第1-12話 冒険者、銃と戦う
鉱山を明け渡せと、アナスタシアは啖呵を切ったが、ヒロはその強引な交渉にドン引きしていた。いくら知り合いとは言え、相手は本物の魔剣使いだ。
「姫様、私は常々申してきたではありませんか。軍を強化すべきだと。それなのに、何故鉱山の警護などをやらせるのですか」
「侵略の時代は終わったのだ。これからは、融和の時代だ。宝石貿易で帝国は成り立っていくのだ」
「侵略の時代は終わったかもしれません。ですが、戦争の時代は終わってないのです。共和国も、皇国も、連合も不審な動きを見せているのですよ。帝国だけが、時代遅れな腰抜けになってしまった!」
「不審な動き……? レルトを中心にした特壱級痕機を狙う者共のことか?」
「あぁ……。姫様。姫様ですら、その程度なのですね」
明らかに失望したようにアルバーノが言う。その言葉に、ピクリとアナスタシアの眉が動いた。
まあ、馬鹿にされたら怒るわな。
「……貴様、幾ら英雄とて王族にむかってその言葉は不敬と知れ」
「いえこのアルバーノ、国のためにあえて言わせていただきましょう。今の愚帝が帝のままではこの国はあと十年も持たない」
「貴様ッ!」
アナスタシアが激昂し、掴みかかろうとした瞬間をヒロが後ろからおさえる。これはあくまで交渉だ。暴力を振るってしまえば決裂となる。
「今の皇帝、確かに国内は見ているでしょう。しかし、致命的なまでに国外を見れていない。この先十年以内に起きるであろう世界大戦にこの国は明らかに後れを取る。今は眠れる獅子などと言われてはいるが、明らかに軍事力が諸外国に対して後れをとっているのですよ」
「何を言うか。魔剣使いのお前がいればこの国は安泰だ。そうだろう!」
「いえ……。悲しいことに個の時代は終わって、数の時代が来るのですよ、姫様」
アルバーノの言っていることは、恐らく正しいのだろう。戦争は銃の登場とともに、その在り方を大きく変えた。戦争は英雄が生まれる場所ではなく、ただの血が流れる地獄になった。そして、並みの人間が容易く人を害する武器を持ったことで個人の時代は終わり、軍は数と統制によってその力を増していった。
この世界で、銃に代わるものとしては魔法があるが魔法も修練を重ねなければ人を討つにまで至らず、そして適性によって万人が使えるようなものではない。
だが、いつかは必ず銃は生まれる。今、この世界には魔法があるため遠距離武装が著しく不足はしているが、いつか必ず魔法は廃れ銃が戦場を支配する時代がくるのだろう。
アルバーノは、それが読めているのだ。魔法にとって代わるような武装が出てくることを読んでいる。
「さて、そこの金級冒険者はどう思う?」
唐突に振られたので、少し驚きながらヒロは答えた。
「……俺は、この国に詳しくはない。だが、お前の言っていることは一理あるように俺は思う。魔法はいつか潰える。その時に、数の時代が来るんだろうさ」
「ありがとう。君は話が通じる様だ」
「魔法が無くなるだと!? 【妖刀使い】、貴様正気かっ!」
「あぁ。今は魔法があるから出てきていないが、いつかは必ず魔法よりも簡単に、訓練すら必要とせず離れた人を殺せる武器が生まれる」
「良かった。金級冒険者は私と同じ考えなのですね」
そういって、ひどく安心したようにアルバーノはそう言った。
「そんな時代が来るなど……想像も出来ない」
「いえ、その時代を作れるのですよ。私が異才の集団から譲り受けたこの武器があれば」
そういって、アルバーノが取り出したのは一つの、拳銃。艶消しかつ黒塗りのボディに薄く描かれているのは火属性魔法の魔方陣。
なるほど、火薬ではなく生命力で飛ばすのか。
「……何だ、それは」
「そこの金級冒険者の方が詳しいでしょう」
「……あぁ」
既に完成しているッ!
異才の集団はクラスメイトのことだ。こちらの世界に天才と言われるような魔法や剣術の才能を持ってきた彼らは二年たってそう呼ばれた。恐らく【土属性魔法の才能】を選択し、その優れた金属加工技術で銃を作ったのだ。
だが、銃とは簡単な構造の物ではない。それなりの専門知識を持った人間が作ったものだ。
二年たって表沙汰になっていないということは、量産には成功していないのか……?
アルバーノはゆっくりと拳銃をラウラに合わせる。
「アルバーノッ! それが何なのか知ってて妹に向けてんのかァ!」
ヒロが怒鳴ると、アルバーノは頷いた。
「当然だとも。拳銃は貰ったその場で試したよ」
そして、アルバーノは躊躇いなくその引き金を、
「50%ッ!!」
ラウラに向けて引いた。
刹那、全てが停止したかと思うような鈍化した世界の中で拳銃から撃ちだされた弾丸と、ヒロがほぼ同じ速度で動く。呪いの域にまで達した外套を弾丸に添わせるようにして弾くと、停止。遅れて世界の速度がヒロに追いつく。
パパァンッ!!
遅れて銃声が響くのと、同時にヒロが銃弾を拳で弾いた音が鉱山内に反響する。
……軽く痺れた。
だが、その様子を気取られることなくヒロは抜刀。戦闘態勢に入る。
……今の50%機動で左足の筋肉が千切れた。激しい戦闘は厳しいな。
ヒロの魔物の力を引き出す能力にもデメリットがある。それは、今のヒロの全力にヒロの筋肉が追い付かないのだ。だから、普段からだすのはせいぜいが10%台。今回は銃ということで異例の50%を出したが、速度を考えるとこれからは30%ほどで十分だろう。
「お前、妹を殺そうとするなんて……正気か?」
「勿論。この遅れた国で生きることが、可哀そうだ」
その顔は、自分の言葉を微塵も疑っていないその顔で、
「アナスタシア。交渉は決裂だ」
「……ああ、そのようだな」
「帰るぞ」
「帰しませんよ。私の元から帰るのは、交渉が成立した時か、死体のどちらかです」
アルバーノの踏み込んだ一撃を受け止めて、ヒロが言う。
「誰一人として死体では帰らせんぞ。アルバーノ」
「眠った刀で何が出来るのだ? 【妖刀使い】」
かくて、戦いは始まった。
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