第1-09話 冒険者、帝国へ向かう
目の前で土下座を続ける少女に、三人は固まった。固まったというか、それ以外のリアクションを思いつかなかったのだ。
「えーっと、誰?」
ヒロの言葉に褐色少女が顔を上げる。そこから零れ落ちるのは美しい銀の髪。茶と銀のコントラストが美しい。
「我が名は、アナスタシア。アナスタシア・イェル・シエロ! シエロ帝国第三王女だ」
……ん?
「……?」
ヒロもリリィもアミも頭に疑問符を浮かべまま、静止。なんで王女様がヒロ達の宿にいるんだろう。
「……王女様が土下座なんてしていいのか?」
っていうか、この世界にも土下座あるんだね。
ヒロが尋ねたのは、後ろの従者二人。彼女たちは困ったように微笑んだまま顔をそむけた。
いや、駄目なのかよ。辞めさせなさいよ。
「……とりあえず、座れよ。話くらいなら聞いてやる」
「ありがとう、ならここに座らせてもらうぞ」
そう言って座ったのは、ベッドの上。
……まあ、別に良いけどさ。
出来るなら目の前にあるソファに座ってほしかったね。
「んで、一体全体なんの依頼だ。なんで俺に国を救ってくれなんて話が来る」
「その前に、我がシエロ帝国の話をさせてくれ。【妖刀使い】よ、お主は我が国がどうやってできたか知っておるか?」
平然とヒロの二つ名を呼びながら王女がそう問いかける。
「いや……。そういうのは疎いんだ」
そう言ってリリィを見ると、彼女が頷いた。
「シエロ帝国は、侵略国家だ。精鋭ぞろいの騎兵隊が速度を活かした電撃戦で襲い来る。たった一夜で王城を失った国もあるほどだ」
「我が国は周囲の国々を襲い、その土地、人民、産業を我が国の物とすることによって国の力を増してきた国なのだ。だが、それも先代までの話。我が国は現在の皇帝ニコライ五世より、侵略戦争を行っていない。侵略を行わなくても、やっていけるだけの産業を手に入れたからだ、それが」
「宝石……だろう」
「よく、知っているな」
リリィの言葉にアナスタシアは満足げに頷く。
「我が国は砂と岩が全ての国なのだ。その地下に宝石が埋まっていることが分かった時、民は喜んだよ、もう戦争をしなくても良いとな。けれど、それに異を唱える者たちがいた。それが、軍人どもよ。だが、彼らの言いたいことも分かるのだ。彼らは侵略によって生計を立てていた者たちだ。生まれてもとより、戦うこと以外を知らぬものたち。そんな者たちに我が父は鉱山の死守を命じた。我が国は周辺国から恨まれておるからの、そんな我が国の産業の根幹を守れというのは、転じて我が国を守ることにつながる」
「……それで?」
「だが、軍の中の一人の男がそれを嫌い、今鉱山を自らの占領下においておる」
「追い出せよ」
「……我が軍では出来ぬ」
苦しそうにアナスタシアがいう。
「何故?」
「あやつは、御国の英雄なのだ。軍の中で、アイツに歯向かえるものはおらぬ。それに、強い。生半な冒険者では、たちまちに斬られてしまう。だが、あやつはこの私と私的な縁がある。お主にはその時の護衛を頼みたいのだ」
「だから、国を救えか。その鉱山を諦めて他の場所掘ればいいんじゃねえの?」
「もうしておるが、ちゃんとした鉱山の完成までにはどこも5年はかかる見込みなのだ。その間の産業を、全てあの鉱山に頼っておった」
「報酬は?」
冒険者は無料では決して動かない。特にヒロは金級冒険者だ。何もしていなくても、ギルドから様々な依頼が舞い込んでくる。それを、一年間だけという契約で差し止めてもらっているのだ。彼女の依頼を受けるということはギルドの顔に泥を塗るということにもなる。故に、報酬はそれに見合うだけのものでないといけない。
「我が国から産出した特壱級痕機を、一つ譲ろう」
「やらせてもらおう。その仕事」
「えっ、即決するんですか!?」
「いや、だってこんな破格の条件。飲まない訳には行かないだろ」
特壱級痕機の価値の高さ、希少さは誰よりもヒロが知っている。もし、人を生き返らせることが出来る痕機があるのなら。それは、ヒロが願っている痕機だ。もし、この『レルトの地下迷宮』で見つからなければ、残りの時間を考えると、もう見つけるのは絶望的になる。
だが、彼女との契約が正しく履行されるのなら。
「ありがとう【妖刀使い】。馬車はこちらで用意した。明日の正午に西門で落ち合おうぞ」
「ああ、っていうかお前らどっから入ったんだ」
「ん? ああ、宿の主に少しばかり金を握らせると入れてくれたぞ」
セキュリティガバガバじゃねえか、この宿。
そんなヒロの心境はいざ知らず、三人は入ってきたときと同様にして扉から出ていった。
残った三人は顔を見合わせて、とりあえず夕食を取ることにした。
翌日、言われるがままに西門にいくと一際巨大な漆黒の馬が二頭。
しかしデカいな……。三メートルほどはありそうだ。
「黒曜馬だな」
「なんです? それ」
リリィの呟きにアミが反応した。
「普通の馬よりも速度と体力がある馬だ。それだけじゃなくて、魔術適性にも優れている馬だ。西の方にしか生息していないのだが……」
「来たな、【妖刀使い】。乗れ乗れ」
でかい馬車から顔を出してアナスタシアが呼び込む。
それにつられるようにして周囲の視線がヒロに集まる。……恥ずかしい。
「わぁ……」
中に乗り込むと、アミが感嘆の声を上げた。赤い絨毯に赤い椅子。座り心地はもちろん抜群。装飾は豪華絢爛。自国のものと思われる宝石を無数につかっていた。馬車の中には既にアナスタシアが座っていて、二人の従者からかいがいしく世話を受けていた。
「悪趣味だな」
「ふん、王族にはふさわしい乗り物があるのだ」
確かに、そう言われてしまえば何も言えない。
ヒロ達三人が乗り込むのを見届けて、ゆっくりと馬車が進み始めた。街を抜け、街道を走り、そして人の気配が無くなるのを確認するにつれて速度がどんどん上がっていく。
「速いですねぇ。車みたいです」
思わずアミがそう漏らしていたが、ヒロもそれには同感だ。
時速70キロ近く出てないか、この馬車。
もはやそれを馬車と呼ぶのかはさておき、ヒロは王女に向き直る。
「御国の英雄とやらの詳細を教えてくれ。情報が欲しい」
「うむ。得意とするのは長剣だ。アイツが先陣切って飛びこんで、相手を攪乱。その後、本隊が飛び込むということをよくやったらしい。一度剣を振るえば一騎当千、アイツが歩いた後には無数の屍が山と連なったとよく聞いたものだ。無論、魔法も使えるぞ。よく使うのは火属性魔法、水属性魔法、風属性魔法、そして光属性魔法も軽くだが使えるな」
「……化け物だな」
「だが、【妖刀使い】。今回お主を呼んだのはほかでもない。アイツの武器に関してだ」
「武器?」
「そう、アイツは世界に三人しかいない魔剣・妖刀使いの一人。【煌剣ナンシェ】の使い手なのだ」
「……ッ!?」
「魔剣には、魔剣・妖刀しか立ち向かえない。故に、今回のお主に依頼を頼んだのだ」




