第2-12話 冒険者、街にあふれた魔物を狩る
盗賊たちと出会ったあとは特におかしなことも無く、普通に『境界都市レルト』へと返ってくることが出来た。運び屋の男に礼と別れを告げ、五人は元の生活に戻ろうと、とりあえず宿に戻ることにしたのだが……。
「……何ですか、これ」
ラウラが漏らす。
ヒロたちがいるのは、この間まで懇意にしていた宿だ。部屋に鍵が付いていたのでセキュリティ面で安心だと借りていたのだがアナスタシアやらナナやらの件があって、少し宿を変えるかどうか悩んだあそこ。
ヒロ達の前に広がっているのは、すっかり壊されて瓦礫になってしまった宿の惨状だった。
「……ん、おお双極絶死じゃねえか。迷宮攻略した後に消えちまったから少し話題になってたぜ」
「この宿は、何があったんだ」
顔見知りの冒険者に話しかけられたのでヒロは目の前の惨状を問うた。
「あん? あぁ、一週間ほど前のことだ。急にフードを被った男たちが宿に入ってきたんだってよ。それで、探し物を終えると宿を魔法で壊してドロン、って消えたわけだ」
「そうか。ありがとう」
「いや、おめえも気を付けなよ」
冒険者は笑いながら立ち去った。
「……ヒロ君、これは」
「間違いない。盗賊に絡んだ連中と同じ奴らだ」
狙いはヒロの特壱級痕機。ヒロ達の寝込みを襲うつもりだったのだろうか。だがその狙いは外れた。その後、ヒロ達が皇国にいることを知った。こんな感じだろうか。
「……とりあえず、宿を探さねえとな」
「ご主人様、お任せくださいっ!」
「任せた」
ラウラが勢いよく挙手したので、ヒロはラウラに丸投げした。彼女はメイドであり、得意なものは雑用だ。全てを任せておいて問題ないだろう。金銭面や、冒険者としての箔もあったほうが良いのでリリィが同行することとなって、いったん別行動をとる。
「とりあえず飯食って、昼過ぎに冒険者ギルド集合で」
「了解です!」
二方向に分かれて、ヒロ達はポーションの買い出しだ。皇国では支援の目的もあってポーションを買ったが、皇帝のせいかほとんどポーションが残っていなかったのだ。
「中級治癒ポーションが不足しがちだからな、今回はがっつり買おうと思う」
「…………絶対原因は黒瀬君ですよ」
「うん? 何言った?」
「いえ、別にいいです……」
アミはどうかしたのだろうか。
「ポーションか。この間私もお世話になったでござるな」
「吸血鬼はポーションを飲まないのか?」
「我らは治癒能力が優れているため、血液を飲むと大抵の傷は治ってしまうでござる」
「ほえー」
便利な身体だ。
「大変だ。大変だッ! 大ニュースだよ!!!」
情報屋の男が叫ぶ。
「珍しいこともあるもんだ」
「どうかしたでござるか?」
「ああ、いや。アイツは情報屋なんだが、アイツがあそこまで取り乱すのは初めて見るんだ」
情報屋というのは、その職業柄様々な情報に触れる。そのため、どれだけ突飛なニュースでも大抵のことは受け入れてしまうのだが。
「皇国と東邦連合が同盟を組んじまった!!!」
情報屋の男のその言葉で喧噪が街の人間たちに広がっていく。
「……は?」
ヒロもその言葉が一瞬理解できずに困惑する。アミも若干引きつった顔をしている。
「どういうことでござるか?」
唯一その言葉が理解できないナナが首をかしげる。
「この大陸には四つ大国があることは知っているか?」
「流石にそれくらいは知っているでござるよ」
不服そうに顔を膨らませる。可愛い。
「ここ、共和国と隣にある帝国。そしてこの間までいた皇国とそして東側の小国が集まって一つの国として動いているのが東邦連合。この四つだ。他にも有象無象の国々があるが、どれもこれもこの四つの国の庇護下に入っている。そうしないと生き残れないからな」
「なるほど。それで今回の同盟とやらは一体どうしてここまで騒がれているのでござるか?」
「この四つの国の軍事力は大体同格だったんだ。だって、他の三国が強くなっているのに自分たちだけ強くないままでいるわけには行かないだろ? それに、国の軍事力を上げないと庇護下にいる国がほかの大国についてしまうかも知れない。そうなると資源の損だ」
「ふむふむ。なるほどでござる」
「だがな、この四つの大国のうち二つの国が同盟を組んだ。その理由はもう分かるな」
「世界の軍事力バランスが崩れてしまうでござる」
「……あぁ。その通りだ。それに」
「それに?」
「なによりも早すぎる」
皇国はつい二週間ほど前まで国としての機能をもっていなかった。それをヒロ達が解放したわけだが、それにしては同盟の準備が早すぎるのだ。まるで、最初から同盟を組むつもりだったかのように。
……いや、考えられない話ではない。今回はヒロのような不特定因子が入り込んできたが、そうでなければもっと確実な力に頼るはずだ。例えば、隣国などの。だが、国同士の約束で足元を見られることを警戒してギリギリまで同盟を組むことを悩んでいたところ、ヒロたちが来た。そんなところだろうか。
「ぶっそうなことが起きなきゃいいけどな」
そう言った直後、遠くの方で悲鳴が上がった。
「行ってくる!」
ヒロはそう言い残すと、ナナとアミを置いて屋根に飛び移る。その後、悲鳴のあった場所を探すと、すぐに見つかった。街の人間たちが皆ある場所から逃げ出しているのだ。
ヒロは逃げている民衆と真逆の方に走ると、すぐに何があったのかを理解した。
そこに、オークがいたからだ。
「どうして、こんなところにっ!」
ヒロは目の前のオークの首を跳ね飛ばす。
「助けてっ!」
悲鳴の出どころを見ると、今まさにオークに足を貪られている母親とそれを助けようとしている少女の姿だった。母親は少女を逃がそうとしているが、少女は木の棒でオークに向かって殴り続けていた。その少女の真後ろにゴブリンが迫る。
「目を瞑ってろッ!」
ヒロの言葉に従うように少女の目がふさがれる。直後、血の雨が降った。
オークの身体が四つに分割されると、地面に落ちてくる母親をヒロがすくい上げ、ゴブリンの首が身体と分かたれて地面に転がる。
「これを」
ヒロが渡したのは中級治癒ポーション。
「あっ、ありがとうございます!」
「速く逃げてください」
母親は治癒ポーションを飲むと三十秒ほどで生えてきた足を確かめるように触ったあと少女を抱きかかえて逃げた。
……何が起きているんだ?
ヒロはレルトの街にあふれ出した魔物たちを狩りながら、そう思った。
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