第2-03話 冒険者、皇国へ移動する
ヒロが皇国に行こうと言った瞬間に、アミは最初それが理解できずに首をかしげてそして驚いたようにしてヒロに聞いた。
「ほ、本気で言っているの?」
「ああ、仲間を救うのはリーダーの仕事だ」
「ありがとうっ……ありがとうっ……」
泣きはじめたアミを夜の間中ずっと慰めていた。
翌日、『境界都市レルト』の中でベルムガルム皇国まで連れて行ってくれる馬車を探していたのだが……。
「見つかったか?」
「いや、全然だ……。十五台くらいに断られてるぞ」
「だよなぁ……。俺も十台くらいにあたったけど全員に断られちまった」
そう、御者が誰も皇国まで向かわないのである。理由も聞いたが、誰も答えてくれなかったのだ。まるで、皇国にトラウマでもあるかのように。
「ご主人様っ! リリィ様! 皇国まで送ってくださる御者の方を見つけましたよ!」
「でかした!!」
流石はメイドだ。雑用関係では右に出るものはいない。
ヒロ達はラウラに導かれるままに、皇国まで連れて行ってくれるという御者に会いに行った。
南門で一際大きな馬車の元で馬の世話をしていた男が、ヒロ達をベルムガルム皇国まで連れて行ってくれるという男だった。
「おう、お前らが皇国に行きたい命知らずたちか」
身長は2メートルを超えてそうな大男は昔冒険者をやっていたと思われるほどに筋骨隆々で、がっしりと腕を組みながらヒロたちを見下ろした。
「……命知らず?」
「何にも知らねえのか……? お前、その状態で皇国に行こうとするのは危ないぞ」
男はそう言ってヒロ達に釘を刺すと、ヒロとリリィの首に掛かっている金の色をした冒険者証を見て、さらにヒロ達に言った。
「その様子を見るに、皇国の地下迷宮を攻略しようとしたんだろうが……いかに双極絶死と言っても、今の皇国に首をつっこむのは辞めておけ。今の皇国は……神皇がな……」
神皇。ベルムガルム皇国の王を指す言葉だ。
「何かあったんですか?」
「……殺してるんだ。自分の考えに反対している者たちを」
「別にそれくらいなら、良いんじゃないですか? 俺たちは冒険者だから、政治に絡まないですよ」
ヒロがそう言うと、運び屋の男は少しだけ考え込んだ後に口を開いた。
「…………まあ、俺の仕事は運び屋だからよ。金さえ積んでくれればどこにでも行くが、今回の依頼は皇都までと聞いたが、申し訳ねえが今回俺はどれだけ金を積まれても皇都にまでは行きたくねえ。そこを了承してくれるなら、連れて行ってやるよ」
「なら、それでお願いします」
そう言って、ヒロ達の契約は結ばれた。結ばれたのだが……、運び屋の男は最後まで快諾することは無く、常に曇った表情を浮かべていたのだった。
昨夜、『蠍』に『隷属の魔刻』を打ち込む機械がどこにあるのかと聞くと、皇都のどこかにあると答えた。『隷属の魔刻』は、特殊な痕機で打ち込むが、その痕機を壊してしまえば消えてしまう。ヒロ達の目的はその痕機を壊すこと。それさえ達してしまえばもう皇国には用事はない。
政治には関わらないとは言ったが、軍に関わっている才異の集団を解放するような行為だから、滅茶苦茶にかかわっているのだが嘘も方便だ。アミを助けるためには必要なことだろう。
「契約もできたから、皇国に行こう。ラウラ、移動の準備を頼む」
「お任せください!」
「必要物があったら言ってくれ。買っていくから」
「了解です!!」
そういうと、ラウラはさっそうと宿へと戻っていった。それを追うようにしてヒロ達は冒険者ギルドに立ち寄り治癒ポーションや環境適応ポーションなどを買い足して黒い箱に入れると宿に戻った。
「おぉ、ヒロ殿。馬車は見つかったのか?」
「ああ、とある運び屋がやってくれることになった。早速移動しよう」
宿に帰ってくるまでに15分ほどかかったが、その間に荷物などは全て綺麗にまとめられていた。流石はラウラである。彼女がいるだけで生活に関する雑務を全て彼女に任せることが出来るようになった。
「それで、『蠍』はどうやって移動させるでござるか?」
「ああ、荷物入れに入れて運ぼうと思う。拘束してても目立つしな」
「僕に人権は無いのか!! 流石の皇国もそこまでひどいことしないぞ」
「お前結構元気そうだな。どうする? もうちょっと吸われとくか? ん?」
ヒロがキラキラと目を輝かせているナナがじぃっと獲物を襲う瞳で蠍を見つめる。
「いえっ、何でもないっす……。大丈夫っす……」
軽い男というかなんというか。まあ、ノリはよさそうである。
蠍を黒い箱に収めると、ヒロは四人に向き直った。
「よし、行くぞ。アミを解放するんだ!!」
「頑張りましょう!」
「まさか、人間を救うときが来るとは思っても見なかったでござる」
「アミ殿、準備は良いか?」
「ありがとうっ……みんな、ありがとう」
泣き始めて声にならないアミを、四人で慰めると南門で待たせている運び屋の元まで向かった。
「……まさか、双極絶死の【妖刀使い】が女を侍らせてるなんて思わなかったぜ」
「侍らせてねえよ」
そんな短いやり取りを行うと、全員が馬車に乗り込んでベルムガルム皇国目指して馬車が動き始めた。
「そうだ、黒瀬君。これ」
そう言ってアミが手渡してきたのは紋様が描かれた天秤。
「ごめんなさい。まだ返してなかった」
「アミが持ってたのか。俺はてっきり『蠍』が持ってるものだと思ってたよ」
「こんなことをしておいて、こういうことは言えないだろうけど、本当にありがとう。凄い感謝しているの。だから、もし私の『魔刻』が取れた時には、本当に黒瀬君のパーティーに入れてください」
アミがそう言って頭を下げた。
「……大丈夫だよ。俺たちはもう、一つのパーティーじゃないか」
ヒロがそう言うと、アミは初めて出会った時のように抱き着いてきたのだった。
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