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外れを引いた異世界転移~世界を壊すは我にあり~  作者: シクラメン
序章 強くなければ意味はない
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第01話 来訪者、異世界へ行く

「ぱんぱかぱーん」


 やけに間延びした声が何もない世界に響いた。

 慌てて声の主を見ると、十歳くらいの少女。


 「おめでとうございまーす」


 まったくもってそう思って無さそうな無表情で、そう言った。


 え、誰?

 と、口を開いて……口がない。

 だから、声も出ない。


 「君たちは条件を満たされたので、異世界転移となりまーす」

 

 は? 何? 異世界転移? 何が起きてるの……?


 「はい。いまクラスの皆さまから説明して欲しいと思われたので仕方なく説明します」

 

 心底めんどくさそうに少女が口を開く。


 「君たちは、クラスに落ちてきた隕石によってみんな死にましたー! 凄い不幸ですね」

 

 ぱちぱちと一人で手を叩く少女に呆然としてしまう。え、何々俺たちはそんな理由で死んだの? 嘘でしょ?


 「あり得ないまでの不幸を哀れに思って、君たちを記憶そのままに異世界に持って行ってあげます! さらに才能のおまけつき! いよーこの幸運者たちめー!」


 ひどい棒読み。というか、これはかくいう異世界転生なのでは? いや、転移?

 マジ? 神様からチート貰えんの?


「はい、皆さまご名答。クラス転移というやつですね。この中に主人公でもいるのかっていうね! おっと、今半分くらいしか自分のことを主人公だと思わなかったぞー? よくない。良くないぞ! 自分の人生は自分が主人公!! まあ、君たちの人生終わってるけどね」


 言葉だけは楽しそうに。しかし、表情は無のままに語り続ける。


 「さて、説明なんて長くなっても退屈だし。さっさと才能わりふっちゃいますかー。この中から選んでね」


 ていうか、この少女さっきからみんなに語り掛けているような感じだけど、俺以外この場にいないんだけど。いや、いるのかな。見えないだけで。クラスメイトたちが。


「そーれ!」

 

 相も変わらず無表情なまま彼女が両手を広げるようにして腕を開くと、目の前に選択肢が現れた。


【火属性魔法の才能】

 ・火属性魔法について極大な才能を得られる。

【水属性魔法の才能】

 ・水属性魔法について極大な才能を得られる。

【土属性魔法の才能】

 ・土属性魔法について極大な才能を得られる。

【風属性魔法の才能】

 ・風属性魔法について極大な才能を得られる。

【光属性魔法の才能】

 ・光属性魔法について極大な才能を得られる。

【闇属性魔法の才能】

 ・闇属性魔法について極大な才能を得られる。

【剣術の才能】

 ・剣術についての極大な才能を得られる。

【槍術の才能】

 ・槍術についての極大な才能を得られる。

【弓術の才能】

 ・弓術についての極大な才能を得られる。


上から順に読んでいって、とあるところで指が止まった。といっても指も無いからあくまでそれっぽい形をした何かなのだが。

 【闇属性魔法の才能】

 ぞくり、と自分の中で沸き立つのが分かった。忘れていた厨二心がくすぐれる。


 これだ

  と、口があったらそう言っていただろう。まあ、無かったので仕方なくそれをタップした。

 ピコンと、音をたてて【闇属性魔法の才能】が選択された。やけにゲームっぽい選択方法だな。

 

 「じゃあ、選択できた人から転移させるよー」


 そう、目の前の少女が言うと目の前が真っ白い光に包まれた。

 


包まれていたのはほんの数秒、目を開けるとすでに草原の中に一人でたっていた。


「夢……? じゃないよな、さっきまでの記憶あるし」


 でも、死んだ記憶がない。いや、突然すぎて何も分からず死んだのかな。

 

