第1-01話 冒険者、混沌の街に現る
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喧噪が響く酒場。ここにいる半分が冒険者で、残りの半分が賞金稼ぎで、そして残りの半分が迷宮漁りだ。
その中に二人、一人は黒い外套を羽織り腰には一本の短刀。黒髪と黒目、この地域では異端とされる風貌の青年がいた。けれど、彼を馬鹿にするものなどはいない。それは胸に輝く金の冒険者証がこの酒場に入った人間全てに見えているからだろう。金の冒険者に喧嘩を売るような馬鹿はいない。
一方、その青年に付き添うように座って軽く酒を飲んでいるのは全身を黒い教会戦闘装束にとても似ているが、明らかに教会のものとは違う服に身を包んだ少女。銀の髪に透き通るような、紫水晶の瞳。当然、その胸には金の冒険者証。
「特壱級痕機の目撃情報があるから来てみたものの、どことも変わらないな。ここは」
「そういうな、ヒロ君。特壱級痕機など伝説の産物。私たちのように、それを狙っているような冒険者でもない限り本気にもならないよ」
「けどリリィ、特壱級痕機だぜ? 特壱級なら、俺たちの狙っている産物の可能性がある」
だが、その二人の冒険者証は一つだけではない。ヒロと呼ばれた青年の方には、金の冒険者証に隠れる様にして血で錆びた銅の冒険者証が見える。よく読むと、掠れた文字でガウェインと読める。一方、リリィと呼ばれた少女の方にも血に濡れた銅の冒険者証。こちらにはロザリアと読める。
双極絶死
彼らのコンビ名だ。誰が呼び出したか、いつからか二人はそう呼ばれるようになった。二年前に起きた『アレアの惨劇』。たった二人の生き残りである彼らは、それ以来狂ったように地下迷宮攻略に精を出し始めた。
そうして、彼らが地下迷宮攻略に力を入れだして半年。冒険者の街ガルトンドに根を張っていた未攻略の西の迷宮は、彼らの恩恵により攻略がなされた。
だが、彼らはそれからも新しい迷宮に潜ってはその迷宮を誰よりも先に攻略するという荒業で、その名をとどろかせていた。
彼らの目的はただ一つ。神の御業の再現だ。
「特壱級か……。一年以来だな」
「ああ、あの時はひどかったな。ただ、時を止めるだけの時計だったとは」
「時間停止、しかも持ち主の寿命を使う代物など私たちには無用の長物だったな」
そういって、二人は微かに笑う。喧噪によって二人の言葉は誰の耳には届かなかった。
だが、それで正解だっただろう。
特壱級痕機、それは御伽噺の産物だ。人の想像上でしかなしえないようなあり得ない現象を巻き起こす。だが、それは冒険者の一生の中でも一度出会えたら酷く幸運な部類にあたる。『痕機』を狙って荒稼ぎする迷宮漁りでも、その話を聞くことはあっても実際に出会うことなどほとんどない。
だから、一度それを見つけたからにはどんなものでも冒険者たちは持って取っておく。売りに出せば、一生遊んで暮らせるだけではなく五世代後まで余裕で遊んでも金が足りないほどの額で売れるだろう。だからと言って、誰が売りに出すのかということである。
例えば、今まで見つかった特壱級痕機を軽く紹介しよう。
・時を止める懐中時計。
・一度だけ死を代替わりする指輪。
・見るものすべてを魅了する仮面。
などなどだ。例え売ればそれだけの金が入るとしても、自分で持っておいて自分で使うのが最もありふれた特壱級痕機の扱い方なのだ。
だが、去年。一つの特壱級痕機が闇オークションに売り出された。時を止めるというその懐中時計は数千億、あるいは数兆円で落札されたという噂だ。
「夜も遅いし、今日は一度宿に戻るぞ。潜るならやっぱり朝だろ」
「ああ、今日は街の様子が見れただけ良しとしよう」
二人が会計を済ませて帰ろうとした瞬間、酔っぱらった冒険者が店員に絡んでいるのが見えた。
「おいっ! 注文して出てくるまでがおせえんだよ!」
「すいません! すいません!」
店員は若い女性だ。体のいかつい冒険者相手に何度も頭を下げている。見ている人達は誰も助け船を出さない。
何故なら、これはどこの酒場でもありふれた風景だから。一々こんなのに介入していたら時間が幾らあったって足りるはずがない。だから、ヒロもリリィもそれを一度見てから通り過ぎた。
……かわいそうだけど、悪いな。
「大体よぉ、この店の店員は弛んでるんだよぉ! なぁ!?」
男が声を上げると、パーティーメンバー達がそうだそうだと声を上げる。
女の店員はひたすらに謝罪を重ねている。
「テメエ、さっきから何度も何度も同じこと繰り返しやがって馬鹿にしてんのか!」
「い、いや。そんなことは」
「ゴチャゴチャぬかすんじゃねえ。殺すぞ!」
リリィがため息をつく。その息が吐き切られるよりも先にヒロが抜いた短刀が騒いでいた冒険者の首元に充てられていた。男の真後ろにはヒロ。身動きが取れないように拘束していた。
短刀は刃渡り30センチ。光すら断ち切るような白銀の刃に、黒を基調とした柄はところどころが紫に光っている。手持ちのところは皮ではなくテープのようなもので無理やりに作られている。一目みるだけで、普通の短刀ではないことだけは確かだった。
「ひっ……」
一瞬遅れて風が吹く。酒場の中の喧噪が止まる。
騒いでいた男の胸に掛かっていた銀の冒険者証が揺れる。
「俺の前で殺すという言葉を使うな」
ヒロのひどく冷めた声が酒場に響く。だが、それにも止めに入る者はいない。
「返事は?」
「はい……」
ヒロは短刀を喉元から離して、男の拘束を解く。
「会計を頼むよ」
「はいっ!」
ヒロがそういうと、先ほどまで絡まれた少女が飛び出すように硬貨を受け取った。しだいに酒場に喧噪が戻っていく。別に珍しい話ではない。こんなことは幾らでも、どこでも起きているからだ。
二人は外に出て、宿へと向かう。
サケルネルテ共和国。アレアの街から遠く離れた最も南の街、『境界都市レルト』。
ここは西にシエロ帝国、南にベルムガルム皇国、東に東方連合と、海に面している最も混沌な街。
様々な人種、国籍、文化が入り混じりそれぞれの思惑が入り乱れる街。
そして、特壱級痕機が眠る街でもある。




