イベント11:一緒に食事した
咳がずっと残っててつらいです。今回も雑ですみません。
一月二週目の金曜日、今年初めてのカフェ来店は、かわいい店員さんが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ!」
注文カウンターの内側にいたかわいい店員さんは、にっこり笑うと姿勢を正す。
「明けましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いいたします!」
「あ、はい、よろしく」
時期的には今更だが、今年初めて顔を合わせたのだから、間違ってはいない、だろうか。
とまどいながらも曖昧な言葉を返し、いつも通りに注文する。
『今年』この店で会えるのは後3ヶ月なのは、あえて言う必要もないことだから黙っていたが、じっとかわいい店員さんの仕事ぶりを見守った。
一月最後の金曜日も、かわいい店員さんにレジをしてもらってのんびり食べていると、テーブルに誰かが近づいてきた。
眼鏡をはずしていたから、目の前に立たれてようやくそれがかわいい店員さんだと気づく。
エプロンをはずして、制服の上に濃いピンクのパーカーをはおっていた。
「馨さんこんばんは! ご一緒してよろしいですか?」
「え、あ、はい」
「ありがとうございます! 失礼します」
にっこり笑顔の勢いに押されて曖昧に返事すると、かわいい店員さんはさっさと私の向かいに座り、持っていたトレイを置く。
あわてて眼鏡を取ってかけて、つい向かいのトレイを見ると、私と同じカルボナーラと、小さいボウルの温野菜サラダだった。
「やっと就職決まったんです!
もうずっと決まらなくて卒業間近で、まわりの友達はどんどん決めていくから、すごい不安だったんですけど、よかったです」
にこにこしながら言われて、曖昧にうなずく。
「良かったですね」
「ありがとうございます!」
「どういう会社なんですか?」
「んー、ざっくり言うと飲食業、ですね。
カフェとかレストランとかホテルとか運営してて、自分はホテル部門で採用されたんです。
新宿の×××××ってホテルご存知ですか? まずはその中のカフェで働くことになりそうです」
「へえー」
まさかの一人称『自分』。
いやそれよりそのホテル、私でも名前を知ってるぐらいだから、有名なところなのでは。
「就職早く決めたかったんですけど、そしたらこの店でのバイトも終わりになるので、ちょっと寂しいです。
店長からは、社員にならないかって誘われてたんですけど」
「それはすごいですね」
「といっても、契約社員ですけどね。ほんとの正社員は店長ぐらいなので。
この店は好きだけど、でも、やっぱりバリスタになりたかったから」
「バリスタ、って、コーヒーの専門家、でしたっけ」
「そうです!
中学一年生の時に旅行先のカフェで飲んだコーヒーが、それまで飲んだことあるコーヒーとは別物みたいに美味しくて、びっくりしちゃって。
その店にすごく有名なバリスタさんがいて、それで興味持って色々調べてるうちに、自分でもバリスタになりたくなって、大学じゃなくて専門学校にしたんです」
「へえー、すごいですね」
その年でそれだけはっきりやりたいことがあって、それを目指して生きてきたというのは、本当にすごい。
「三月はいろいろ準備とかあるので、二月末で辞めることにしたんですけど、でもやっぱりこの店が好きだから、寂しいです。
店で馨さんに会うこともなくなっちゃいますし」
にっこり笑って言われて、なぜか今言わないといけない気がした。
「実は、私も、三月末で転職というか、仕事を辞めて実家に帰ることになりまして。
だから、この店に来れるのも、三月末までなんです」
「えっ、そうなんですか。ご実家はどちらなんですか?」
「和歌山です」
「そうなんですかー、じゃあ会いにくくなっちゃいますね」
「そうですね……?」
「次のお仕事はもう決まってるんですか?」
「あ、いえ、地元に戻るのは久しぶりなので、しばらくゆっくりしてから探すつもりです」
答えながら考えて、さっきの違和感の理由を理解する。
店という接点がなくなれば、もう会うことはないはずなのに、なぜ『会いにくく』なのか。
これがナンバーワンキャバ嬢の会話テクニック……いやキャバ嬢じゃないし。
私が脳内でボケとツッコミを繰り広げてる間に、かわいい店員さんはさっさと食べ終わる。
「お邪魔しました。そろそろ食後のカフェオレお持ちしていいですか?」
「あ、はい」
「じゃあお持ちするよう言っときますね。お先失礼します」
にっこり笑ったかわいい店員さんはトレイを持ってさっさと離れていき、バックスペースに入る。
しばらくして、違う店員さんがカフェオレを持ってきてくれた。
かわいい店員さんは、まだ休憩時間扱いらしい。
店員が休憩中に店内で食事を取っているのを見たことは何度かあったが、かわいい店員さんを見かけたことはなかったから、まさか来るとは思わなかった。
「……びっくりした」
情報量が多すぎて頭が追いついてない。
カフェオレを飲みながら会話内容を思い返しても、考えがまとまらない。
店を出るまでに理解できたのは、ボクっ娘も良いが『自分』もアリだな、ということだけだった。
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