第2-06話 冒険者、反逆す
アイリスと、その姉であるアリシアから皇国の現状を聞いてヒロ達は、戦慄を覚えずにはいられなかった。
「よくもここまで国家として破綻してるのに、よくも国が成り立つな……」
「成り立ってないだろう。現状、皇国と取引をしている国は無いんだ」
リリィが吐き捨てる様にして教えてくれる。
取引って、貿易のことだよな……?
冷静に考えて、それってとんでもないことじゃねえのか。
この世界に国連のような組織は無いので、国が無くなる危機に瀕していたとしても助けなど誰も出さないのだ。
「……お主らは何故逃げないのでござるか?」
ナナが不思議にアリシアとアイリスに尋ねた。アリシアがアイリスを抱きかかえながら答える。
「逃げられないんです。逃げようとする者は私兵が捕まえてどこかに連れ去るんです」
「なるほどでござる」
街の外にあった新しい死体は、きっとそれだろう。
「あんなことがあってから言うのもあれだが、しばらくこの家にいさせてもらってもいいか?」
ヒロの依頼にアリシアが頷く。
「はい。それはもちろんですけど……。冒険者様たちは一体何用で、来られたのですか?」
「ちょっと野暮用でな」
そう言ってごまかしたヒロに、アリシアは問うた。
「つかぬことをお伺いしますが、冒険者様は才異の集団ですよね?」
その言葉にヒロはなんと答えるか迷ったが、正直に本当のことを伝えることにした。
「あぁ……。だが、安心して欲しい。俺は『隷属の魔刻』を打ち込まれていない」
「……はい」
いかに『隷属の魔刻』を打ち込まれてないといって諭しても、16000人を殺したという悪魔たちの仲間だ。よくは思われないだろう。そう思ってアミを見ると、アミはひどく泣きそうな顔で二人を見ていた。
……関係しているんだろうか。
「リリィ、ナナ。二人を頼む。アミ、ちょっとこっちに」
アミを連れて外に出る。太陽はとっくのとうに沈み、辺りは暗闇に包まれているがどこの家も灯りを付けずにひっそりと沈みかえっていた。
これだけ家や建物があるのに、不思議な感じだ。まるで、ヒロ達以外の人間が世界から消え去ったかのような錯覚を覚える。
「少し、歩こう」
「……うん」
「あの話、本当なのか……」
「……ごめんなさい。あの日のことは、あんまり覚えてないの。ただ、覚えてるのは神皇に皆殺しにしろって命令を受けたことだけ。それからの記憶が……」
「いや、良いんだ。俺はクラスメイト達が命令も無しに二万人近くも殺したなんて思いたくなかったんだ」
「……ありがとう」
それが何に対してのありがとうだったのか、ヒロには預かり知れぬところだが彼女が本当に感謝しているというのは伝わってきた。
「なぁ、アミはどこに転生したんだ?」
「私は……この街の中心だったんだ。すぐに自警団に保護された。出身と名前を聞かれて、今一文無しだっていうことを伝えるとお金までくれた。だから、油断しちゃったんだ。その後、ふるまわれた食事の後すぐに眠たくなっちゃって起きたら背中に『隷属の魔刻』が刻まれていたの。そこからは、地獄だった。最初に『隷属の魔刻』がどんな効果なのかを見せられて、それで命令に従わないと殺すって言われて。私はまだ、死にたくなくて。でも、殺さないと殺されるからっ……」
「……ありがとう。もう、大丈夫だ。大丈夫……」
途中から過呼吸気味になったアミの背中をさする。相当、根深い精神障害があるのだ。うかつにこんな質問をしたことを後悔した。
「こんな時間に散歩かァ?」
「俺たちが道案内してやるぜ」
歩いていると、二人の男から話しかけられた。
男たちはそれぞれ武器を持ってゆっくりと二人に近寄ってくる。ニヤニヤと気持ちの悪い笑顔を顔に貼り付けたまま。
「……誰だ?」
「その恰好を見るに冒険者か。それに、人間の……」
ヒロとアミの黒髪黒目を見て、男たちが嫌な笑い方をした。
「おいおい、才異の集団が王城を抜け出しても良いのかよぉ!」
「バレたらどんな罰を受けるか、楽しみだなァ!?」
罰、という言葉にアミの身体が震え始めた。
「……ごめんなさい。ごめんなさい。許してください、もう許してぇ…………」
それを見て男二人はゲタゲタと嗤うが、一切動じないヒロを不思議そうに見た。
「おいお前、俺たちに頭を下げれば黙ってやる――ふごっ」
男の身体がゆっくりと持ち上がっていく。その後ろには密度を持つまでに高められた漆黒の粒子。それが巨大な腕を作っては男の後ろから持ち上げていたのだ。
「……『黒衣の右腕』」
「ぁぁぁぁぁああああああああああああッ!!」
ゆっくりを頭を圧迫されていく恐怖に男が悲鳴を上げる。ギリギリと頭蓋骨が悲鳴を上げていくのはひどく恐ろしいだろう。
「知らないのか?」
ヒロが胸元の金の冒険者証を誇示するように、残った男に近寄っていく。
「才異の集団は、世界中にいるんだぜ?」
「ひっ……。うあああああぁあああああああああ」
ヒロに背中を見せて逃げ出した男が、急に両足を捉えられてその場にこけた。
男は足を見下ろして、悲鳴を上げた。両足が無いっ!
見ると、三メートルほど後ろに綺麗な切断面をもった両足があるではないか。
そして、二人は絡んだ人間が捕食者であることを知った。
「やれやれ、中々喋らねぇもんだから。長くかかったな」
「……黒瀬君って時々ぶっとぶよね」
黒い粒子で作り出した『常闇の箱』の中にいるのは先ほど絡んできた二人組。その周りには男たちの腕と足と指と皮と内蔵と血液が至ることに置かれ、その近くには空になった治癒ポーションばかり。
つまりは、そういうことだ。
「だけど、これで私兵団の戦力が分かったし良いんじゃねえのか?」
「まぁ、そうだけど……。……私たちでもここまでひどいことは受けなかったよ」
「…………まあ、死んでないから」
狂ったように許してと呟いている男たちと、彼らの身体を路地裏に廃棄するとアイリスとアリシアの家にまで戻った。
「お邪魔しまーす」
「遅かったではないか、ヒロ君。来客が来ているぞ」
「へぇ、誰に?」
「私たちにだ」
「……?」
俺たちは今日この街に来たばかりだ。そんな中、一体誰が客としてくるのだろう。
「あなたが、【妖刀使い】ですか」
ヒロが部屋に入るなり、真ん中にいた猫耳少女がそう言った。
服や装飾品、触媒などから只者ではないことがうかがい知れる。貴族のお嬢様? それとも……。
「一つ、お願いしたいことがございます」
彼女は、いつぞやのアナスタシアと同じことを言いながら頭を下げた。
「神皇を殺していただきたいのです」
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