第2-10話 冒険者、皇国を救う
絶刀とともにヒロは、四人の元に飛び込んだ。剣術の才能を持った村上が仲間をかばうようにして飛び出す。だが、
【刀身強化発動】
マルドゥックが刀身の輝きを増すと、村上の刀身を斬り落とす。
「馬鹿なっ……」
「悪いな」
武器を失った村上の周りを囲むのは漆黒の粒子。酸素を奪って無理やり酸欠にし、気を失わせる。その間に飛び込んできた魔法はどちらも漆黒の弾丸で魔押しを行いそのどちらもヒロには掠りもしない。
「何なのよ、その魔法は!!」
「黒瀬は剣術の才能とったんじゃないの!!?」
驚愕の声が二人から上がる。
「……俺、そんなに剣術の才能とったように見えるの?」
ちょっとだけショックである。
「あっ――――」
飛び出して来ようとした田中の足元には漆黒の罠。ガッチリとホールドすることで、一切の動きを奪っている。そのまま重心を前に持って行くと地面に倒れ込む。
……悪いが、見え見えだ。
「『我は炎、水は汝』」
「『我は水、炎は汝』」
……ッ、共同魔法の詠唱。
共同魔法とは、文字通り二人が共同して行う魔法のことだ。その分威力も跳ね上がるが、難易度も跳ね上がる。
ヒロがすぐさま止めに入った瞬間、真後ろから高橋に捕まえられた。
「なあ、藤堂たちを知らないか」
駄目だ。完全に脳が死んでいる。
「「『地獄となりて顕現せよ』」」
詠唱完了。
上級上位共同魔法『双極悪獄』の魔法。灼熱の炎と、絶対零度の極寒が同時に展開される。本来は一つ一つの魔法だが、二つを合わせることによって効果の領域がひどく広がっている。……恐ろしい才能だ。
こんな地獄に一瞬たりとも長居は出来ない。だから、
「死んだよ」
そう鷹は足に事実を教えると、ヒロは全力全開。100%の力を吐き出すと同時に刀に思念を送り込む。
【武装展開:刀身延長】
その言葉とともにヒロの身体から生命力が消費されると、魔力で練られた不可視の刀身がマルドゥックから伸びた。
……やるしかねえ。
「ごめんね。みんな」
「……まだ、死にたくない」
自らの命を守るために誰かを犠牲にする。そんな彼女たちを一体誰が責めることが出来るのだろう。
「謝るんじゃねえよ」
だから、ヒロは地獄をかき消す。
ヒロは伸ばした刀身で魔法の核を断ち切った。依り代を失った魔法が、魔力へと変換され霧散する。
魔虚。
この二年間でたった一度だけ出来た、奇跡の産物。やり方は魔断ちと同じ。だが、この魔法は魔法の核に存在する一点を正確に貫くことによって可能にする技だ。
「そんなっ」
ヒロはおさげ髪の少女に峰内を喰らわせて気絶させると、隣にいた少女にも同様に気絶させる。
「悪いな、みんな。ここは勝たせてもらう」
田中と高橋の元に黒い粒子が集まると、両方とも酸欠で気絶する。これで、敵はいなくなった。
「馬鹿なッ! あり得ないッ!!」
そう叫ぶやせ細った老体を、黒い粒子が捕縛する。
滅茶苦茶便利だな、この魔法。
ヒロは逃げ出す貴族たちを後目に、ナナに上級治癒ポーションを振りかけた。すると、頸動脈から零れていた血液が薄く消えて行くと、傷口が全て元通りになる。
うーん、相変わらず仕組みがいまいちわからん。
ナナは起き上がるとあたりを見回して、全てが終わったことを悟った。
「……すまぬ。全てを押し付けてしまったでござる」
「いや、気にすんな。大丈夫だよ」
「かたじけない」
申し訳なさそうに顔を伏せるナナが思いのほか可愛らしくて笑ってしまった。
「壊したよ! 『隷属の魔刻』を!!」
「でかした!!」
全てを終わったタイミングを見計らったかのように蠍が飛び込んでくる。なんだかんだ有能な奴だ。
試しにヒロが気絶している村上の背中を見ると、わずかに魔刻の痕が見えるものの、もうその効果を失っていた。
「鍵! 鍵くれ鍵!!」
「そうせかすな」
ヒロは黒い箱の中から首輪のカギを取り出すと蠍に手渡した。彼は速攻鍵を外して首輪を投げた。
