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外れを引いた異世界転移~世界を壊すは我にあり~  作者: シクラメン
第1章 こんな世界でも生きてみたいと思ったんだ

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第1-08話 冒険者、喰らう

リリィとヒロがレルトにやってきて二週間。三人はやっと、最前線である第78階層にたどり着いていた。

第78階層は地下深くにあるというのに、まったくもって寒くはない。むしろ、暑い。


第75階層からちらちらと見え始めていた、地を這う溶岩は潜れば潜るほどにその濃さと密度をまして冒険者たちを待ち構えていた。そこで役立つのが灼熱対応型体温下降ひえひえポーションだ。

一応、一瓶で二時間もつが溶岩の中に落ちようものなら助かりはしないだろう。ちなみに一瓶で3万イルである。探索とて、安上がりではない。けれど、第70階層より下の魔物を狩るとその魔石だけで5万イルを超え、下手をすれば10万イルを超える。稼げないことは無い。


 第78階層の主な足場は溶岩が固まってであろう大地の上。迫りくるのはC+級の魔物であるサラマンダーだ。彼らの吐息は、一瞬だが岩すら溶かすまでの温度を叩きだす。彼らの吐息に触れようものなら、中級治癒ポーションが必要となる。腕を溶かし、足を溶かす蜥蜴の吐息に触れぬように殺さねばならない。


 「ここまで来ると、他の冒険者はいないな」

 「流石に、ここまで来れる冒険者は金級か銀の上くらいだろう」

 「78階層はかつての冒険者が階層攻略を諦めたって話ですけど、本当なんでしょうか?」

 「階層主ボスに挑んで全滅したって話だろ? どこまで本当かは知らないが」

 

 『レルトの地下迷宮ダンジョン』情報本に載っている情報はこの階層まで。第79階層の情報も、78階層の階層主の情報も載ってはいない。

 聞いているのはただ一つ、挑んだ攻略隊は全滅した。


 「ここ、か?」


 ヒロが見つけたのは煌々と流れ輝く溶岩の中にそびえたつ一つの扉。無論、そこまでの道も存在している。こうしていると、少し地下迷宮ダンジョンというものに対して不思議な感情を持ってしまう。


 ……どうにも、気になるんだよなあ。


 地下迷宮ダンジョンに潜る際に、各階層には階層主ボスと呼ばれる魔物がいる。では、何故その階層主たちは生き返るのだろう。地下に潜ろうとする冒険者たちを阻むのだろう。それに、階層を跨いで移動しようとしない魔物たち。落ちる『痕機ラグアート』という名前も気になる。いったい何の跡だというのか。


 ……うーむ、不思議だ。


 三人で、固まった溶岩を歩きながら階層主の部屋へと移動する。後ろでアミが中級上位の補助魔法バフを発動した。

 ヒロとリリィの身体に力が増していく。扉を開ける。ゆっくりと、扉を開けると中にいるのは巨大な蜥蜴人リザードマン。だが、その堅牢な鱗は全て紅く染まっている。火炎蜥蜴人イグニス・リザードマンだ。

 

 火炎蜥蜴人イグニス・リザードマンが叫んだ。


 瞬間、ヒロも構える。


 「手始めに、10%で相手しやるよ」


 そう、ヒロが宣告した瞬間にヒロの身体能力が一瞬で向上した。地面を蹴って一気に近づくと、短刀を火炎蜥蜴人めがけて振り下ろした。瞬間、噴き出した炎が潤滑剤となって刀の刃が鱗の上を滑っていく。


 「『光は集まり、敵を穿つ』ッ!」


 パッ、とリリィの詠唱で光の線が一瞬で蜥蜴人の身体を貫く。火炎蜥蜴人イグニス・リザードマンはその攻撃でわずかにたたらを踏んだが、すぐに炎が傷口を塞ぐと出血を抑える。それと同時に火炎蜥蜴人イグニス・リザードマンの回し蹴りが放たれた。

 

 ボウッ、自身の踵から炎を噴き出すことで勢いをつけた回し蹴りは回避する数瞬も与えられずにヒロに直撃。ヒロの外套『常闇の帳』が一瞬、黒いオーラを出すことで熱を最小限に抑え込む。これは呪いの域にまで高められた祝福の恩恵。


 握りしめた拳が火炎蜥蜴人イグニス・リザードマンへ数回叩きつけられると、真下へ消えたヒロの真下からすくい上げるような斬撃。だが、殴られた勢いを利用して真後ろに跳んだ火炎蜥蜴人イグニス・リザードマンには届かない。


 火炎蜥蜴人イグニス・リザードマンは、五メートルほど離れたところでファイティングポーズを構える。瞬間、纏っている雰囲気が変わる。それは、まるでヒロが魔法のスイッチを入れた瞬間のような……。


 「しゃーねえ。50%で行くぜ。リリィ、合わせろ」

 「任せてくれ」


 火炎蜥蜴人イグニス・リザードマンの身体から無数の蒸気が上がっていく。そして、消えた。その動きを捉えらなかったのは、アミだけ。リリィは目で捉えるだけ。

ヒロだけが、その速度についていける。火炎蜥蜴人イグニス・リザードマンがまっさきに狙ったのは戦闘に一切かかわらなかったアミだった。全身から炎を噴き出しながら、火炎蜥蜴人イグニス・リザードマンはアミへと迫る。だが、それに追いついたのがヒロ。全身の筋肉に黒い色の幾何学的なラインを浮かばせながら飛び込んだ。