「……まあ、いいや。ステータス確認しよ」


 異世界転移といえば、ステータスだろう。和食に味噌汁レベルの鉄板だ。いや、目玉焼きに醤油か? まあ、どっちでもいいや。


「ステータス、オープン!」


何も、起きない。


「……あれ? やり方が違うのか? でも、ラノベだとこれで出来てたしな……」


 気を取り直してもう一度。


「ステータス、オープン!」


 何も変化しない。目の前にポップが現れることも無ければ、何か効果音がなることも無い。ただ、草原の草が風によってわずかになびいただけだ。


「うーん……。発声方法じゃないのか。じゃあ、腕かな」


 と、某アニメのように人差し指と中指を揃えて宙を下ろすが何も起きない。


「自分のステータスは確認できないとか? ありそうだなー」


 ステータスは対象を眼で捉えておかないとできない。みたいな。ていうか、そもそもここ異世界なのか?

 

「……まあ、ステータスは一回置いておくか」


 街の人にでもやり方を聞けばいいし。ここが本当に異世界なら、魔法が使えるはずである。


「せっかく闇属性魔法の才能を取ったことだし、使ってみるか」


 腕をぐるぐるとさせながら、気合を入れると前方の空間に手を向けてそこに意識を集中させる。


「うおおお、ブラックホール!!」


 ……何も、起きない。音もなければ、魔力の流れも感じない。もちろん、世界が暗くなったりもしない。


「あれ? おっかしいな。俺の予想だとこれで魔法が使えるはずなんだけど」


 ここ本当に異世界か? と思うが、今着ている服は実際には自分の服じゃない。この世界に合わせたものだろう。簡易的な布の服だ。

  首をひねって、魔法もステータスも使えない原因を考える。ステータスはまだやってない見方とかもあるから、これは多分やり方を聞いたほうが早いだろう。もしかして、ステータスがないということは無いだろうし。

 魔法に至っては謎だ。俺の完璧な予想だと、対象に意識を向けて魔法のイメージをすることで魔法が使えるという感じだったのだが。

しかし、何も起きていないということはやり方が違うんだろう。もしかして、実績が解除されてないとかか? 才能与えて魔法使うのに実績解除はちょっとあり得ないか。


「うーん。よく分からんから街にいこう」


 あたりを見回すと明らかに草が生えていない長い部分があったので、近づいてみると石で舗装された道路だった。さて、この道どっちに行くのが正解だろう。右か、左か……。


 困ったときは直感勝負。

 俺は右を選んだ。


 どうにもその選択は正解だったらしく十分と待たずに遠く人工物が見えてきた。人工物というのは石で組まれた五メートルくらいの壁。

あんなものがあるとかやっぱここ異世界だわ。


 近づくと、大きな門が見えてきた。異世界だから、当然冒険者ギルドがあるんだろうな。無論、なるのは冒険者である。異世界に来て、他の仕事につくとか馬鹿じゃんか。


 門の前には数人の門兵がいた。俺が近づくと二人の兵士と目があった。


 「身分証を出せ」

 「え、み、身分証?」

 

 そう答えた瞬間に、門兵が少し不思議そうな顔を向ける。

 ……異世界の身分証なんて持ってないよ。


 「も、持ってないです」


 そう答えた瞬間に門兵の視線が厳しくなる。まあ、そうだよな。身元不詳の人間を通すのって抵抗あるもんな。


「あ、あの、俺、田舎の出身で、それで、身分証なくて……」


 それっぽい言い訳を考えて言ったのだが、自信が持てずに詰まりながら言ってしまった。その言葉に門兵は疑いの目を向けてきたが、何も言わずに通してくれた。


「そ、それで身分証作るならどこにいけば良いんですか?」


 と、通り際に門兵に聞くと普通に冒険者ギルドの場所を教えてくれた。

 冒険者ギルドはあるのか。一安心。


 門兵に教わった通りに道を進んでいくと、冒険者ギルドが建っていた。

 中に入ると、受付ばかりで端の方に依頼板らしくふるぼけた木の看板の前に少しばかりの人が集まっていた。


 ……あまり、栄えてないのかな。そんなことを思いながら、受付に向かった。


 「はい、こんにちは。今日はどういったご用件ですか?」


 そう、三十代後半の女性に声をかけられた。


 「ギルドに登録お願いします」

 「はい、登録ですね。では、登録料300イルいただきます」

 

