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外れを引いた異世界転移~世界を壊すは我にあり~  作者: シクラメン
序章 強くなければ意味はない
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第12話 来訪者、強くなる

D級の魔物と言えば強さ、厄介さと言えばオークと同格だ。

 ゴブリンで死にかけていたヒロがはっきり言って一週間、二週間で戦えるようになるような相手じゃない。だが、それは才能が無ければの話。

 少しばかり気後れするが、ヒロには少女からもらった闇魔法の才能がある。


 「リリィ! まずは動きを止めるぞっ!」

 「了解!」


 リリィが後ろにいる。大丈夫、一人じゃない。

 

 ……行けるぞ。


 「『放て』!」


 スライムの水球と同威力の黒い球がガーゴイルめがけて放たれる。ガーゴイルはそれを回避すると、手に持っていた石斧をヒロに振り下ろす。

 ヒロは地面を蹴って回避。……身体が軽い。リリィの補助魔法か。

 光魔法は補助魔法と言われるほどに、誰かを支えることを主とした魔法ばかりだ。

 だから、パーティーに一人いるだけで生存確認が大きく変わる。いつもは重装備のガウェインに補助魔法をかけていたので、ヒロはその恩恵に預かれなかったのだが、リリィも常に強くなっている。

 なんと三日前まで一人にしかかけられなかった初級下位の補助魔法が、一人だけなら初級上位にまで。初級下位ならば四人全員にかけられるようになったのだ。

 これも一重にヒロと同じ強引なトレーニングによるものだ。

三日間、ヒロとリリィが気絶し続けたのは無駄ではなかったということだ。

 ロザリアは最後までやりたがらなかったが。

 

 ガーゴイルが斧槍を大きく振り回す。それを上に跳んでヒロは避けると、着地と同時に肉薄。ガーゴイルのように全身が堅い敵には短剣のような斬撃武器は意味を持たない。


 「『纏え』」


 ヒロの右腕が黒く染まっていく。薄く浮かびあがるのは緑色の幾何学的な線。

 ガーゴイルの脇腹めがけて、拳を振り下ろし、拳の接触寸前で詠唱。


 「『吹き飛べ』ッ!」


 鼓膜を大きく揺らす轟音。ヒロの一撃はガーゴイルの身体を粉々に打ち砕くと、粉塵を大きく巻き上げる。

 音をたてて地面にその巨体を下ろしたガーゴイルは、その姿をかき消して手の平くらいの大きさの魔石を残した。


 「ヒロ君、怪我はないですか!」

 

 魔石を拾い上げたヒロにリリィが駆け寄ってくる。


 「怪我はしてないけど、すっげえ気分が悪い」

 「中級魔法を使いましたからね。二人の援護には私が行きますからヒロ君はここで休んでいてください」

 「ああ、任せた……」


 怪我がないと告げた瞬間に露骨にテンションが下がったリリィを後目にヒロはその場に腰を下ろした。……気怠い。

 

 やはりまだ連発できるようなものではない。

 今回のような危険が迫るまでは初級魔法で抑えるべきだろう。


 しばらくその場でヒロが休んでいると、巨体が地面に落ちる轟音とともに三人が戻ってくる。


 「ヒロ、やるな」

 

 屈託のないガウェインの笑顔。まぶしすぎて直視できねえ。


 「危なかったとは言え、中級魔法なんて使うべきじゃなかった。これだとこの後の探索に支障が出るよ」

 「今日は五階層より下に潜る気はないよ。五階層のボスも今の僕たちじゃ突破できるのかどうかも半々くらいだからね。安心して、休んでくれ」

 「そう言ってくれるとありがたいよ」


 ガウェインとロザリアの雰囲気を見るにロザリアは中級魔法を使わずにガーゴイルを倒したのだろうか。

 いかに初級魔法とは言え、術者が鍛えれば鍛えるほど威力を増す。例えば、今ヒロが上級魔法を使えるとして、その上級魔法の威力と『賢者』の初級魔法だと恐らく賢者の方が上になるだろう。


 つまり、生命力を増やすばかりでは魔法使いとしては強くはなれないということだ。では、初級魔法を強くするにはどうすればいいか。それは魔法を使うしかない。使わないものは伸び無いからだ。まあ、中級魔法を鍛えれば初級魔法も伸びるから力技で強くなろうと思えばヒロの気絶トレーニングが一番効率良いのである。


