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外れを引いた異世界転移~世界を壊すは我にあり~  作者: シクラメン
序章 強くなければ意味はない
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第05話 来訪者、魔法を使う

 「ヒロっ! 右だ!!」

 

 その声に導かれるように左に跳ぶと、今までいた場所にゴブリンが剣を振り下ろす。

 振り下ろした瞬間を狙って短剣をゴブリンの首に突き刺すと、そのまま頸骨をへし折った。


 「やったな、ヒロ!」


 そう言って金髪碧眼のイケメンとハイタッチ。ゴブリンが音をたてて魔石へと変換される。

 ヒロがキラービーから解放されて一週間が経過していた。


 あの後、仲間を作らなければ死んでしまうという事実に気が付いたヒロはギルドにいる人間に片っ端から声をかけた。

 けれど、どれも一笑に付されてしまうばかり。そんな中、最後に声をかけたのが最初にヒロをパーティーに誘おうとしてくれていた金髪のイケメン、ガウェインだったのだ。


 「お前のおかげだよ。リーダー」

 「僕たち、だよ」


 彼はどこか良いところのお坊ちゃんなのか、彼が着ている鎧も、武器もそこら辺で売っているようなチャチなものではなかった。

 ゴブリンの血液に塗れながら、キラキラと光を反射するガウェインの剣を見つめる。一体、幾らするのだろうか。


 「ちょっと、私たちの活躍も忘れちゃ困るんだけど?」

 「ひ、ヒロ君怪我してるからそこ動かないで……」


 森の奥から出てきたのは、黒いローブに身を包んだ青髪の少女と、白いローブに身を包んだ銀の髪を持つ少女。

黒いローブに身を包んだ青髪の少女は、パーティー唯一の攻撃魔法使い。火属性魔法と、水属性魔法、そして土属性魔法が使えるヒロより立派な魔法使いだ。

一方で白いローブに身を包んだのはパーティーで唯一の光属性の魔法使い。治癒術師ヒーラーだ。


「ありがと、リリィ」


 ヒロがそういうと、白いローブの少女がにっこり笑って簡易治癒術式を発動した。


「それで、今回もまたあんたの魔法は使えなかったわけ?」

「どうにも、そうらしいんだ。いい加減コツ教えてくれよ、ロザリア」

「あのねえ、闇魔法なんて誰もコツなんてわかんないわよ。使えるやつも希少だし。ヒロ、アンタ本当に使えるんでしょうね?」


ロザリアが黒いローブを揺らしながら疑い深くこちらを見てくる。


「ほ、本当だって。ついこの間、影が伸びてゴブリンの動きを止めたんだから」

「『影縛り』。闇魔法の初級術式ねぇ……。私の師匠も闇魔法については何にも教えてくれなかったのよね」


ロザリアも、リリィもガウェインがパーティーに誘い込んだ。あのイケメン、当然のように陽キャらしくギルドに一人でいた彼女たちに話しかけてパーティーに入れてしまったのだ。

最初は緊張していたヒロも、幾度の戦闘を共に超えて仲も深まった。そうして、自らの才能を三人に伝えたのだ。

 その後知ったことだが、闇魔法というのは非常に適当な属性らしい。光魔法というものがあるくらいだからその逆くらいだと思っていたのだが、実際のところはそうではなく、闇魔法は使う人間によって大きくその姿を変えるものだという。

 例えば全てを断ち切る闇の剣を生み出したり、無数の眷属を召喚したりといった具合で、自分の闇魔法がどういう物は、自分に適した闇魔法を使うまで分からないのだ。


 つまり、闇魔法はいかに才能があったとしても、その魔法の性質に気づくには運が必要というわけだ。他の属性魔法は全て体系化されていることを考えるととんでもない地雷を引いたものである。今からでもあの幼女に返品したいくらいだ。

 闇魔法というくらいだから、重力を増やしたり、ブラックホールを召喚したり、背中から黒い羽を生やして飛び回ったりできるものだと思っていたが、現実は厨二に甘くないようである。

 

 だが、一度はゴブリンの動きを止めた。その話をすると、それは闇魔法の初級魔法で、闇魔法の中でも体系化されている数少ない魔法らしく才能が無くても練習すれば誰でも使えるそうだ。

 しかし、ヒロはその『影縛り』ですらもまともに発動できない。そのため、短剣を持ってガウェインとともに前衛をやっているのである。

 

