第2-07話 冒険者、城に潜入する
「神皇を殺していただきたいのです」
そう言って頭を下げる猫耳少女を見ながら、ヒロは困惑した。
「……出会ってすぐに人を殺せだなんて、物騒だな」
「とんでもない依頼であることは重々承知しております。ですが、もう貴方たちにしか頼むことが出来ないのです」
そういって苦しそうに猫耳少女が言った。
「申し遅れました、私はベルムガルム皇国、第三皇女。フェルム・ラトアリシア。どうぞ、フェルムをお呼びください」
「皇族か。悪いが俺は殺人の依頼は受け付けない」
「では、捕獲ということではどうでしょう。彼の持っている準壱級痕機、『隷属の魔刻』を破壊し、一切の抵抗を出来ないようにした状態で私たちの前に連れてきてほしいのです」
「私たち?」
「はい。私たちはベルムガルム憂国騎士団。この国の現状を変えようとしている者たちの一人です」
「どこで俺のことを知ったんだ」
「今日の昼に大騒ぎされたではありませんか」
「あぁ……」
私兵の腕を斬り飛ばした件のことだな。情報が伝わるのが速い。
「どうでしょう。この依頼、お受けしていただけないでしょうか。報酬は……神皇の財産の一割を譲渡するということでいかがでしょう」
……へ? 一割??
「まあ、俺は殺さなければ大丈夫だ。受けようその依頼。俺たちがここに来た目的とも合致するしな」
金額おかしくない? 王族の所有する財産の一割だよ。とんでもない金額に決まってるじゃん!
「目的?」
「あぁ、『隷属の魔刻』の破壊だ。俺の才異の集団が困ってるからな」
「【妖刀使い】様は才異の集団だったのですね。その強さ、聞いております。接近戦においては無類の強さは誇っていらっしゃるのだとか。一体なんの才能を選択されたのですか? 剣ですか、槍ですか??」
フェルムがぐいぐいとヒロを押しながら聞いてくる。
若干押し倒されているみたいだ。
「……闇属性魔法だ」
「…………えっ、闇属性」
どこかの英雄と同じリアクションをされたところで、ヒロは「せいっ」と、皇女を元の体勢に戻した。
才能の選択を知っているのか。……他の才異の集団から聞いたのかな?
「ただいまー。……って、姫様!!??」
ちょうどいいタイミングで偵察に行かせていた蠍が返ってきた。
「おい、蠍。神皇の確保の依頼を受けた。今から行くぞ」
「神皇の確保!? って、なんでここに姫様がいるの。ああ、あと王城には入れないよ。やっぱり入るには正門の橋以外の選択肢はないみたいだけどね」
「大丈夫です。王城には秘密の出入り口があります」
「ほら、皇女様もこういっているから行ける」
「え、本気で言ってんの……。いや、無理無理。だって俺、隠密専門だもん。戦えないもん!! っていうか、流石に寝ようよ。今日行くのは疲労度的に無理だよ」
「いえ、行けることなら今から向かってほしいのです。今日、【妖刀使い】様が神皇の私兵の腕を斬り落とされました。その話は明日の朝には神皇の耳には入るでしょう。そうすると、確保するのが困難になる」
「テメェ、妖刀使い!! 人に目立つなつって、お前が一番目立ってるじゃねえか!!」
「ははっ」
蠍に胸倉をつかみ上げられてグラグラと揺らされる。その手を止めてから、ヒロは蠍に告げた。
「三日間、『ガルトンドの西の迷宮』で最下層階層主と戦うより楽だろ?」
「くそぅ! こういうことをしてるから金級冒険者は嫌いなんだよぉ!!」
「ごちゃごちゃ言うな。さっさと行くぞ。それで、秘密の抜け穴ってのはどこにあるんだ」
「案内いたします。ついて来てください」
そう言われてフェムトは外に向かう。
「よし、ナナ、蠍。ついて来てくれ」
「承知した」
「いやだなぁ……」
連れられるままに向かったのは、城に繋がる橋の真反対側。
「ここです」
「ここですって言われたって、普通の堀じゃねえか」
ヒロ達の前に広がるのは、向かい側まで15メートルはありそうな堀だった。
「いえ、この水中に繋がっている道があるのです」
