第2-11話 冒険者、盗賊に襲われる
「全員、戦闘態勢ッ!」
ヒロの叫び声に呼応して、ナナとリリィ、そしてアミが馬車から飛び出す。ラウラが御者を連れて目の前の化け物から下がる。
しかし、見れば見るほど気持ち悪いな。乱雑に人間のパーツを集めた物がここまで生理的嫌悪をもたらすとは思わなかった。
「アイツが一体何か分かるか?」
ヒロがリリィに問う
「いや……。見たことも無いし、聞いたこともない姿をした魔物だ」
「ナナは?」
「吸血鬼に伝わる中に、アイツに関係するようなものは無いでござる。力になれず申し訳ない」
「いや、気にしないで良い」
「……あれは合成獣だよ。でも、あれは研究所の中でしか生きられないはずで……」
「アミ、何か知っているのか?」
「うん、あれは皇国で研究されていた人工的に作られたアンデットの一つ。皇国はね、どんどん増える死体の処理に困っていたんだよ。すると皇国の研究者の一人が、死体を集めて人工的な魔物を作ってみたらどうかって言いだしたんだ。あれは、その研究の産物。でも、逃げ出せないように工夫してるって言ってたのに……」
「貴重な情報、感謝するぜ」
未だに馬の血を吸い続けている合成獣に向かってヒロは狙いを定める。
「『捻じれて、放て』」
ヒロの真後ろに生み出された漆黒の砲弾が回転し、
「ダメッ!!」
「えっ?」
放たれた。合成獣は一瞬で馬の肉体を捨てると、目にもとまらぬ速度で迫りくる砲弾めがけて一つの口を大きく広げると、
「……魔法を、食べた?」
「アイツは魔法を食べて、食べた魔法を再現できるのっ!」
合成獣についている数十の眼球が全てヒロを睨みつける。合成獣はヒロに全ての腕を向けると、魔法を発動した。
……ッ!!
同時に24個発動した漆黒の砲弾は、寸分たがわずその全てをヒロめがけて飛ばしてくる。
だが、ヒロの目の前に展開された漆黒の壁がそれを防いだ。
あ、危ないところだった。
「魔法を使ってはならぬということは私の出番でござるな」
ナナが飛び出した。
「ナナさん! 合成獣は素早いから気を付けてっ!」
その言葉がナナに届くよりも速く、抜き放たれた長剣が合成獣の身体を切りさく――――よりも早くに身体を捻じった合成獣が全ての腕でナナを掴んだ。
「なんと」
「ナナッ!」
ヒロが飛び込んで腕を斬り落とす。そこから漏れだすのは紅い血液。ヒロは前方に向かって炎を噴き出すとジェット噴射のようにして身体の体勢を変え、勢いづけて残りの腕全てを斬り落とした。
「……かたじけない」
ナナの長剣に血液が零れた集まっていく。範囲を伸ばしたナナが剣を振るう。逃げ出そうとした合成獣の身体をいくつも斬りつけて地に落とす。そこに飛び込んだのはヒロ。
【武装展開:刀身延長】
ズルリ、とヒロの身体から魔力が流れ出す。わずかに大気を揺らす不可視の刃が合成獣の身体に深々と突き刺さると、そのまま切り抜いた。真っ二つになった合成獣はそれでも身体を動かして未だ抵抗の気配を見せていたが、ナナの突きによって完全に動きを止めると、ゴトリと魔石を落とした。
「……魔石を落とすのか」
「け、研究所で見た時は何も落とさなかったんですが」
「じゃあ、野生の物ってこと? それとも、特別な個体が研究所から脱出したってこと?」
「むむむ。多分、後者なんじゃないかと」
「おいおい、管理体制どうなってんだ」
「黒瀬君、ここの文明レベルは中世ですよ」
「大事なとこはちゃんとしようよ……」
合成獣を倒したことでラウラと御者が戻ってきた。
「申し訳ねえが馬が死んじまったらもう動かせねえ」
