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外れを引いた異世界転移~世界を壊すは我にあり~  作者: シクラメン
序章 強くなければ意味はない
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第16話 来訪者、吸血鬼と出会う

 いつものように地下迷宮ダンジョンに入るが、今日向かうのは五階層ではない。D+級の魔物が出てくる第六階層へ向かうのだ。

 行きも帰りも宝珠を使うため、道中での魔物との戦闘は起きない。六階層への階段を降り切って、扉を開けると広がったのは一面の砂景色。


 「あー、こういうのか……」


 ヒロの呟きにガウェインが頷く。


 「六階層は砂漠の階層。水の準備はしてきているけど、なるべき早くオアシスを見つけた方が良いね」

 「水魔法で水作る?」


 ロザリアの問いにガウェインが首を振った。

 

 「いや、それは非常事態に備えて取っておこう。D+級の魔物と戦うのはこれが初めてだからね、用心するに越したことはないだろうし」

 「それもそうね」

 「そう言えば、治癒魔法って飢餓状態を回復できるんですかね?」

 「そういうのは教会の人間の方が詳しいんじゃないのか」

 「今度帰った時に司祭様に聞いてみますね」

 「聞くよりも先に試すことになるかもね」

 「縁起でもないこと言うなよ……」


 四人で話しながら周囲を警戒していると、目の前に現れたのは一匹のトカゲ。

 デザートリザート。

 自らの身体を周囲に溶け込ませるために、色彩を迷彩服のように彩っている。体長は四十センチほど。この魔物がD+に該当するのは、こいつが初級上位にあたる土属性魔法を扱うからだ。

 

 「『放て』!」


 ヒロの先制攻撃。だが、生み出された漆黒の球を見てデザートリザートは息を吐くように石を吐いた。それはデザートリザートから五センチほどのところで静止すると、みるみるううちに壁になって飛来する魔法の球を防ぎ切った。

 周囲に石の破片が散るが、その部分をデザートリザートが修復する。

 

 中級魔法を使うべきか? 


 ……あり得ない。現在対敵しているのはこの階層でメジャーな魔物の内の一つだ。そんな敵に出会う度に中級魔法を使おうものなら、すぐにじり貧だ。

 

 というか、真正面から馬鹿正直に戦う必要もないのでは?


 この魔物が初級上位の魔法を狡猾に使うにも関わらずD級に収まっているのは、デザートリザート本体は非常に弱いからだ。ヒロは土魔法によって作られた壁の大きく迂回するように背後に回って後ろからデザートリザートの頭を突き刺した。

 その瞬間に魔法が一瞬で霧散する。頭から血を流すデザートリザートはやがて魔石へと変化した。


 「あ、あっけねえ……」

 「でも、ヒロの闘い方が正攻法みたいだよ。本に書いてある」

 「えぇ……」


 オアシスの場所の確認ということで情報本をひろげたガウェインが応えた。


 「まあ、あんな防御用の魔法を真正面から突破するくらいなら後ろから刺したほうが早いものね」

 「そういうことだね」


 そういうものらしい。ひとまず、安定した狩りを達成するためにオアシスまで向かう途中に全身緑色かつとげとげを生やした人型の魔物に襲われた。


 「な、なんですかあれ!?」


 凄い勢いで走って追いかけてくるので、ひとまず四人も走って逃げながらリリィが尋ねた。


 「サボテンでしょ」

 「何でそんな冷静なんですか!」


 いや、異世界ならサボテンが人の形をして襲ってきてもおかしくないでしょ。


 「『火は矢となる』」


 だが動くサボテン男はロザリアの火魔法によって簡単に燃やされる。


 このまま放っておけば燃え……燃えてないっ!?


 「おいおい、聞いてねえぞ。燃えねえ植物なんて!」

 「あいつの弱点は水魔法だよ!」


 重たい鎧を着こんでいるガウェインが最後尾で叫ぶ。


 「「何で!?」」


 ヒロとリリィの言葉が重なる。


 「『水は矢となり、汝を貫く』!」


 しびれを切らしたロザリアの中級魔法。初級魔法の上位魔法ということは中級下位の中でも最下層にあたるくらいの弱さの魔法だ。ヒロが使う中級魔法と同階層に位置する魔法だが、それでも威力は中級魔法。

 動くサボテン男のど真ん中を貫いて、魔石へと還元した。


 「さっきの奴って新しい魔法?」

 「そ。あんたの使う魔法を見てもしかしたら私もできるんじゃないかと思ってね」

 「天才やん……」

 「今更?」

 

 普段からビックマウスだと、嫌味にならないのが羨ましい。

 ようやくオアシスにたどり着いたころには、既に砂漠の日が地平線の向こう側へと沈んでいくところだった。

 