「えっ、ということは泳いで侵入しろということですか、姫様」
「そういうことになりますね」
「……いろんなところに侵入してきたけど、まさか城に潜入することになるとはなぁ」
「よし、行こう」
「……ヒロ殿、私は泳げないでござる」
「俺が引っ張ってやるよ」
「かたじけない」
ヒロがまっすぐ堀に入ると、続いてナナが掘に入り、そして最後に嫌そうな顔をした蠍が掘に入ってきた。後ろを振り向くと、フェムトが礼をしていた。
「なぁ、こっち側に監視とかいないのか?」
「いや、前見なよ。絶対こっちから来ようなんて思う人いないでしょ」
ヒロ達の目の前に広がるのは全長60メートルはありそうな巨大な王城だが、その後ろ側は一切のでっぱりが無く、侵入するのがはるかに困難であることを教えてくれる。
「……まさか、水中に道があるとはなぁ」
ぽつりと蠍が漏らす。
「良いのかな、そんな重要事項を俺たちに教えても」
「良いわけないだろ。でも今回ばかりは仕方ないんだよ。僕だって、神皇に対して不満がないわけじゃないからね」
「ひゃっ、ヒロ殿っ! 足っ! 足がつかないでござる!!」
「おーいー、そこの吸血鬼、静かにしろ」
「うるさいでござる。お主には言ってござらん」
「二人とも静かにしろ。バレるぞ」
ヒロ達は何とか十五メートル泳ぎ切って、城の淵を掴んだ。まっすぐ上を見上げるが天を貫かんとそびえたつ城に裏側から入るのは不可能だ。
「俺が潜って確認してくるから、仲良くしてろよ」
「ちょっと、妖刀使いが居なくなったからって僕の血を吸うのは辞めてよ」
「これから戦に臨むのに、そんなことするわけなかろう……」
ヒロは大きく息を吸い込んで、潜った。いくら夜とはいえ、大きな月がまっすぐ照らしているおかげで水中でも特に視界に困るということは無かった。まっすぐ潜ると、水深は十メートルほどで、そこまでまっすぐ城の土台は伸ばされていたが、その真ん中、一か所だけぽっかりと口を開けているところがあった。そこまで泳いでいくと、ぽっかり空いた穴は斜め上にまで伸びている。
壁を蹴ってまっすぐ昇ると城の内側にへとつながっているのが確認できた。ヒロは誰もいないことを確認すると、すぐに蠍とナナの元に戻り、二人を連れて城の中へと侵入した。
「……こんなにあっさり侵入できるとは」
蠍が小声で漏らす。ヒロも意外だった。堀を泳いでいる段階で見つかったりするか、もしくはこうやって城の中に入った瞬間に誰かに見つかるものかと思ってはいたのだが。
「夜だから寝てるんじゃねえの」
「そうだといいんだけどな」
ヒロ達が侵入したのは地下牢の最果てだったらしい。周りには牢屋に入れられた白骨死体ばかりが転がっている。ここにいるのは、皆神皇に逆らった者ばかりなのだろうか。
ヒロ達が地下牢から上がり、索敵を行いながら一階へと侵入する。神皇の寝室は最上階にあるのだという。ヒロもナナも蠍も誰一人として城の内部事情を知らないが、蠍の長年の勘で登っていく。
特に敵に見つかることなど無く、順調に登っていた――はずだった。
「おいっ、お前ら。一体誰……だ?」
狭い一本の廊下。そこを歩いている途中で声をかけられた。ヒロは素早く後ろを振り向くと、短刀を抜いて後ろの男と対面した。
「お前……黒瀬か……? どうして、ここに……」
「いや、お前誰だよ」
ヒロはクラスメイトの顔と名前を誰一人として覚えていない。
だって友達がいないんだもん!!
「おいおい、俺を忘れたのか。つれないやつだな、青木だよ。覚えてないか?」
青木……? そんなやつもいた様な気がするが如何せん二年前のことだ。
覚えていない。
「思い出話に花を咲かせたいとこだけどよ、侵入者は見つけ次第殺せって命令が下ってんだ」
青木は悲しそうに顔を歪めて、触媒である杖を取り出した。
「悪いがここで死んでくれ」
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