第2-08話 冒険者、クラスメイトと戦う
幅が二メートルも無いような狭い廊下での戦闘。青木が一体何の才能を取ったかヒロは知らないが、触媒を持っているあたり青木の才能は魔法に関するものだと思われる。
それならはっきり言って、ヒロたちの有利だ。魔法使いの弱点はいくつかあるが、最も大きなものの一つに魔法を使うのは集中力が必要ということだ。だから、前衛後衛を組み、前衛が時間を稼いでいる間に集中力を高めるというのは鉄板過ぎる組み合わせだが、それはこれが理由となっている。だから、大抵の魔法使いは接近戦に持ち込めば、集中力を維持できずに魔法は使えない。
「『燃えて、』」
驚くほどに素早い詠唱。だが、それが完成するよりも先にヒロが青木の懐に飛び込んだ。
「悪いな」
「くっ……」
ヒロはそのまま脳天をついて気絶させるつもりだった。だが、それよりも先に青木の杖がヒロの刃を食い止めた。ギリギリと音を立てて互いの力が拮抗する。
青木はその状態でまっすぐヒロを見てから、詠唱した。
「『貫け』」
ヒロは自身の直情に生み出された炎の砲弾をバックステップで回避。大きな音を立てて地面に着弾すると、炎がまき散らされる。
……コイツ、詠唱を中断したのに魔法を使いやがったッ!
それは、本来あり得ない話ではない。魔法使いが窮地に陥った時に魔法を発動させる引き金が口に出した言葉に乗って詠唱となることは珍しいことではないからだ。
それに、本来詠唱とは魔法を使う際に集中力を肩代わりするものなのだ。いわば、魔法の条件付け。パブロフの犬状態だ。
だから、詠唱が無くても魔法が使えないことはない。無いが……。
だからと言っても、そんなことが出来る人間はそう多くはいない。
例えば、100mで10秒を切るのに自分の足で行う人間はそういない。大抵の人間は自動車を使ってそれを行う。それと同じだ。魔法を使うなら、詠唱を行ったほうがいいし普段から詠唱を使っている魔法使いは、とっさに詠唱が無いと魔法を使えなくなる。
「いよいよもって人間やめて来てるな。俺たちのクラスは」
「その様子を見るに黒瀬は剣術の才能を取ったのか? まったく、不利な相手だな」
口ではそうは言っているが、顔には余裕の笑みが張りつけられている。何故、ここまで余裕なのかが分からない。
いや……。圧倒的な自信がそれを支えているのだろう。そして、その自信は恐らく根拠のないものではない。
「蠍、ナナ、先に行け」
「加勢するでござる!」
ヒロの言葉を無視して、ナナが廊下の側面を走って青木に近づくがそれよりも先に詠唱が紡がれる。
「『地を走り、燃えて噴き出せ』」
廊下の壁、その一面が一瞬にして熱を持ち融解する。ナナは壁から離れるために、壁面を蹴って地面に着地。
「なんとッ!」
「『燃えて、』」
そのナナめがけて、詠唱が行われる。ヒロの世界が鈍化する。青木の背後に生成されるのは一つの砲弾。ヒロが使う漆黒の砲弾と同じ系列の魔法だと思うが、青木の物は後に残る火属性のもの。
先ほどと同じように、青木に飛び込んだところで魔法は撃たれるだろう。だとすると、どうする? どうすれば、後ろにいるナナを守れる?
『魔断ち』か? 駄目だ、廊下が狭すぎて断ち切った魔法が壁にぶつかって炎がまき散る。
ならば、『魔逸らし』か? 無理だ。この距離で魔法を後ろに飛ばすと蠍にあたる。
なら、俺は一体どうしたら良い? ナナ、俺と、蠍が無傷でここを突破するのに必要なのは……
「『貫け』」
青木が詠唱を完成させて、灼熱の砲弾がヒロとナナめがけて飛んでくる。すかさず漆黒の粒子を生み出してあたりを満たす。
壁を作るか? それをしても良いが、壁で防げるのは中級中位魔法まで。もし中級上位魔法なら威力は消すことが出来ずに至近距離で魔法の余波をくらうことになる。そんな危ない橋は渡れない。なら、
ヒロがとっさに生み出したのは漆黒の粒子を寄せ集めて生み出した一つの弾丸。それはすさまじい速度で回転すると、ヒロの狙った通りの場所。
灼熱の砲弾の右斜め下から突入し、魔法の核にぶつかって――――ギィィンッ!
