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外れを引いた異世界転移~世界を壊すは我にあり~  作者: シクラメン
第1章 こんな世界でも生きてみたいと思ったんだ

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第1-17話 冒険者、迷宮を攻略す

 ヒロは右目をおしゃかにするようにかき回すと、飛び降りる。大猿の咆哮を直接聞いたため、右耳が若干耳鳴りがしているが、戦闘に支障をきたすようなものじゃない。


 「ギャアアアアアアァァァァァァァアアアアアアアア!!!」


 耳をつんざく大音量。ヒロを掴み上げた大猿は再び大きく叫ぶとヒロの身体を両手で掴んで地面に叩きつける。


 やばいッ!


 身をよじるが、身体を両手によってぎっちり取り押さえられているヒロは一切の抵抗を許されずに地面に叩きつけられる。


 「ヒロ殿!」

 「来るなッ! 攻撃を続けろ!!」


 ナナが刀身を伸ばして、大猿ジャイアントエイプの背中を斬りつける。毛皮と筋肉でおおわれた分厚い背中には薄い傷痕しか残せない。

 リリィが歯噛みして、手元に魔力を集中させる。身体から生命力が抜けていくのを、実際に体感しながらリリィは何度もヒロを地面に叩きつける大猿の足めがけて熱線を放つが、大猿はヒロを投げ飛ばすと拾い上げた巨大な大太刀で断ち切った。


 「くっ、魔断ち(スプリット)か」

 「……ソイツは俺の専売特許だぜ」


 地面を這うようにして起き上がりながら、ヒロがそういう。幾度も地面に叩きつけられて、いまだ原型を保っているのは一重に『常闇の帳』の祝福の効果。だが、既に身体の内部はボロボロで、骨は折れ内蔵は破裂しておりすぐにでも治療が必要なほどだ。


 ……死にかけたぜ(・・・・・・)


 それを見たアミが、ヒロに治癒魔法を飛ばす。一瞬で造血され、内蔵が元の形へと修復される。すぐに、身体は修復された。それが、中級上位の治癒魔法。


 「全力で行くぞ。ナナ、下がれ」

 「承知した!」

 「……100%」


 次の瞬間、そこにヒロの姿はなく。


 大きく首を跳ね飛ばされた大猿ジャイアントエイプの姿があった。ヒロは、闇の炎を生み出して衝撃をかき消すと、階層主部屋の壁に着地する。


 ……今ので右腕の骨が折れた。


 だが、折れた骨の部分を『常闇の帳』が硬化する。ギプスのようにがっちりとヒロの腕を固定したのだ。まるで、まだ戦えとでもいうかのように。


 ヒロは壁を蹴って地面に降りると、今しがた首を断ち切ったばかりの大猿ジャイアントエイプを見下ろす。まだだ、まだこいつは魔石にならない。

 魔石にならないということは、まだ生きているということ。油断せずにヒロが100%のまま、見ているとピクリと大猿の右腕が動いた。


 「全員、構えろっ!」

 

 ヒロがそういうのと同時に大猿の身体が宙へと舞った。空中で、自らの首を右腕で掴んだまま地面に着地する。そして、ゆっくりと自らの傷痕に首を押し付けると黒い触手のようなものがいくつも生えて首がつながった。


 「……第二ラウンドか」


 その言葉に反応するように大猿は地面から両の手でそれぞれ太刀を引き抜いた。


 「二刀流とは……」

 

 ナナが感嘆の声を漏らす。ヒロはゆっくりと体の筋肉を引き絞ると、再び飛び出した。ぶちぶちと左脚の筋肉が千切れる音が周囲に聞こえた。追いかけるようして『常闇の帳』がヒロの左脚を絞った。これで、まだ戦える。


 「ハァァァアアアアアッッツツ!!!!」


 ヒロの渾身の一撃を両の刀でしっかりと受け止める。びりびりと衝撃波が周囲に飛ぶ。ヒロはすぐに短刀を引くと、大猿の右斜め下から打ち上げる。だが、大猿はそれを左の刀で防御。それを断ち切って短刀が進むのを、右の刀で受け止める。

 ヒロはその場でくるりと周るようにして、反対側からの斬撃を、腕をスライドさせた大猿が受け止める。それを力づくで叩き壊してさらに追撃を放った瞬間に、左手の斬馬刀に防がれた。


 それを互いにわずか五秒でやり切って、一息。遅れて音が世界を埋める。


 ……ランクが上がってないか?


 最初にヒロが思ったのは、それだった。一段階目のランクは間違いなくB+だった。しかし、ヒロが一度首を跳ね飛ばしてからの攻撃が間違いなくB+級の魔物のそれではないのだ。恐らくはA-級相当。


 A級の魔物か……。


 ヒロとてA級の魔物を狩ったことが無いわけではない。だが、楽に倒せたことも無い。

 ヒロは心臓に手を当てる様にして、自分の残り魔力量を確かめた。


 ……まだ、行ける。


 ヒロは飛び上がると、大猿と一度打ち合う。その瞬間、後ろに回っていたナナが足の腱を断ち切った。大猿が大きく体勢を崩す。


「『圧壊せよ』ッ!」


 大猿めがけて今しがた覚えたばかりの魔法を放つ。先ほど、ヒロを叩きつけた剛力がそのまま大猿へと打ち返された。


 ズドォンンンンンッ!!!!