「しゃーねえ。荷物は無いし、近くの集落まで歩こう。馬代は弁償させてもらうよ」
「そんなっ! 俺が悪いのに申し訳ねえよ!!」
断りながらもまんざらでもなさそうな顔で金を受け取った御者は、一番近くの村目指して案内を始めた。
だが、五分もたたないうちにヒロ達は男の集団に囲まれていた。
「おいおい、そこの嬢ちゃんたちこっから先には通行料が必要だぜ」
「出すもん出したら通してやるよ」
盗賊だ。別に珍しいものでもない。そして、こういった輩はそれなりの金額を支払えば見逃してくれるものなのだ。彼らには彼らの生活があり、通りがかったものの身ぐるみを剥がす行為を続けていると誰もその道を通らなくなるし、軍や冒険者が盗賊を壊滅させに来ることがある。だから、基本的に彼らはこちらの支払えるような額しか要求してこない。
「幾ら払えばいい? 金ならあるぞ」
「金なんて要らねえよ!」
「そこの兄ちゃんが持ってる『痕機』さえ貰えれば満足さ」
……はずなのだが。
「……どこで聞いた」
「さあな。馬鹿だから忘れちまったよ」
……特壱級痕機を持っていることがバレている。
誰がこの盗賊たちに情報を渡したのかは分からないが、これはかなり由々しき事態だ。
ヒロは胸元の金の冒険者証を見せつける。
「こいつを見てもまだ奪いに来ようとする奴らはかかってこい。金級冒険者が相手してやろう」
「殺してでも奪い取れッ! 一人当たり一億イルだぞ!!!」
いつもはこれで上手くいくのだが。金の力は命の恐怖に打ち勝つということだろうか。
一人一億イル。確かにあの天秤を売ったのならこの人数全員に一億イルを支払っても売上金の10%にも満たないだろう。
ヒロが短刀を抜刀する。
リリィがため息をつく。ナナは網笠を深くかぶった。アミはどうリアクションするべきか困った挙句、無表情を決め込む。
「面倒だから、15%で行くぞ」
戦闘はすぐに終わった。
全員を縄でぐるぐる巻きにした状態でヒロは盗賊のリーダーに顔を向けた。
「それで、一体どこの誰から『痕機』について聞いたんだ」
「覚えてねえ」
「もう一度その言葉が出るたびにお前の部下の四肢が一本ずつ無くなっていくぞ。それで、一体誰から聞いたんだ」
「知らねえ」
ヒロは一番近くにいた男の右腕を斬り落とした。
「ぎゃあああああああああああああっ」
「一体、誰から聞いたんだ」
「……覚えてねえ」
「次は足だぞ」
「お頭たすけっ……」
獣の如き叫び声が辺りに響いた。
「さて、これがお前の部下の左脚だ。持つか?」
「悪かったっ! 喋るからもう斬るのはやめてくれっ!!」
「アミ、治療してやってくれ」
その言葉にドン引きしていたアミが治癒魔法を発動した。
「……黒瀬君って、時々サイコパスになるよね」
「二年前はとてもかわいかったのだぞ」
「そこっ! 無駄話しない!! ……それで、一体誰から聞いたんだ」
「俺も、よく分からねえんだ。二日ほど前にお前の特徴を書いた紙を黒服で顔を隠した男に渡されたんだ」
「そんな男の話をよく信じたな。一人一億イルだろ? 冗談だとは思わなかったのか」
「思ったさ。俺たちだって一笑に付した。でも、あの合成獣を従えて、前金として一人当たりに300万イル渡してきたんだ。それだけで、何かあると思うだろ?」
「合成獣を従えていた?」
「あぁ、そうだ。俺たちのいうことは何でも聞くから好きに使ってくれって渡されたんだ」
「……?」
ヒロはそれからいくつか質問したが、どれも犯人の特定につながるようなものではなかった。




