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外れを引いた異世界転移~世界を壊すは我にあり~  作者: シクラメン
序章 強くなければ意味はない
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第14話 来訪者、初心者を卒業する

 「『吹き飛べ』っ!」


 いつものように手慣れた動きでゴーレムの身体を吹き飛ばす。上空をしばらくまったままのゴーレムは空中で息絶えると魔石となって地面に落ちてきた。


 ガルトンドに来てから一週間。ずっと五階層の敵を狩り続けてきた。毎日毎日、延々と魔法を使いガーゴイルとゴーレムを狩り続ける日々。やつらの動きにも慣れ、D級の魔物を安定して狩れるようになってきた。

 

 恐らく今日あたりには銅の冒険者証ドックタグが渡されるのではないだろうか。転生した時にあの少女から渡された才能はとても大きなものだったらしい。初級魔法が中級魔法とまでは行かないまでも、元の威力の三倍近くにまで成長したのだ。

 

 「なあ、ガウェイン。そろそろ良いんじゃないか?」

 「うーん、もう少し慣れてからでも良いと思うけどね」

 「それじゃ、いつまで経っても下に行けないわ。『痕機ラグアート』まで手が遠のくわよ」

 

 杖の触媒を買ってから一週間。ロザリアは比べ物にならないほどの威力の魔法と、連射性能を手に入れた。恐るべきはやはりは金か。杖一つでそこまで魔法の威力が変わるものかとヒロは驚かされた。

 

 「なら、いこっか。階層主の部屋に」


 一週間、ヒロ達は五階層で止まったままだったのだ。その間に階層主の部屋を見つけている。そして、ボスの正体もガウェインが買った情報本に記されている。

 

イグニスゴーレム。

 

 炎の魔石で動くゴーレムだ。これは亜種と呼ばれる魔物で、通常種とは違った種類の進化を遂げた魔物に付けられる。その違いは環境の違いや、獲物となる生物の違いなど原因は様々である。

 

 「ここか」

 

 ガウェインが率先して階層主がいる空間に入っていく。次いでヒロ。最後尾のリリィが初級上位の補助魔法バフをヒロとガウェインにかけたのが分かる。

 中の部屋は巨大な立方体をしていた。その中にいるのは今もめらめらと燃えている炎の塊。その塊についている一つの目玉が四人を捉えた。


 そして、炎がゆっくりと動き始める。


「『捻じれて、放て』!」


 先制攻撃。ゴーレムが攻撃準備に移るよりも先に攻撃するのが良しとの判断。

 ヒロによって生み出された漆黒の球が、ゴーレムの胴体に直撃して炎を散らす。だがその一撃を気にもせずゴーレムが地を蹴って四人に飛び込んできた。


 ……中級魔法でも一撃では足りないか。


「ふッ!」


ガウェインが息を吐きながらゴーレムの突進に合わせて盾を突き出し、カウンターを見舞う。ゴーレムは予想外の攻撃にその状態を大きくのけぞった。


「『吹き飛べ』!」


ゴーレムの後ろに回り込んでいたヒロの右腕に宿ったオークの一撃が背中に大きく割れ目を作る。ヒロの手が少し焼ける。構うものか。これくらいならリリィの魔法で治る。


「『水は矢となる』」


ロザリアの詠唱。ヒロが炎を散らした胴体に四本の水で作られた矢が突き刺さり蒸気を上げる。急に冷やされたことによってゴーレム肉体が持たず、ヒロが作った割れ目が大きく広がる。


「はぁっ!」


 それに追撃するようにガウェインが突進。シールドにガウェインの全体重が載った重い一撃が叩き込まれる。ゴーレムは後ろに二、三歩下がると大きく跳躍して距離を取った。

 四人を一度に視認できる位置に移動したゴーレムは、自身を包み込むように広がっている炎を自身の胸の前に集め始めた。


 「来るぞっ!」

 「『水は壁となる』」


 軽装のヒロは全速力でゴーレムの後ろ側に潜りこんだ瞬間に、イグニスゴーレムの炎魔法が発動した。ゴーレムの胸の前で大きな火球となった炎は、ガウェイン達に向かって雨のように散らされる。初級上位魔法『火炎嵐テンペスト・イグニ』。

 しかし、その魔法は全てロザリアが作り出した水の壁によって防がれる。触媒によって生み出された非常に分厚い水の壁と炎によって部屋の中が白い蒸気で埋まっていく。


 そして、それこそがヒロの動きを隠したのだ。


「『纏え』」

 

 ヒロの右腕が黒く染まる。それが、ゴーレムの魔力探知機能に引っかかった。『火炎嵐テンペスト・イグニ』の発動を辞めて、真後ろを向く。そこにいるのは、拳を構えたヒロ。

 ヒロが拳を振りかぶる。ゴーレムを大きく拳を構える。

相手は満身創痍だ。このまま押し切るッ!