 「あれ? もう夜になるんですか?」

 「ここは外の世界とは空間的にも時間的にも切り離されているからね。外の世界と紐付けて考えないほうがいいよ」

 「……なあ、ガウェイン。夜の砂漠用の準備ってしてきた?」

 「……あっ」


 

 ぱちぱちと音をたてる焚火を囲みながら、四人は水辺のほとりで夜を過ごしていた。


 「さ、さ、寒い……」

 「ほら、リリィ。もっと火に近づけ」

 「はい……」

 

 地下迷宮ダンジョンに潜る際には個人個人に役割をふって準備をしている。

 

 ガウェインが道具の用意。ヒロが食料の用意。ロザリアがポーションなどの用意。

 リリィは地下迷宮ダンジョン内ではコックなので免除。

 

 と言った具合にだ。しかし、人間誰でもミスはするのである。


 「……ごめんよ。ごめんよ」

 「気にすんなよ。ミスなんて誰だってするって」

 「そうよ。いつまでも泣いていないの。女々しいわね」


 ガウェインは体育座りでめそめそとしていた。


 夜の砂漠は冷える。それは当然のことだし、情報本にも六階層に潜る際には防寒具の用意を忘れないようにと書いてある。だが、ガウェイン君。ここで痛恨の勘違い。

 自分は鎧を着ているから、防寒具を用意しなくても大丈夫。という認識がいつの間にか、全員用意しなくても大丈夫に切り替わっていたのだ。


 「ほら、そんなに離れると寒いだろ。もっとこっちこいよ」

 「……うぅ。鎧があるから寒くないんだよぉ…………」

 「ダメだ、ヒロ。アイツはしばらく放っておこう」

 「今はそっとしておいたほうが良いかもなぁ」


 慰め方はそれぞれである。フォローの言葉を言ってもそれが棘となって本人に刺さることは少なくない。

 故に三人はガウェインを放っておくことにした。

 寒ければ向こうから勝手に来るだろうという魂胆である。


 「それにしても星が綺麗ですね」

 「空気が綺麗なんだろうなぁ」

 

 ヒロたちの上には満天の星。夜はいつも早く寝るヒロにとって星を見るというのはひどく懐かしいことだった。

 いや、地球にいたころも夜は人工の光でまともに星を見ることなど出来なかった。


 「あ、流れ星」

 「もー、流れ星は不吉の証だからやめてよ」


 ロザリアの言葉に、ヒロは驚いた。


 「え、そうなのか? 俺の地元だと流れ星は願いを叶えてくれる存在だぜ」

 「へー。地元が違えば価値観が真逆になるのね」

 「なんか面白いな」

 「そうね」

 「へっくち!」

 「おいおい、リリィ。風邪ひくなよ? 上着貸そうか」

 「そそそ、それだとヒロ君が風邪ひいちゃいますよ」

 

 焚火の火が弱いのかもしれない。もう少し薪を足そうと立ち上がった瞬間に、ソイツに気が付いた。


 「誰だッ!」

 

 ヒロの誰何すいかの叫びに、十五メートル先にいた男がへらりと笑った。


 「いやはや、こんなところで人間に出会えるとは。つくづく俺は付いている」


 その言葉に四人同時に臨戦態勢。


……あいつは人ではない。


 ガウェインが盾を構えて一番前に、その三歩後ろにヒロ。それから五メートルほど離れてロザリアとリリィが並ぶ。リリィが小声で補助魔法を発動。四人同時にかかるそれは、動きの補助を行ってくれる。


 そんな四人になんとも思っていないであろう男はゆらりと近づいてくる。人型かつ、人語を喋る魔物。かなり高ランクの魔物のはずだ。少なくともD級に該当するような魔物ではない。最低でもC+級。下手をすればB級の魔物である可能性だってある。


 「どうした? 見ているだけか? 襲ってこなくていいのか?」


 ……隙が無い。どうせめても殺される未来が見えている。


 へらへらとした態度で近づいてくる男。だが、その姿ははっきり言って異常だった。

 まず、目につくのはその腹部。何者かに切られたのか、臓腑をまき散らし挙句の果てには小腸を引きずりながら歩いている。

 だが、その顔に痛みにこらえる顔はなく、飄々とした表情を浮かべ笑いながら四人を見ている。笑ったその口には大きな牙。何よりも特徴的なのはその肌の色。長い時間、日の光を浴びていないであろうその白い肌。


 「……吸血鬼ヴァンパイアか!」

 「ご名答!」


 ヒロの言葉に三人の身体が堅くなる。

 

 最悪だ。このタイミングでもっとも最悪なアクシデントが起きやがった! 

 夜の支配種、吸血鬼ヴァンパイア

 どんな雑魚と言おうとも、どれだけ力が弱くとも。

 

 奴らはB+を超えていく。


 「全員、死ぬ覚悟はできてるか」


 ガウェインの冷たい声。


 そして、戦いの火蓋は切って落とされた。


今日は複数投稿です!!

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