まって見える世界の中で、自分たちを囲んでいた黒服たちを、一瞬の内に無効化した。
遅れて、全身に痛みが走る。無茶な機動で身体のいたるところの筋肉が千切れたのだ。だが、『常闇の帳』がヒロのちぎれた筋肉を補う。
絶刀には一切の血が付いていない。気味の悪さを覚えるほどに白銀に輝いていた。
「流石は金級冒険者。色々と策を練っていたのですけどね」
両足と右腕を飛ばされた黒フードの男がヒロにそういう。
「上の魔物を止めるなら、ここで治療してやるぜ」
「あれはもう、止めることはできませんよ。何しろ私たちがやったことではありませんからね」
「誰がやったんだ」
「名前は存じ上げませんが、とても優れた才異の集団の方ですよ。あなたと同じ」
才異の集団が魔物の解放を?
ヒロは信じたくないが、目の前の黒フードの男が嘘を言っているようには見えなかった。だとしたら、魔物が街にあふれたのは何らかの――恐らく闇魔法の影響ということになる。
なら、ソイツがどこにいるのか分からないが街に出ようとしている魔物を全て狩れば終わる。魔物の精神に干渉するような魔法は一時的な物であって、すぐに効果を失うからだ。特に地下迷宮の魔物はその傾向が強いだろう。
「しかし、ここまで喋っちまってもいいのかよ」
「ええ、勿論ですとも。何しろ皆さま、」
黒フードの男が一息つく。
「ここで死ぬのですから」
ヒロはとっさにアミを抱えて飛翔。それに次いでリリィがラウラを引き連れてナナとともに後方に引く。その瞬間、目の前の黒フードの男が爆ぜた。
人体そのものと同等の火薬が爆ぜたかのような大爆発に身構える。爆炎と衝撃波が辺りを包む。ついで、ヒロが斬り飛ばした四肢が爆発した。それにつられるようにして、ヒロが無力化した男たちが片っ端から爆発し始める。
「クソっ……全員下がれ! 死ぬぞ!!」
命を無駄にする彼らには嫌悪に近い感情を抱くが、それよりもここから逃げ出すことが先決である。そう思った直後、ヒロの足元が爆破した。
「ヒロ君! ラウラっ!!」
ヒロは『常闇の帳』の防御祝福により、ほとんど言っていいほど傷が無かった。だが、爆破の衝撃波がヒロの鼓膜を破る。しかし、ラウラは致命的だった。爆破をもろに喰らってしまい、ひどい火傷に覆われている。
「アミっ! 治療を頼むッ!」
「任せてっ!」
全身を焼け焦がして、ラウラが全身を使って大きく息をする。アミが中級上位の治癒魔法を使って、ラウラの身体を癒していく。その瞬間、ひどく激しい音が入り口の方面から聞こえてくる。ヒロが目をやると、目の前には天井が落盤した入り口。
「……ッ、やられたっ!」
「……ここから帰れないということでござるか?」
「いや、帰れることには帰れるが、階層主を倒さなきゃいけねえ」
「……面倒でござるな」
「出来ることなら、この瓦礫をどかしたいが……無理だよな」
「ヒロ殿の全力なら行けるのではないか」
「無理だよ。今、全身の筋肉がボロボロなんだ」
ヒロは中級治癒ポーションを飲むことで全身の筋肉の治癒を図っているが、それでも本当ならアミの治癒魔法が欲しいほどなのだ。
「……すいません、皆様。私のせいで足を引っ張って」
アミの治療が終わったようだ。服があちこち破けているが、傷は完璧に治っている。流石はアミ。有能な冒険者だ。
「いや、俺のせいだ。すまない」
「謝罪がすんだところで階層主部屋に行こう。火の手がここに掛かるよりも前に移動したほうが良いだろう」
「でっ、でも、この火の海の中をどうやって進むんですか!」
アミのもっともな疑問に、リリィはヒロを指さした。
……俺?
「ヒロ君が粒子を飛ばして私たちの周りを覆ってくれれば燃えることなく進める。幸いにしてあれは一切の温度を通さないからな」
「視界はどうすんだよ」
「薄い切れ込みみたいなものを入れればいいだろう。さ、速くいくぞ」
ヒロは人使いの粗さにため息をつきながらも、黒い粒子を集めてドームのようにして五人の周りを囲むと、まっすぐと階層主部屋に向かった。一度来た場所なだけあって、階層主部屋はすぐに見つかった。
階層主部屋を隠すようにしてはっていた蔓や蔦などが消えたのが大きいのだろう。
ヒロが焼ける様に熱い扉をこじ開けると、目の前に広がったのは刃渡り5、6メートルはありそうなまでに巨大な大太刀が無造作にそこら辺に刺さっている光景。中にいるのは、目を疑うほどに大きな猿。大猿だ。
大猿はヒロ達を見るなり、大きく叫ぶと大太刀を引き抜いてヒロたちめがけて飛びかかってきた。
「俺が行く。目覚めろ、妖刀っ!」
【了解】
ヒロの言葉に目を覚ました妖刀の刃が真っ黒に染まっていく。どこまでも黒く、黒く、黒く――――。
「断ち切れ」
ヒロは剣で打ち合う気などさらさらなく、一刀無造作に斬りぬいただけ。それだけで、大猿の剣が断ち切られ地面へと落ちる。
「第一段階なんてこんなものか」
ふと、ナナが気が付くとヒロの姿が消えており、大猿の首も消えていた。遅れて首を失った大猿の身体から間欠泉のように血液が溢れる。
「第一ラウンドはこれで終わりだ」
ブックマークありがとうございます!!




