第1-10話 冒険者、模擬戦をす
「陛下、お連れしました!」
アナスタシアに連れられて二日。砂と岩の中を抜け、到着したのは砂漠の中にあったのはオアシスとともにある街、帝都だった。連れられた王城は最も簡単に例えるなら、タージマハル。白い色の岩石と、丸みを帯びた屋根が特徴的な建物だった。
その後、アミとリリィは別室に向かいヒロが連れてこられたのは謁見の間。側にアナスタシアもついている。多くの軍人に囲まれながら、ヒロは謁見の間でひざまずく。
……マナーがわからん。
分からなくても、見よう見まねでそれっぽい恰好をとっていると、ふと声をかけられた。
「面を上げよ」
と。その声に従い、顔を上げると目の前には優しそうな一人の男。
「父上、こやつが私とともに交渉に臨んでくれるものです」
「ほう……。その若さで金級冒険者か。よほど修羅場をくぐったものと思われる。ならばこそ、アナスタシアを頼んだぞ」
「はっ」
こんな返事でええんかいな。
と、思うものの正しい返答も分からないし、いったんこれで通そう。
「下がってよいぞ」
皇帝の言葉に、うやうやしく礼をしたアナスタシアを見ながらそれっぽい礼をして、退室をすると、後ろから声をかけられた。
「冒険者殿、冒険者どの」
「……何だ?」
声をかけて来たのは、軍人と思われる男。服装は布で出来た軽装だが、腰には一本の曲刀がかかっている。
「何か用か?」
「はい、冒険者殿は金の冒険者証をお持ちのようで。よろしければ、私と少しばかり剣を打ち合ってほしいのです」
男の目の底には、侮蔑の色。顔には決して出さないあたり優秀なのか、そうではないのかよく分からないような男だ。
「あぁ、まあ別に良いけど」
「なら、修練場に行きましょう。さぁさ、こちらです。姫様も、ご覧になっていきまんか?」
そう言って向かう男を後ろから眺めていると、アナスタシアが小声で耳打ちをしてきた。
「気を付けろよ、【妖刀使い】。アイツはダロー。生まれも育ちも軍人だが、いやにプライドが高い。今回も、軍の中からではなく冒険者から護衛が選ばれたことを不服に思っているらしいのだ。多分、お前を貶めるために何か策を練っているはず」
「あぁ、気を付けるよ」
ヒロにとって、そう言ったことは別に珍しいことではない。普段の覇気の無さそうな顔で、金の冒険者証を掲げていると、よく決闘やらなんやらを挑まれるのだ。金級冒険者は、ギルドの顔だからめったな決闘などは禁じられているので、ヒロとしてもあまりやらないが。
今回のことも、ダローはあらかじめ修練という名目で誘ってきた。決闘というと、ヒロが避けることを考えてのことだろう。
面倒だが、ヒロとして火炎蜥蜴人の身体能力がどれだけ強いものだったのかを知るいい機会になる。悪いが、本気でぶつからさせてもらおう。
修練場に行くと、そこを取り囲むかのように数多くの軍人が集まっていた。皆、排斥の目をヒロに向ける。やれやれだ。
「申しわけない、冒険者どの。皆、金級冒険者の強さを一目みたいと言いましてな」
「別にいいさ。本気で戦うわけでもないし」
ヒロの言葉に、ダローが少しばかり顔にいら立ちを滲ませる。
「それは、私に対して本気をだすまでもないということですかな?」
「……戦いは見世物じゃねえんだ」
少しばかり、殺気を込めたヒロの言葉にダローがたじろぐ。
「ま、まあ、良いでしょう。少しばかり、剣を打ち合うだけですから」
「真剣でいいのか? 模擬刀でやるのか?」
「模擬でやりましょう。なにも真剣でやる必要はない」
ダローがそういった瞬間、わずかに口角が吊り上がった。
……何か仕込んでいるのか?
そうは思ったが、手に渡された木の短刀を軽く振るってかぶりを振った。特におかしなところはない。普通の短刀だ。
「では、やりましょうか。冒険者殿」
「あぁ、そうだな」
ちらりとアナスタシアの方をみると、がんばれとエールを送ってきた。あれはどっちを応援しているんだろう。
ダローとヒロの間に入った軍人が、開始の合図を出した瞬間にダローが地を蹴った。ダローが狙ったのはヒロの膝。まずは動きを削ぐ気だろうか?
ヒロはその狙いすましたような一撃をぬるりと避けて、刃で狙ったのは隙だらけになったダローの首。だが、それをダローが模擬刀で受けた瞬間、ヒロの刃が砕け散った。
「……あぁ、なるほど」
「おや、どうしますか? 冒険者殿」
先ほどの打ち付けた感覚は、間違いなく金属の物だった。ダローが細工したのは、己の剣。芯に金属を仕込むことでヒロに重い一撃を与えようとしたのだろう。
ヒロもヒロとて模擬刀が砕けるような勢いで首を狙ったのであまり彼のことを責められないが。
「いや、続けようぜ。こっちの方が、おもしろい」
「……いいでしょう。後悔はしないことですよ」
「当然」
ヒロは自らに降り注ぐヤジを聞き流しながら、ゆっくりとファイティングポーズを取った。
「まずは、5%で相手してやる」
「馬鹿にするなァ!」
まさかの激昂。ダローは拳を構えたまま、動かないヒロを相手にまっすぐ剣を振り下ろした。だが、今まで喰ってきた魔物の5%の力とは言え、解放さえすれば振り下ろされる速度は、ほぼ静止。
だから、ヒロはゆっくりと振り下ろされるそれに拳を合わせ、丸みに添わせるようにして流した。
「はぁ!?」
「何をそんなに驚くんだ?」
自らの剣が拳で逸らされたのがそこまで驚くことなのか、ダローは地面を蹴って距離を取った。今の瞬間も貫き手を合わせようと思えば合わせれたが、そうまでして勝負を急ぐ必要もないだろう。
「おいダローっ! 変な攻撃すんなよ!」
「ちゃんとやれ!!」
「うるさいぞッ!」
雨のように浴びせられるヤジに一喝し、ヒロに向き直る。
「今のは、私が油断したのが悪かったのだ」
「そうか、なら早くかかってくると良い」
そう言って、ヒロが挑発するように手を振るうと顔を真っ赤にしてダローが飛び込んできた。
あ、馬鹿だ。この人。
ダローの速度を乗せた振り下ろし。それに合わせる様に刃の横から拳の甲で打ち付ける。
バキッッツ!!
心地の良い音とともに、模擬刀が砕けその中に仕込んである鋼色の物体が露わになる。刹那、何が起きたか理解できていないダローの真後ろに回り込み、首筋に短刀を当てた瞬間、審判の男が頷いた。
「勝負ありッ!」
「そんな……。そんなことが……。私が冒険者如きに負けるなどあり得ない……」
「ま、まあ俺は一応金級冒険者だし」
「ひっ……化け物……」
ヒロが近づくと、そう言われて逃げられた。
化け物って……。傷つくなぁ……。
まあ、金属の芯で出来た模擬刀を砕くのは人間やめてるか。
「まだ、俺に勝負を挑みたいやつがいるなら、乗ってやるぞ!」
ヒロの言葉には、沈黙という答えが返ってきた。
……リアクション薄すぎて、悲しい。