「『吹き飛べ』ッ!」


 ヒロの右手とゴーレムの左手がぶつかり合う。強化されたオークの一撃がヒロの右手から放たれ大きく亀裂が入った。

 ……まだ、足りない。もう一回叩き込まないと、コイツは倒せないっ!


「『もう一回』ッ!」


 追撃のため、黒く染まった左手の一撃を受けゴーレムの左腕が完全に砕け散る。それだけではない。ヒロの一撃は亀裂だらけのゴーレムの胴体にまで届くと粉々に砕いた。

 シュウウウ、と音をたて散った欠片がダンジョンへと消えていき、あとに残ったのは赤色の魔石のみ。


「倒した……倒した!!」


 その事実がヒロの膝を地面に着かせた。


「案外、大したことなかったな」

 「そういうのは立ったまま言うセリフよ」


 生命力を使い果たして天を仰ぐヒロにロザリアがそう言った。生命力を使い果たしたというのに気持ち悪さはない。むしろ、階層主ボスを倒したという事実がヒロに達成感を覚えさせていた。


 「それに、中級魔法を三回も使って……もし二回目で気絶してたらどうするつもりだったの」

 「いや、なんか行けそうな気がしたんだって。と、いってももう初級魔法の一つも使えねえけどな」

 「アンタねえ……。そういう無茶はもっと安全な時にやりなさいよ」

 

 珍しくロザリアが怒っている。いや、これは怒るか。


 「申し訳ねえ」

 「ま、助かったから良いんだけどさ……」

 「みんな、こっち来てください!」

 「俺動けねえからそのまま教えてくれー」


 リリィの言葉にヒロが返す。


 「『痕機ラグアート』が出てるんですよ!」

 「マジ!?」


 痕機ラグアート

 それは地下迷宮ダンジョンで手に入る、人智を超えた物だ。武器、防具、日常品、何が手に入るかは完全にランダムで今回のように階層主を討伐した時に、魔石と一緒に確率で手に入ることもあれば地下迷宮ダンジョンの中の宝箱に入っていたり、そこら辺に落ちていたりする。

 その性能やレア度から順にランク付けされており、その性能が強くなればなるほど高値で取引される。地下迷宮ダンジョンに潜る人間はこれを目的として潜るものも少なくない。手に入れた痕機ラグアートは全て自分の物にできるので、一流の冒険者の武装が痕機ラグアートで構成されているというのは珍しい話ではないのだ。


 「それで、何が出たんだ?」

 「デスサイズですよ! 結構大きい奴です」

 「見せてちょうだい」


 ロザリアがそういってリリィが持っていた痕機ラグアートを受け取る。


 「……『顕炎の祝福』以外は普通の鎌ね」

 「触らしてもらっても良いかい?」

 「良いわよ。まあ、ちゃんとギルドで鑑定して売り払いましょ」

 

 ガウェインが鎌を受け取るとシュッと、刃に炎が纏われる。


 「かっけえ!」

 「これが剣なら良かったんだけどね」

 「確かに」


今のパーティーメンバーで鎌を使うやつは一人もいない。せっかくこんな低階層で痕機ラグアートが出たというのに、それは使うことが出来ないのだ。少し、悲しい。


「今日はここまでにして、帰ろうか。六階層は明後日からにしよう」

 

 ……そいや明日は休息日か。


 ガウェインの言葉に三人が頷いて、下の階層へと降りる階段にある宝珠を触って入り口へと転移。歩きなれたいつもの道を歩いてギルドへの帰路へとついた。


 「魔石の買い取りをお願いします」

 「かしこまりました。少々お待ちください」

  

 いつものやり取りを終えて、鑑定終了。


 「はい、合計で15万9千イルです、それと今回に冒険者証のランクアップ条件を満たされました。5千イルでランクアップとなりますがいかがなさいますか?」


 え、金取るの……。


 「お願いします」

 

 ガウェインの言葉に受付嬢は頷くと、笑顔で四つの冒険者証を渡してきた。


 「おめでとうございます! これで皆さんは初心者卒業ですね!」

 「ありがとうございます!」

 

 ガウェインが嬉しそうに言うと、その後ろから痕機ラグアートを取り出す。


 「こちらも買い取っていただきたんですけど」

 「これは……痕機ラグアートですか!? 少々お待ちください」


 結果として痕機ラグアートは32万イルで売れた。この日の合計収入は47万9千イル。冒険者証のランクアップに二万イルが消え、45万9千イル。リーダーだからと、みんなが千イルをガウェインに押し付け、一人当たりの収入が15万2千イルとなり、ヒロは現金を渡された瞬間に装備屋へと向かったのだった。

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