第1-14話 冒険者、メイドを手に入れる
「投降しろ。そうすれば、命までは取らない」
「なんとお優しいことで……。ですが、帝国に戻った私はきっと処刑されるでしょう」
「それを防ぐためにアナスタシアは来たんじゃないのか」
「……いえ、そんなはずは…………」
「まあいい、行くぞ」
真後ろから妖刀で首を軽くついて歩かせる。アルバーノは渋々と言った感じでようやく鉱山から出るための通路を登り始めた。魔剣はヒロが預かった。
「まさか眠る妖刀使いに負けるとは、いやはや私も衰えました」
「剣の性能に頼りすぎだ」
「ははっ、これは手厳しい」
アルバーノの後ろを歩きながら、ヒロは中級治癒ポーションを飲む。人工的に作られた甘味がヒロの口の中に広がっていく。
……まっず。
だが、これで腹部の傷は完全に癒されるだろう。肝臓を断たれたが、中級治癒ポーションは臓器くらいならたちどころに治してしまう。アルバーノの右腕は、時間がかかるだろうがくっつかないわけではない。
くっつかないわけではないが、自分の右腕を左腕で持つとは一体どういう気持ちなのだろうか。
「あなたは、異才の集団ですよね?」
「……あぁ」
「その若さで、まったくうらやましい剣の才能ですよ」
「俺がもらったのは闇魔法の才能だけどな」
「えぇ……」
アルバーノにドン引きされた。
そのまま螺旋状になった坑道を上がっていくと入り口でラウラとアナスタシアが待っていた。罠の場所が分からないから、出るに出られないのだという。
「だってよ、アルバーノ先に行け」
「いえ、私にも分かりませんよ?」
「何でだよ。魔方陣を斜めに見ると光の煌めきで見えるだろ?」
「……何が見えてるんですか?」
……あれぇ?
「ま、まあいいや。おい、アルバーノ。俺が言う通りに歩け」
「その後ろから短刀で突くの、本当に怖いのでやめて貰っていいですか」
「うるへー」
そうして、四人は馬車にのって帰ることになった。
「……に、兄さん。腕は大丈夫なんですか?」
「あぁ……。……すまなかった」
「き、気にしてないですよ」
馬車の中では兄と妹がひどく静かに会話している。
辛気臭いなぁ……。
なので、アナスタシアとヒロはアルバーノの処理がどうなるのかという話をしていた。
「私が、なんとか掛け合ってみるが兵士としての存続は厳しいだろう。良くても鉱山で強制労働か、悪くて死刑だ。少なくとも一か月は国の経済を止めていたわけだからな」
「……アルバーノは強いから、取っておきたいっていうところを責めるのはどうだ」
「今回みたいな事件が起きた時、また外野に頼るのかどうかというところだな。そればかりは今の皇帝がなんというかで決まるのだ」
「俺が掛け合ってみようか」
「……うむ、そうして欲しい」
アルバーノの言う通り、もし世界を巻き込むような大戦が起きる場合、アルバーノのように魔剣を使える戦力は強大だ。別にヒロは帝国に忠義も何も感じてはいないが、出来るだけ多くの人間に死んでほしくない。戦力が拮抗した場合、戦争へと踏み切らない。互いが互いに動けない冷戦となるだけだが、血は流れない。
自分がどれだけおかしなことを言っているのかは重々承知しているが、それでもヒロは多くの人間に死んでほしくないのだ。
帝都につくと、彼は速攻牢屋に連れていかれた。時を経て、裁判によって彼の処罰は決まるらしい。
ヒロは再び皇帝に会いに行き、欲しいものを尋ねられた。ヒロは何も要らないから、アルバーノの命を取らないで欲しいということを嘆願すると、皇帝は渋々承知した。
それが、今回の顛末である。
「しかし、私たちが何もしてない間に全て終わるとはな」
「戦闘継続の祝福を持っているからって黒瀬君、無理しすぎですよ。本当に」
「まったくだぞ。ヒロ君、腹を裂かせるなど正気の沙汰じゃない」
「……生きてるから、多少はね?」
「馬鹿ッ!」
リリィに怒られた。当然である。
「ま、まあリリィさん。黒瀬君も少しは反省してるみたいだから、いいじゃないですか。それで……この方どなたです?」
そう、アミが馬車にのってるラウラを指してヒロに尋ねた。
「……自己紹介して」
「ラウラです。これからしばらくの間、ヒロ様に使えさせていただくメイドでございます」
「黒瀬君って、こういう趣味あったの?」
「……違うんだよ」
ヒロは報酬はいらないと言った。言ったがそれは、ヒロの都合。帝国側としては、自国の経済基盤を救われたのに何も贈らないというのは帝国側のメンツの問題がある。
だから、ヒロは何かを受け取ることになったのだが、別に金はそこまで欲しくはない。そもそも徳壱級痕機を譲り受けるという話だったので、ヒロとしてはこれ以上なにも貰う必要はなかったのだ。しかし、もし帝国国内で特壱級痕機が見つからなければ、報酬を支払えなくなる。だから、帝国側から報酬としてラウラが贈られたのだ。
「ひ、人を貰ったんですか?」
「別に珍しい話しじゃないだろう」
「い、いや私たちの国ではありえないことですよ」
まあ、この世界において基本的人権などという御大層な考えはまだ生まれていない。人のやり取りは物のやり取りと同じように行われている。
黒曜馬の馬車によって揺られること二日。レルトの街へと帰還した。
「ここが『境界都市レルト』ですか……」
ラウラが物珍しそうにいろいろなところをきょろきょろと見ている。
「珍しいか?」
「私は、帝国から外に出た事がないのです」
「へぇ……」
幸いだったのが、人が多いレルトでラウラのメイド服はまったく浮かなかったということである。
「やれやれ。とんでもない弾丸ツアーだったな……」
「一日帝国で休んでも良かったんだぞ、ヒロ君」
「流石にそれは本来の目的の方が……」
宿屋で借りっぱなしだった部屋を開ける。
「うぅ、血、血を恵んでくだされ……」
そこにいたのは、時代劇から抜け出してきたような風貌の少女。
何故か、ヒロたちの部屋で倒れていた。