 激しい音を響かせて、大猿の身体がくの字に歪んだ。ヒロは闇の炎を生み出すと加速。再び最高速に乗った状態で、大きく大猿の身体を薙いだ。

 その瞬間、大猿の身体が左の脇腹から右の肩まで一直線に断ち切られたのだ。


「……はぇ!?」

 アミが理解できずに変な声を上げる。だが、ヒロはまだ止まることなくその場でターン。今度は右の脇腹から左の肩まで一瞬で斬りぬいて、X状に断ち切った。


 四つに分かれて大猿の身体がそれぞれ地面に落ちる。そして、ゆっくりと身体が消えていき中にはかなり大きく深みを放つ魔石と、一つの天秤。


 「……これは天秤でござるか?」


 拾い上げてナナがつぶやく。ヒロはすぐに駆け寄ると、ナナから天秤を預かった。


 「少しだけ見せてくれ」

 「……どうだ。ヒロ君」


 リリィも駆け寄ってくると、すぐさまその天秤を覗き込んだ。アミも駆け寄ってくる。


 「……まだ、分からない。でも『痕機ラグアート』であることは間違いない」

 

 後ろの方で、ファンファーレが鳴り響いた。四人が一斉に同じ方向を向く。


 そこにいたのは、一人の少女。


 「ぱんぱかぱーん。おめでとうございまーす」


 それは、ヒロ達に才能を与えた少女とまったく同じ姿で同じ声をしていた。

 アミの身体がビクリと震えるが、ヒロがその手を握った。


 「大丈夫だ。何もしてこない」

 「でっ、でも……」

 「あれは、地下迷宮ダンジョンをクリアすると出てくる通達者メッセンジャーだ」

 

 四人がふたたび少女に向き直るのを、彼女はしっかりと待ってから口を開いた。


 「これがご褒美でーす。受け取ってくださーい」


 ごとり、と落としたのは一つの小さく黒い立方体。それが、四つ分。

 

 「ありゃありゃ、また貴方が地下迷宮ダンジョンを攻略したんですね」

 「……あぁ」


 少女はヒロを見ながらそう言った。


 「楽しいですか? この世界は」

 「…………」

 「また、聞きに来るとしましょう。ではでは」


 そうして、ぱっと消えた。


 「ヒロ殿、お主通達者メッセンジャーと知り合いでござるか?」

 「……まぁな」


 ヒロはそう返して、黒い箱を掴んだ。


 「んで、これ何だと思う?」

 「四つってことは人数分ですよね。配慮が良いというかなんというか」

 「……こんなことは今まで無かったんだけどな」


 ヒロの記憶では通達者メッセンジャーから地下迷宮ダンジョン攻略のご褒美をもらったことはあってもそれは一つだけ。それが、『絶刀』であったり『常闇の帳』であったりなのだ。

 

 「とりあえず、触ってみるでござる」

 「おう」

 

 ヒロが一度黒い箱を指で触ると、黒い箱が展開された(・・・・・)


 ヒロの目の前には展開された黒い箱と、その上に広がった幾何学的な空間。そしてヒロは一瞬でこの使い方を理解した。


 「これは、アイテムボックスだ」

 「アイテムボックス? なんだそれは」

 「この小さな黒い箱は収納箱なんだ。多分、何でも入るぞ。アミ、試しにポーション出してくれ」

 「ぽ、ポーションですか?」


 アミは腰のポーチから環境対応ポーションや治癒ポーション、生命力ポーションなどを取り出してヒロに手渡す。


 「見てろよ」


 そういうと、じっと三人がヒロの手元を見つめる。

 ヒロは黒い箱の上に広がった幾何学的な空間にポーションを乗せる。


 「乗ったでござる!」

 「すごいな」

 「これで、どうなるんです?」

 「まあ、見てろって」


 そう言ってヒロが指で黒い箱をタップすると、幾何学的な空間とともに、黒い箱が収納された(・・・・・)


 「ほらな」

 「……すごいでござる」

 「ヒロ君、これちゃんと取り出せるのか?」

 「ああ、取り出すときはこうやる」


 ヒロが再び黒い箱をタップすると、箱が展開され先ほどのポーションが幾何学的な空間とともに目の前に現れた。


 「で、でもこれ乗せれる空間ちいさいですね」

 「いや、これで大丈夫だ」


 アミの言葉にヒロは、目の前に広がった幾何学的な空間を触ってよこにスライドした。すると、目の前にあったポーション類が横に消えて行って目の前にはなにも乗っていないまっさらな空間が出てくる。


 「「「おお~」」」

 「こんなこともできるぞ」


 ヒロがそう言ってタブレットで拡大するときのように指二本で幾何学的な空間を触ると、乗せれる範囲が一気に広がった。逆の動作をすると小さくなる。


 「え、めっちゃ便利じゃないですか」

 「私もこれにのれば、日中外に出ないで暮らせるでござるか?」

 「いや、流石にそれは無理なんじゃないかな……」

 「でも、これ無くすと大変だな」

 「いや、無くさないぞ。見てろよ」


 ヒロがそう言ってその黒い箱を自分の手に押し付けると身体の中にゆっくりと箱が沈んでいく。


 「「「えぇっ!?」」」

 「逆もできるぞ」


 ヒロがそういうと手から黒い箱が出てくる。


 「す、すごい……」

 「これは便利だな。使っていこう」

 「それで、この天秤はどうする?」

 「一回帰って鑑定してもらおう。話はそれからだ」


 ヒロはまだ知らない。この時、手にした天秤がやがて世界を巻き込む戦争の引き金になることなど、ヒロはまだ知らない。


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