 ……良いはずだ。


 ヒロの当面の目標は初級魔法の威力を今の中級魔法レベルに上げることである。強くならねばならない。それはキラービーに襲われたあの時からずっと変わらずヒロの中に一つの信念として宿っていた。

 あの時に抱いた後悔はまだ覚えている。死なないために、死ぬ瞬間に後悔をしないために。

 そのためにはヒロは強くならねばならないのだ。


 「D級の魔物がこれだけ出るってことは結構稼ぎやすいな」

 「そうだね。もっと強くなればもう一個下の階層で魔物を狩るともう少し稼ぎやすいかもね」

 「金が欲しいぜ。金が」

 「リリィは分かるけど、ヒロは何にお金を使うの?」

 「装備を一式新調したいんだ」

 「あぁ……」


 ヒロの装備は装備らしいものではない。防具は冒険者ギルドで売っている駆けだし防具(一万五千イル)だし、短剣はゴブリンの持っていたものを研ぎ直したもの(三百イル)だ。

 アレアの街で金をためて剣を買おうと思っていたが、ガルトンドに行くということで少しばかり買うのを待っていたのだ。

何しろ、冒険者、狩人、魔法使いのように魔物狩りを生業とした連中から賞金稼ぎや人攫いなどの物騒な連中が一同に集まる巨大都市である。

アレアの街のような田舎にない武器や防具があるんじゃないかと思うのは当然の発想だろう。


 「あ、私も触媒欲しい」

 「触媒?」

 「アンタ知らないの? 魔法使うときに生命力の消費を抑えてくれる媒体よ」

 「ああ、杖とか?」

 「そ。杖とか指輪とかネックレスとか、大きければ大きいほどその効果が大きくなるから杖とか使ってる魔法使いが多いんじゃないかしら」

 「教会の人だと十字架とか聖典を触媒にしてる人が多いですよ」

 「本も触媒になるのか。凄いな」

 「僕も盾買おうかなぁ」

 「なら、地下迷宮ダンジョンから出たあとはみんなでショッピングに行きましょう!」

 

 リリィが立ち上がってそういった。


 「いいね」

 「いいわよ」

 「うん、行こう」


 三者同様のリアクション。


 みんなで買い物か。母親としか買い物に行ったことのないヒロにとっては人生初の経験である。まあ、装備なんて高い物を行ったその日に買うなんてことはないからウィンドウショッピングにはなるだろうが。


 ヒロたちはその後、二時間ほど五階層で狩りをすると魔石をもって迷宮から外に出た。

 出るときは簡単で、その階層に降りてきた階段を逆側から登ると上の階層との境目に宝玉が埋まっておりそれに触れると一度触れている宝玉に飛べるのだ。

 ヒロ達はそれに触れ、入り口の宝玉まで戻ると街へと戻った。



「これが今日の稼ぎだ」


 ガウェインがそう言って四つの袋をそれぞれに配る。

 四階層までの階層主の魔石。それに加えて道中で相手をした魔物の魔石。そして今日、主な狩り相手だったガーゴイルやゴーレムなどの魔物の魔石。

 占めて十万七千イル。よって一人当たりが26750イル。26750イル!

 ヒロの最高の稼ぎより五倍も多く稼げた。稼げてしまった。


 「す、すっげ……」

 

 まだガルトンドの街の物価がよく分かっていないので手放しでは喜べないが、それでもこの稼ぎは目を見張るものがある。

 というか一気に手に入る金が増えて現実味が無い。

 

 「じゃ、買い物行きましょ。買い物!」


 リリィが喜んでそういう。


 「おう、行こう行こう!」

 「あ、待ちなさい。武器屋街は反対側よ」 


 駆け出したヒロとリリィに横やりが入る。


 「装備街? 何だその商店街みたいなやつ」

 「商店街って何よ……。ガルトンドの街には、装備屋が密集している区画があるのよ」 

 「へえ、そこに行けばほとんどの装備があるのか?」

 「そうみたいよ。領主様が冒険者たちが楽を出来るように装備屋を建てられる区画を制限したらしいわ」

 「博識だな」

 「全部これに書いてあるもの」


 ギルドに立っている看板を指しながらロザリアが言う。拍子抜けだよ。


 「じゃ、装備街に行くか!」

 

 太陽が沈みゆくなか、四人は新しい装備を求めて足を運んだ。

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