「よっしゃ! これで晴れて自由の身だぁあああああ」
「良かったな。これからは真面目に生きろよ」
「生きとるわい!!!」
間違ってもスパイはまともな生き方ではあるまい。
「んで、神皇捕まえたんだけどどうすんの」
「皇女様が来るまで待とう。彼女もこの城に住んでいるから」
蠍に言われるままに待つこと数十分。恐る恐る部屋に入ってきたフェムトと目があった。
「……これは、流石ですね。冒険者様」
「まあな」
ヒロの元にはボロボロになった五人組が地面に転がっていた。そう言えば青木はまだ目が覚めないのだろうか。
「後処理は私たちに任せてください」
フェムトがそう言うと、部屋の中に入ってきたのは無数の男女。どこに潜んでいたのかと思うほどの数が飛び込んできて神皇を確保に向かった。
「外の冒険者よ。こんな事態に巻き込んでしまって申し訳ない」
そう言ってヒロに頭を下げたのはフェムトに顔が似ている少年だった。
「……こちらは一体どちらさまで」
「私の弟です」
「第四皇子、ライル・ラトアリシアだ。今回の一件、重ねて礼を言わせてもらう」
「俺の仲間も救えたし、万々歳だよ」
「報酬は遅れてギルドにて支払おう」
礼を告げられた後にライルはまっすぐ神皇の元に向かっていった。
さて、冒険者の仕事は終わり。あとはこの国の仕事だ。
ヒロはナナとともに、城を跡にした。
「……本当に、もう帰られるのですか?」
ヒロ達は皇都の北門で、馬車に乗り込みながらフェムトと別れの挨拶を交わしていた。他にはアリシアたちもいる。
「ああ、今回は『隷属の魔刻』を壊すことが目的だったからな。それさえ達成してしまえばもう用事は無いんだ」
神皇が捕まえられて一週間。彼はすぐに処刑され、ライルに神皇の座は引き継がれた。
ヒロ達はこの街にお金を落とすために、ポーションなどを相場の2倍ほどで買って回った。これで、この国の復興に少しでも貢献できると良いのだが……。
「残念です。もう少しヒロ様とお話していたかったのですが」
「まあ、また会えるさ」
才異の集団たちはアミを除いて、皇国に残ることを決めた。彼らが憎んでいるのは神皇であって、皇国ではなかったのだ。
「絶対ですよ!」
そう言ってフェムトはヒロの唇を奪った。
「へっ!?」
ヒロが何が起きたかを理解するよりも先に馬車がゆっくりと進み始めた。
「では、皆様。お元気で!!」
「元気でな!」「ありがとう!!」「また来てくれよ!」
国中の人間に感謝を告げられながら、ヒロ達は皇国を後にする。
……こうして、感謝されるのも悪くはない。
「ヒロ君、さっきのあれは一体どういうことなのかな」
「そうですよ、黒瀬君。聞いていませんよ。どういうことかきちんと説明してもらいますからね!」
鬼気迫る彼女たちに睨まれてさえいなければ。
こうして、ヒロ達の皇国遠征は平和に解決する――はずだった。
「うおっ!!」
馬車に急ブレーキがかかって馬車の中にいるヒロたちは慣性の法則に従って前方へとつんのめる。
「……ひぇっ」
御者の男が情けない声を漏らす。運び屋は元々が冒険者。よっぽどの魔物が出てこない限り、悲鳴など上げないはずだが。
そう思ってヒロが馬車から顔を出し、前方にいる敵を確認して、絶句した。
「――ォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオッ」
深い、深い地獄のような声が漏れる。
ヒロ達の目の前にいたのは到底生き物とは思えないような肉塊。身体からは十本以上の腕を生やし、その後ろから同等の数の足が生えている。巨大な眼球がぎょろぎょろと周囲の様子を探っており、口からは乱雑に生えた乱杭歯が見えてくる。
それは頭を斬り落とした馬の首からさもうまそうに血を吸っていた。
「……何だコイツ」
それは到底、この世の物とは思えなかった。
高評価ありがとうございます!!




