第1-11話 冒険者、罠を潜り抜ける
さて、歯向かう者もいなくなったので、ヒロ達はさっそく出発となった。
なったのだが、
「え、三人だけ?」
そう、向かうのはヒロとアナスタシア。そして彼女の侍女だけだ。
「そうだ。何が文句があるのか?」
「いや、文句も何も……」
「集団で行くと、交渉ではなく圧迫だろう。一応、私としてはあやつにまた軍の元に戻ってほしいのだ」
「あ、あのっ! 精一杯頑張るのでよろしくお願いします!! な、名前はラウラです」
ラウラと呼ばれた少女は、ヒロより数歳年下っぽい。白髪に、褐色に巨乳&メイドという少し属性を盛った感じのある子だ。
この国の人たちは遺伝的に髪の色が薄いんだろうか。
アナスタシアも肌の色は褐色に銀の髪だ。
この国は半分以上が砂漠らしいので肌の色が褐色になる理由は分かるのだが。
「ヒロです。よろしく」
この世界の挨拶は基本的に名乗りとともに握手だ。だから、ラウラとヒロは握手をしたのだが。
「あの……。ラウラさん?」
「しゅ、しゅごいよぉ。金級冒険者の人と握手してるよぉ……」
恍惚の表情を浮かべながらヒロの手をにぎにぎしてくる少女。
「ラウラさん?」
「す、すいません!」
ヒロが再び尋ねると、ラウラは慌てて手を離した。
……えぇ、これが交渉に携わって大丈夫か?
と、ヒロは思ったが今から人間を変えるわけには行かないので仕方なく受け入れた。まあ、今回はあくまでアナスタシアをメインに据えた交渉だ。ヒロはその護衛。別に魔剣使いと真正面から戦うわけではないので、この人数でいいのだろう。
大体、もし今回交渉に向かうやつが【煌剣】を完全に扱えるのなら、ヒロどころかパーティーメンバー全員で挑んでも勝てるかどうかは分からない。魔剣使いとは、そう言った存在だ。
「よし、ではいくぞ!」
そういってアナスタシアが声をかけると、御者が馬車をゆっくりと進め始めた。今回の馬車は、そこまで豪華絢爛なものではない。対外的に使う馬車と、対内的に使う馬車は違うということだろう。
そのまま、馬車に乗せられて進むこと1時間。王城から遠く離れると砂と岩だらけという風景から一転。岩だらけになっていく。岩石砂漠だ。地球の砂漠の約九割が岩石砂漠だと昔ネットで見た事あったが、この世界ではどうなのだろうか。
「ここで降りるぞ」
そう、アナスタシアが言ったのは岩が激しく乱立する場所。確かにこれ以上は、馬車で進むのは難しいだろう。
御者と馬車をその場で待たせて、三人は岩の間を抜けながらアナスタシアの後をついていくのだが、ラウラがどんくさいのなんの。
歩みも遅いわ、すぐにこけるわで、中々どうして進まない。何で連れてきたの……。
「どうしてラウラを連れてきたのかって顔をしているな、【妖刀使い】」
どうにも顔に出ていたらしい。
「あ、あぁ……」
「英雄はコイツの兄だ」
「なるほど」
確かに、実の兄妹なら交渉に向いているのか。なら、今回交渉にあたるのはアナスタシアだけでなくラウラもということか。
なら、何でメイド服でここに来させたの。
「メイド服はこやつが絶対脱ぎたくないと言ったのだ」
「メイドにとってメイド服は命ですからっ!」
また顔に出ていたらしい。
そんなこんなで十分ほど歩くと、アナスタシアが立ち止まった。
「あそこだ」
そういってアナスタシアが指さしたのは、岩山の中にぽっかりと開けられた鉱山への入り口。そこに入ろうとする、ラウラとアナスタシアを静止する。
「……何だ?」
「少し待て」
そう言ってヒロは地面に転がっている手ごろな大きさの石を掴むと、入り口めがけて投擲した。きれいな放物線を描いて飛んでいった石は鉱山の入り口付近に転がった瞬間に、接触した地面が爆発した。
「な?」
「……お主。今のどうやって見分けたのだ?」
「少し地面が盛り上がってるだろ? あそこに目を凝らすと、普通に設置タイプの魔方陣が光の反射でわずかに見えるんだ」
「……いや、見えんぞ」
「ひ、ヒロ様どうやってやってるんですかぁ」
アナスタシアとラウラが一生懸命、角度を変えて魔方陣を見分けようとする。
そんなに難しいことじゃないんだけどなぁ。
「まあ、これで向こうにも誰か来たって分かっただろ。俺が先頭を歩くから俺が踏んだところだけを踏んで歩いて来てくれ。間違ってもこけるなよ」
「分かっておる」
「き、気をつけますね」
ヒロは、歩幅を狭くしてあるくなど軽い配慮とともに、鉱山の入り口で二人を待つために待機。
普通に考えて罠が入り口付近だけなわけがないよなぁ。
ヒロは万全の警戒態勢で、後ろ二人が追い付いてくるのを待つと鉱山内部へと侵入した。狭い通路をしっかりと警戒しながら歩いていると、ふと立ち止まる。
「どうかしたのか?」
「いや、そこの壁には触れるなよ」
壁に触れようとした瞬間に、周囲の壁よりわずかに温度が高い一か所があった。侵入者対策用の罠だろう。
今回は完全に偽装してあった。ヒロが全感覚に集中していなかったら分からなかっただろう。
そういったことを繰り返し、鉱山の中の道を進むこと数分。一気に開けた大空洞に出た。ヒロ達が今入ってきた道がおおきな円を描くようにして、底へと伸びている。すぐ真横は数十メートルしたまで地面が無い。恐らくこの空洞はくりぬいたのだろう。あちらこちらに魔法で爆破させた後と思われる痕跡が残っている。
ヒロ達はゆっくりと罠を警戒しながらその道を使って底へ歩いていくが罠らしきものも一切見つからないままに、底まで着いた。
「地上で罠の音が響いたものですから、一体誰が来たのやらと思えばあなたでしたか姫様」
「……アルバーノ」
アルバーノ、と呼ばれた男は先ほどまでヒロが戦った軍人とは一線を画く服装。腰にぶら下げている剣は直剣。着こんでいる防具は甲冑。先ほどの軍人たちがイスラム系の兵士といった風貌なら、こちらはヨーロッパの騎士に近い恰好だろう。
「それにラウラまで。一体、なんの用ですかな」
アルバーノは一瞬ヒロを視界に収めて、すぐにその隣にいるラウラに移った。
……俺はスルーですかい。
「ふん、とぼけおって。貴様と話すことはただ一つ。この鉱山を明け渡せ」
「それは姫様のお言葉とあっても承諾しかねます」
バチバチと、目に見えぬ火花を散らして交渉が始まった。




