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外れを引いた異世界転移~世界を壊すは我にあり~  作者: シクラメン
第1章 こんな世界でも生きてみたいと思ったんだ

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第1-18話 冒険者、特級魔法を覚える

 目の前の天秤を囲んで五人が見つめあう。


 「……ラウラ、それは本当か?」

 「……はい。間違いないです。この天秤は特壱級痕機イクス・ラグアートです」


 天秤を持ち帰ってギルドで鑑定してもらおうかとも思ったが、特殊な地下迷宮ダンジョン、『レルトの地下迷宮ダンジョン』の最下層階層主が落とした痕機ラグアートだ。すぐそのままギルドに持ち込むのもはばかられて、いったん宿に持って帰ってきたのだ。

 すると、ラウラが軽い鑑定が出来るということで見てもらった後に、腰を抜かした。

 一体何で腰を抜かしたのかと思えば、天秤が特壱級痕機イクス・ラグアートなのだという。


 「どうするでござるか、ヒロ殿」

 「どうする、とは?」

 「売るのか、使うのか」

 「それは、コイツの能力を確かめてからだな。ラウラ、使い方は分かるか?」

 「ちょっと、待ってください……。天秤の片側に手を置いてください、そしてその反対側に魔石を乗せるっぽいですね」


 ラウラが天秤の裏側を覗きながら教えてくれる。


 ……そこに取り扱い説明書でものってんの?


 「魔石か……。どうしよ、大きければ大きいほうが良いのかな」

 「大きければ大きいほうが良いっぽいですよ……」

 

 ヒロは黒い箱(アイテムボックス)から大猿ジャイアントエイプの魔石を取り出して、片側に載せる。


 「これで良いのか?」

 「……ヒロ君、よくも躊躇いなくいけるな…………」

 「そうか? 普通だろ」


 男の子なら、手に入ったばかりのなんかかっこいい物で遊びたくなるのは普通だと思うが……。まあ、ここに男は俺以外いないし分からないのだろう。


 「アミさん。念のため、治癒魔法の準備を頼む」

 「任せてください! 黒瀬君、ほんとにやるの?」

 「おう。んで、どうしたらいいんだ?」

 「魔石から手を離してください。それで起動準備が完了します」

 「よし、行くぞ」


 四人に見つめられながら、ヒロがゆっくりと手を離した。魔石が中心からゆっくりと輝き始めて、うっすらと消え始める。


 そして、まばゆい輝きを放ちながらヒロの手元に紋が刻み込まれていく。


 「ヒロ殿ッ!」

 「落ち着け、大丈夫だ。痛みはない」


 普通に温かいだけである。っていうか心地良さもあるくらいだ。

 ……っていうか、これ魔石一個消費してこれだけってことないよな…………。大猿ジャイアントエイプの魔石は推定だけど5千万イルはする。ヒロにとっては地下迷宮ダンジョンに潜れば一瞬で稼げるだけの金額なので、別にもったいないなんて思わないが、それでも流石に一回ごとに5千万使うハンドウォーマーな訳が無い。


 なんてことをぼんやり考えていると、ふと降りてきた(・・・・・)


 「……ッ!!」

 「ヒロ君!?」

 「ご主人様!」

 「治癒魔法行きますよ!!」

 「いや、待て。大丈夫だ」

 

 ヒロの手に刻み込まれていた紋様はとうに消え、残っているのは天秤だけ。


 「……だめだ。この特壱級痕機イクス・ラグアートは売れない」

 「この痕機ラグアートの効果は一体なんなのだ?」


 リリィの問いにヒロが答える。


 「この特壱級痕機イクス・ラグアートは、特級魔法を(・・・・・)覚えることが出来る(・・・・・・・・・)痕機ラグアートだ」


 ヒロはそれを直観的に理解した。


 「そっ……それは、まことでござるか」

 「あぁ、事実だ……。コイツは売れない……」


 特級魔法。それは、かの賢者ですらも覚えていない魔法だ。

 この世の物理法則を根底から書き換えれるような魔法であり、世界の軍事力パワーバランスを覆せるような魔法だ。この天秤は、片方に載せられた魔石の性能に応じた特級魔法・・・・を覚えることが出来る特壱級痕機イクス・ラグアートなのだ。

 そう、どんな魔石であれ特級魔法を覚えられるのだ。

 その魔石が、ゴブリンのものであれコボルトのものであれスライムのものであれこの片側に手を乗せた人間は特級魔法を覚えられる。

 

 だから、駄目なのだ。これは、世界が壊れてしまう。


 例えるならば、元の世界でどんな大きさの石ころであろうとも核兵器を手に出来る機械と言えばいいだろうか。


 「えっ、よく分からないんですけど売ったら幾らするんですか?」


 まだ、この価値がよく分かっていないアミがヒロにそう尋ねてくる。


 「……値段は付かない。これは言い値で売れるし、なんならコイツ一つに国家予算レベルの金が動く」

 「うわっ……」

 

 ……忘れていた。特壱級痕機イクス・ラグアートとは、本来そういったものなのだ。

 ちなみに魔剣・妖刀もそういったものに該当するが、ヒロの妖刀は壊れているので、このレベルの性能だということをすっかり忘れていた。


 「……それで、ヒロ君は一体どんな魔法を覚えたんだ?」

 「俺のは、三つ目の魔法だ。能力は、『創造者セディステ』。黒い粒子を生み出すことが出来る魔法だ」

 「……それは特級魔法なのか?」

 

 リリィが尋ねてくる。たしかに、それだけ聞けば本当に特級魔法なのかどうか不思議に思うだろう。


 「ああ、この魔法は詠唱を必要としない(・・・・・・)んだ」

 「そっ、そんなことが……」

 

 詠唱が必要ないということは、相手に攻撃を悟られることなく魔法が発動できるということ。それは、対人戦において絶対的なアドバンテージとなる。


 「ヒロ殿、見せて貰ってもいいでござる?」

 「あぁ、俺も使ってみたいしな」


 ナナの言葉にヒロが右手を掲げる。ヒロが魔法を使うと、身体から生命力が抜け出して黒い粒子が気泡のように生み出されて部屋を埋め始めた。


 「おお……。……これだけでござるか?」

 「まさか。見てろよ」


 ヒロが粒子に念じると、粒子は部屋を覆っていき真っ黒な壁が出来た。


 「これで中級中位魔法程度は無効化できる」

 「はぇー……」

 

 アミが抜けた声を漏らす。中級魔法を無効化できるなど飛んでもないということを本能的に理解しているのだろう。


 「魔力の消費量的にはどうなんだ?」

 「これだけ使って初級魔法とそこまで変わらない」

 「……化け物だな」

 

 使い勝手の良さと、消費魔力量の少なさから十分にお化けな性能をしている。


 「……これは、いったん俺が保管しといていいか?」

 「あぁ。私はもう少し待ったほうが良いと思う。ヒロ君はこれから地下迷宮ダンジョン攻略したからいろいろ手続きがあって大変だろうし、落ち着いてからもう一回ゆっくり話し合おう」

 「私もそう思うでござる」

 「いろいろヤバそうだから私もそれに賛成」

 「ご主人様がそう決めたら、私もそれに賛成します」


 というわけで、ヒロの黒い箱(アイテムボックス)に一旦収納されることとなった。


 「さて、明日は安息日だからゆっくりと休むように」

 「はーい」

 「うむ」

 

 各々がヒロの言葉に返事をしてそれぞれベッドへと向かう。


 ヒロはこれから巻き込まれる大きな事件など知りもせず、大きくあくびをすると灯りを消した。

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