 「しっかし、この森ゴブリンやコボルトばっかだな」

 「比較的浅いからね。もっと奥深くに行けば多様な魔物が見られるさ」


 ゴブリンやコボルトは魔物の中でも最も低級に位置するE-。キラービーは少し上がってE+に位置する。

 四人はこの三日間、ゴブリンやコボルトのE-の魔物ばかり狩ってきた。正確に言えば、ヒロの魔法が使えるようになるまで低級魔物で訓練を積んでいるのだ。

だが、この三日間一日あたりの稼ぎは3000イル。報酬はどんなことがあろうとも四等分と決めているので、パーティー全体で12000イルというわけだ。正直言って、最初のころとは比べ物にならないほどに生活が安定した。

けれど、ヒロがパーティーの足を引っ張っている感じは否めない。ヒロが闇魔法を使えるようになれば前衛1、中衛1、後衛2のパーティーが完成するし、純粋に魔法使いは火力源となる、数が多ければ多いほどいいのだ。


「ま、誰だって駆け出し魔法使いのころはそんなもんだししっかりやりなよ? 大天才のあたしだって初めて魔法を使えるようになったのは一か月経った頃だったんだから」

「あ、ありがとう……」

 

 や、優しいな、ロザリア。


 「三属性使える様になったのはそっから三日後だけど」


 可愛くねえな、コイツ。


 ロザリアは山奥の出身だ。小さいころ、師匠とやらに拾われてそこからずっと魔法を訓練して来たらしい。幼いころからひたすらに鍛え上げてきたというその才能は、正直いって折り紙付きだ。

 魔法は初級魔法、中級魔法、上級魔法、特級魔法の四つに分類され、上にいくだけ難易度が跳ね上がる。ロザリアから聞いた話だから、どれだけ正しいのかは知らないが現在、この国に特級魔法が使える魔法使いは0人。上級魔法が使える人間は指で数えられるほどしかいない。そんな中でロザリアは水属性限定で中級魔法を詠唱出来るのだ。

 だが、中級魔法と侮るなかれ、中級中位に位置付けられる魔法だとしてもロケットランチャーくらいの威力を持つのだ。ちなみに上級は戦術兵器並みらしい。ということだから特級は戦略兵器くらいはあるのだろう。

 

 「け、怪我しても骨折くらいなら治せますから、安心して訓練に励んでくださいね!」

 「ありがとうな、リリィ」

 「えへへ……」


 リリィは教会に預けられた孤児の一人だ。孤児院から出た後、残った弟や妹を食べさせるために一攫千金を狙って冒険者になったらしい。彼女は初級上位の治癒魔法と初級中位の光攻撃魔法が使える。何かあった際に真っ先守られる人間だ。

 自称、褒められるほど伸びるタイプらしい。


 「さて、と。一応クエストだとゴブリン十体の討伐だけど……。どうする、もう少しヒロの練習に付き合う?」

 「いいよー。魔石稼ぎにもなるしね」

 「わ、私も治癒魔法の練習をしたいので、どんどん怪我してくださいね!」

 「お、おう……。みんな、ありがとな」


 この世界に来て知ったこと。

 人は優しい。特に、俺の周りにいる人間は。向こうの世界では勝手に壁を作って勝手に人の輪から遠ざかっていたから気が付かなかった。

 仲間って、案外良い物なんだな……。


 「じゃ、ヒロ。僕がバックアップにつくから好きにやってくれ」

 「分かった。適当にゴブリン探しに行くわ」

 「なら私たちはここで休んどくね」

 「怪我したらすぐ戻ってくるんですよ」

 「おーう」


 優しなあ。なんでこんなにみんな優しいんだろ。

 これじゃあ、勝手に一人で生きるとか息巻いてた俺が馬鹿みたいじゃんか。


 そんなことを考えながら二人でこそこそと森の中を移動していると……見つけた。

 そう遠くない場所にうずくまって草をちぎっているゴブリンがいる。


 なんかあれ、この世界に来たばっかの俺みたいだ。

 そう思いながら、発動する魔法を想像する。今度はどんなものが良いだろうか。やはり初めての魔法だ。カッコイイ物を使いたい。

 

 じっとゴブリンの背中を見つめる。

 あーあ、あんなに隙だらけで。これじゃあ、キラービーに刺されるぞ。

 そう考えた、刹那。


 「『捕縛せよ』」


 口が勝手に紡がれた(・・・・・・・・・)


 突如、ヒロの影が広がりそこからその中から現れたのは一メートル五十センチはある一匹の漆黒の蜂。その蜂は音を立てずにゴブリンに近づくと、背中に針を打ち込んだ。

 瞬間、ゴブリンの身体が前に崩れ落ちる。


 「が、ガウェイン。今のは」

 「魔法だよ。ヒロ、君は今から魔法使いだ!」


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