鈍い音を立てて、両者の魔法が互いに押し出されるようにして向きを変える。ヒロの弾丸は地面へ、青木の魔法は天井へ。
「……咄嗟にやったけど、案外出来るもんだな」
遅れて爆発音が、廊下を支配する。
魔押し。
魔逸らしにヒントを得た新しい対魔法だ。魔法の威力はそのままで、向きだけを変える。使う際には人並み外れた動体視力が必要だが、魔物の力を引き出せるヒロにとっては無関係の話だ。
「馬鹿なっ! 黒瀬ッ、お前今何を……!!」
青木が驚愕に目を見開いている間に、鳩尾に一撃。肺腑の空気を全て吐き出した後、ヒロは真後ろに回り首を絞め、落としにかかる。どれだけ鍛えていたとしても、脳に送る酸素を断ってしまえば動けなくなる。
ヒロの予想通りに、30秒と経たずに青木を絞め落とした。
「……ッ、今ので人が集まってくる。急いで移動しよう」
「……ヒロ殿は、本当に人間でござるか?」
「ん? おう、俺は人間だぞ」
「…………人間は音より速い魔法に魔法をぶつけて進路を変えるなんてことは出来ないと思うけどね。僕は」
「頑張ればお前も出来る様になるって!」
「絶対無理」
三人はどこにあるか分からない階段を目指して疾走する。その間にも何人かの兵士と出会ったが、それらは全て蠍とナナが何とかしてくれた。
「あったよ! 階段が!!」
「でかした!!!」
既に侵入者が入ってきているのはバレており、城中が騒然となる中でヒロたちは一際大きな階段を見つけた。最上階にいくにしては大きすぎるが、それでもかなり上がってきたものだと思う。
ヒロはまっすぐ階段を駆け上がると、階上には大きな扉が一つだけ。
「これは……?」
「舞踏会とかで使う部屋でしょ。多分、この階はこれだけしかないんだ。気を付けてよ、ただ広い部屋だから隠れるものなんて一つもないからね」
「あぁ、行くぞ」
ヒロは力を込めてゆっくりと大きな扉を開けていく。扉の隙間から零れてきたのは、光と喧噪。完全に扉を開けると、ヒロ達の目の前にあったのは巨大な空間。まるで学校の体育館を思わせるほどに広いが、いたるところに高そうな代物が転がっている。
「黒瀬、お前は良いよな。安全な共和国に生まれ直してよ」
唐突に声をかけられた。
目の前にいるのは五人の男女。どれもこれも皆、黒髪だ。ヒロは頭上から多くの視線を感じ、視線を上にあげると、二階席と思われる場所にいるのは仮面を付けた多くの貴族たち。
「訳も分からないまま死んで、生まれ直した場所で第二の人生が決まるなんて不公平だと思わないか?」
「お前は……村上か」
ヒロに話しかけているのはアミをストーカーしていた青年。だが、今なら分かる。あれはアミがヒロのパーティーに入るための一芝居だったのだ。
ヒロが初めて見た時には覇気のない青年に見えたが、今ならそれが偽装だったことが分かる。
村上の腰には一本の日本刀。魔剣・妖刀クラスではないものの、それなりの一品であることが伝わる。
「くかか、殺せ殺せ。ワシの城に入ってきた者は、誰一人残さず殺せェっ!!」
そう言ったのは二階席の、中心に座ったひどくやせこけた老人。その身体に不釣り合いの豪華絢爛な服飾から彼がこの国の神皇であることが分かった。
神皇の言葉を受けた五人の目の色が変わる。うす紫のような色を浮かべ、五人ともヒロたちを睨みつける。
「……もう少しだけ我慢してくれよ。俺が助けてやるからな」
ヒロはそう宣言すると同時に五人に向かって飛び出した。
ブックマーク、感想、ありがとうございます!
励みになります!!




