第18話 来訪者、金持ちになる
兄さん……。
兄さん!?
「え、お前。兄弟いたの!?」
「え、グラディウスって兄弟いたの!?」
ヒロの言葉とマルメスの言葉は同時に放たれた。
確かに『英雄』グラディウスとガウェインの姿はとても酷似している。酷似しているが……。
「ガウェイン。お前も冒険者になったのか」
「そうだよ」
「目覚めたか?」
「まだだよ」
「そうか」
兄弟の会話はそれで終わった。グラディウスがガウェインに背を向ける。
「兄さんっ!」
「何だい?」
「僕は絶対、追い抜いて見せるから!」
「待ってるよ」
短いやり取り。賢者が腕を振るうと、『暁の星』の前の風景が歪んでやがて四人はその中に消えていった。
帰るか。そう、ヒロが言おうとした瞬間にリリィが飛び込んできた。
「……よがっだ。ヒロ君が生ぎでてよがっだよぉ」
泣きながら、それはもう見事な泣きっぷりでリリィが泣いていた。まあ、ガウェインはあの感じを見るに死んでなさそうだったし。
「ごめん」
しばらくリリィは、泣き止まなかった。
その後、ヒロ達は冒険者ギルドへと戻って手持ちの魔石を全て売却した。吸血鬼の魔石を見せた瞬間にギルド内が大騒ぎとなって、受付嬢では価値が鑑定出来ないということになり、鑑定士が出てきて五千万は下らないという評価を押してまた大騒ぎ。
王都の方へと流されて、オークションの落札を待つこととなったのだ。
もちろんそれらは5%の手数料を貰うという契約でギルドがやってくれるので、一安心だろう。
そしてそれだけではない。地下迷宮内で吸血鬼と接触して生き残ったという銅の冒険者たち。そんなものが噂にならないわけがない。
一瞬で冒険者たちに拡散すると、一躍ヒロ達は有名人となったのだ。
「やりづらいわね」
「そうですねぇ」
ギルドから莫大な金が振り込まれるの確定しているため、四人は装備屋で売られている装備を片っ端から見て回っていた。ヴェリムの魔石は五千万は下らない、つまり一人当たり一千万イルは超えているのである。
サンキューヴェリム。お前の犠牲は無駄にはしないさ。
だが、ここで問題が発生した。四人が見て回るとどこの店にも噂が言っているのか、ひどく丁寧な接客をされるのだ。いや、それくらいなら良い。四人してなんだか偉くなったみたいだな、なんて軽口を言い合っていたのだから。
しかし、どこに行ってもそんな態度を取られると次第に気が滅入ってくる。こちとら生まれ持っての平民なのだ。丁寧な接客をされると逆にストレスがたまる。
しかも道を歩いていると話を勘違いした輩が勝負を挑んでくる。
戦ったのは『暁の星』だっつーの。
「へい、らっしゃい。って何だお前らか」
いつかガウェインと一緒に盾を買いにきた店主は四人みるなり露骨に嫌そうな顔をした。何故。
「有名人がこられるとやりづらいったら仕方ない」
なるほど。
「それで、今日は何を買いに来たんだ?」
「実は先日買った盾が壊れまして。新調しようかと」
「壊れたぁ? 吸血鬼の野郎にでもやられたのか」
「ええ、はい」
「……そうか。こっちにこい」
これだよ、これ。こういう接客を求めてるんだよ。
「今回の予算は?」
「200万イルです」
「随分と懐が温かいじゃねえか。うらやましいこった」
ガウェインは良いところのお坊ちゃんだと思っていたが、兄が『英雄』だというなら、かなりの額の仕送りを貰っているのだろう。そりゃ金持ちだわ。
「200万も払えるなら、良い盾買えるぜ」
そう言ってドワーフがガウェインの盾を見繕っている間にヒロは防具のコーナーを見て回る。ヒロが着ている防具、未だ駆け出しセットである。だがそれもヴェリムのせいで見るも無残に壊れてしまった。これはちょうどいいタイミングだということで、新しい防具を買うことにしたのだ。
「鎧は嫌だなぁ……。身動きのとりやすい服。身動きのとりやすい服……」
「これとかどうです?」
いつの間にか後ろを歩いていたリリィが灰色の外套を指した。
「うわっ、750万イルもするよ。これ……」
「でも見てください。環境適性、身体強化に防御強化の多重祝福ですよ」
「でも750万イルかぁ……」
しかもデザインがそこまで好きじゃない。
しかし、値段に見合った性能はしている。環境適性が二重祝福、身体強化が四重祝福、防御強化が三重祝福、計九重祝福だ。性能お化けである。
しかしその分お値段もお化け。
「ヒロ君は闘い方が危なっかしいんですから、こういうのを買った方が良いんです!」
リリィは吸血鬼の闘いのあとから露骨にくっついてきて、世話を焼いてくれるようになった。
……俺のことが好きなのかな。ハハっ、そんな馬鹿な。
「なんだいヒロ。防具を買うのかい?」
「ああ、今見てる途中なんだ」
盾はもう見終わったのか、ガウェインがこっちにやってきた。ロザリアはどこ行ったのかと思ったら端っこの方で長剣を見ていた。……買うのかな。
「どんなものが欲しいのか決まってるのかい?」
「いや、まだこれといって決まっては無いんだ」
「男なら鎧を着るべきだよ、ヒロ。がっちりとした金属を着こんで長剣を振り回す。うん、これが男のあるべき姿だ」
「ダメですよ! ヒロ君は魔法を使ってあっちに行ったりこっちに行ったりと状況を見ながら上手く立ち回るから外套のような身動きのとりやすい服が良いんです!」
「リリィ、これは男の問題なんだよ」
「いーえ、ガウェイン君はヒロ君の良さを分かってません! ヒロ君はあのすばしっこさがあるから良いんじゃないですか」
「何を言っているんだいリリィ。そんなヒロが鎧を着こんで前衛として戦う。これ以上男らしいことは無いじゃないか」
何を言っているんだこいつらは。人で遊ぶんじゃない。
まだ言い争っている二人を置いて、ヒロは別の防具を見に行く。
「あ、どこに行くんですかヒロ君」
「どこに行くんだい。ヒロ」
あ、やべ見つかった。
こうしてヒロは、二時間延々と何の防具を着るべきかという言葉を聞かされるはめになったのだ。
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