 自分の手が焼けるのも構わずに、炎に手を入れると火炎蜥蜴人イグニス・リザードマンの腕をつかんで、右腕に握った短刀で切り落とした。


 火炎蜥蜴人イグニス・リザードマンが絶叫。腕を切り落とされた痛みが、彼の悲鳴となって現れる。その、動きを止まった瞬間に火炎蜥蜴人イグニス・リザードマンの頭めがけてリリィの光線が放たれるが間にそびえたつ炎が、その光線と散らす。ヒロによって、奪われた右腕を炎で取り繕った火炎蜥蜴人イグニス・リザードマンは、ロケットのように自分の足の裏から炎を噴き出して、三人から大きく距離を取った。


 「『イャアルレロ・ゲルル・ガルキント』ッ!」


 火炎蜥蜴人イグニス・リザードマンが詠唱したのは、三小節の魔法。

 ヒロは歯噛みする。そうだ、たかが蜥蜴人リザードマンごときに精鋭の攻略隊が全滅するはずがない。あふれ出した膨大な炎が、ゆっくりと蛇の形を取りなしてこちらをにらみつける。

 上級下位魔法『全てを飲み込む火炎蛇(フレイム・サーペント)』。自ら意志を持ち、召喚者によって設定された敵外生命体を全て燃え尽きるまで消えない炎の蛇だ。


 「な、なんですか。アレ!?」

 「……触るなよ。骨まで燃やされるぞ」


 ヒロも一度だけしか文献に目を通したことがないため、どこまで正しいか知らないがあの魔法で生み出された炎は消すことが出来ない。一度ついた炎は対象物が燃え尽きるまで絶対に燃え続けるのだ。こうなると、水属性魔法でも対処できない。

上級魔法には、上級魔法でしか対応できない。


「アミ、リリィの手を取れ」

「ヒロ君、まさかっ!」

「やるしかねえだろ。こうなるなら、ちゃんと準備しておけば良かったな」

「く、黒瀬君。何を?」

「君はこっちに早く来いっ」


 アミの問いが終わるよりも先に、リリィがアミの手をとって部屋一番外側へと走っていく。それを火炎蜥蜴人イグニス・リザードマンはただ見ているだけ。どうやら、最初の標的はヒロと決まったようだ。


 ヒロは自らの腕を短刀で浅く切った。火炎蜥蜴人イグニス・リザードマンが不思議そうに首をかしげる。


「『救いなど無いこの世界では』」


 ヒロの詠唱。わずかに血液に魔力が混じり始める。


「『強者に優しい世界では』」


 第二詠説で終わらないことを確認した火炎蜥蜴人イグニス・リザードマンは焦ったように炎の蛇をヒロにけしかけた。


「『強くなければ価値はない』」


 炎の蛇が掻き消えた。いや、正確に言えば炎が闇に喰われているのだ。

 ヒロの腕から零れ落ちるのは血液ではなく、純粋な闇。これはヒロが使える、二つ目の魔法(・・・・・・)

 ゆっくりと、広がっていく闇の中には無数に生える乱杭歯とそこから覗く巨大な舌。無限の口から洩れるのは嗤い声。地獄の底から聞こえるようなそれは、常人が効けば正気などたちまちに失うだろう。


「ひっ……」


アミが広がってくる闇にたいして、後ずさる、


 「く、黒瀬君は何をしたんですか?」

 「あれは、ヒロ君が使える二つ目の魔法。私たちは『暴食グラ』と、呼んでいる」

 「二つ目? でも、黒瀬君はいくつも魔法を使ってるじゃないですか」

 「……違うんだ。あれは一つの魔法。あれはヒロ君が死にかけた魔法を模倣し、再現する魔法で、私たちは『微かな奇跡(モレント)』と呼んでいる魔法だ」


 リリィの解説をアミが聞いている間に、戦いは決着がついたようで巨大な口がぺっ、と火炎蜥蜴人イグニス・リザードマンの武器と、魔石を吐き出した。

 

 「そして、ヒロ君は『暴食グラ』で食べた魔物の力を、自分の力に加算できるんだ」

 「じゃ、じゃあ、あの10%で行くってのは」

 「今まで食べた魔物の総合計した力から10%だけ引き出すということだ」

 「……無茶苦茶よ」


 アミはその言葉に戦慄を覚えた。


 少女から貰った才能は同じのはずで、この世界で生き抜いてきた年数も同じはずで、それでどうしてここまで差が出るのだ。

 

 「さて、今日は帰るか。この魔石は高く売れるぞ」


 ヒロは今しがた出せる様になった闇の炎を試しに出しながら笑う。


「もう、お金は余ってるだろ?」


 リリィが笑いながらヒロに近づく。

 アミはそんな二人を見ながら、ただ入るパーティーを間違えたとずっと思っていた。




 「しかし、この炎は熱くないんですねぇ」

 「熱くもできるぜ」


 ギルドに火炎蜥蜴人イグニス・リザードマンの魔石を持って行った瞬間に、冒険者ギルドは大騒ぎに転じた。どうやら今から攻略隊を組んで第79階層以降の調査に向かうらしい。


 「……今日は疲れたから早く寝たいぜ」

 「その前に、全身の火傷を治しますね」

 「私のも頼む」

 「勿論ですよー」


 三人がそんなやり取りをしながら宿の扉を開ける。


 「おい、灯りついてるぞ」

 「えっ、私消しましたよ?」

 「私は今日、触ってないぞ?」

 

 じゃあ、一体だれが……。


 とヒロの首がゆっくりと動いて固まった。ベッドの上に座っている一人の褐色少女。

 その側には従者のような恰好をした、二人の女性。その真ん中の褐色少女は部屋に入ってくる三人を見るなり、ジャンピング土下座をかました。


 「頼むっ! 我が国を救ってくれえええええええええええええっ!!」

 「…………はい?」

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