 え、金とるの? 慌てて、ポケットに手を突っ込むが何もない。自分の体のあちこちを探すが、金なんてない。あるはずもない。


 「300イル払えない場合は一応仮登録になるになるんですけど大丈夫ですか?」

 「あ、は、はい。お願いします」


 外の人間が身分証を貰えるところなんて冒険者ギルドくらいしかないらしい。門兵にそう言われたのだ。まあ、どっちにしろ冒険者になりたいから問題ないのだけど。


 「仮登録の場合ですと、14日以内に300イル支払われない場合、ギルド証を強制没収となりますので気を付けてくださいね」

 「わ、分かりました」


 二週間で300イル。お金の相場が分からないけど、何とかなるだろう。なんたって闇属性魔法の才能があるんだし。


 「それでは登録する名前を教えてください」

 「そうですね、ヒロで」


 名前がヒロムなので、ヒロ。簡易だろうけど異世界っぽいからそれでいい。

 

 「じゃあ、ヒロさんですね。登録完了です。どうぞ」


 そういって渡されたのは自分の名前だけが簡易に記された木の札。首からかけられるように麻のひもが通っている。文字は日本語じゃないけど、読めるんだな。そこだけは鉄板らしい。

 

 ギルド証を受け取って依頼板に向かう。木の板になんの依頼か記しただけの簡易的なものがぶら下げてあるとても簡素なものだった。


 ……なんか、想像してたのと違う。

とにもかくにも依頼を受けてみよう。それが一番冒険者っぽいし。

 

 ちらちらと見ていたらファルテ草の採取というものがあった。よく分からないけど薬草だろう。一回目は初心者らしく薬草の採取でもやろう。二回目からは、魔物を狩る。魔物なんて魔法が使えれば簡単だろう。

 大丈夫、さっきまで魔法は使えなかったけど二回目からは出来る様になるさ。なんたって俺には才能があるんだから。


 ほかの冒険者がしているように、木の札を取って受付に持っていく。こうすることで、依頼のバッティングを防ぐのか。なるほど。


 「はい、ファルテ草の採取ですね。採取されたファルテ草はギルドで買い取りますので、この窓口に持ってきていただければこちらで現金と引き返させていただきます」

 

 先ほどの窓口に行くと、そう言われた。

 さて、薬草とは大体森に生えているのがお約束だ。早速行くとしよう。


 ギルドから出て、先ほど入ってきた門から抜ける。ここに来るまでにずっと左側に大きな森が見えていた。あそこに行けば見つかるだろう。

 ここまで、トントン拍子に進んでいて怖いくらいだ。


 「く、ふふ」


 魔法が使えないし、ステータスウインドウも出せないけどそんなものはどうにでもなるだろう。


 とにかく、俺は今異世界にいる。


 「最っ高だよ!!」


 自由だ。日本で、学校に通っていた時のように縛られて何かに行く必要が無いのだ。

 机にかじりついてやりたくもない勉強をしなくてもいいのだ。

 ここでは毎日、自由に過ごせる。向こうに残してきた親のことを思えば少しばかり心残りもあるけど、それだってすぐに気にならなくなるだろう。

 だって、ここじゃあ好きな時に飯食って、好きな時に寝れるんだし。まあ、ゲームが出来なくなったのはつらいけど、ここじゃあ現実がゲームみたいなもんだ。


 身軽な軽装で森まで走りながら、俺は叫んだ。


 「生きているぜ。俺は!!!」


 日本にいるときみたいな死んだ顔なんてしてない。ここには、新しい刺激がある。

 新しい毎日がある。


 さあ、そのスタートを切ろうじゃないか。


 「……それで、ファルテ草ってどんな草なんだろ?」


 森に踏み入って、そう漏らした声は誰にも聞こえずに風に流れていった。


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