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とある勇者と少女のはなし

作者: しののん

短編ですー。よろしくですー。

斬る、伐る、キル。


目の前に立つものを、すべて俺は切り潰した。


勇者として戦争に駆り出され、異種族との戦いに身を投じた。


そこで多くを殺し、殺し、殺し尽くした。


俺が15で戦争に駆り出されてから三年が経ち、幾つもの死体の山を築き、血の川を流した頃。


戦争は終わった。


すべての種族を屈服させ、人類の一人勝ちという結果で。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「お前の力はもうこの世界には必要ない」


カルガンディア王国王城、謁見の間にて。


俺は王から非情にもそう告げられていた。


回りには多くの兵士が槍を構え、いつでも俺を殺せるように身構えている。


戦争が終わり、『勇者』としての、『英雄』としての俺の役割は終わった。


平和になった世界に、大きな武力をもつ俺は邪魔であると…王はそう言った。


この国ではよくある話である。


戦争の度に勇者が生まれ、担ぎ上げられ、戦争を終わらせる。


その活躍は物語としてよく語り継がれるのだが、戦争を生き抜いた勇者のその後は総じて描かれていない。


要するに、そういうことなのだろう。


「…やれ」


王が無慈悲に命令を下すと同時、周りの兵達が動き出す。


無言で繰り出される幾つもの槍。


俺に突き刺さるはずだったそれは、何もない空間を突き刺した。


声を発さない兵士たちは息を飲んだ。


何をしたでもない。ただ、突きだされた槍の先端に立っただけである。


驚愕に動けない兵士たちを尻目に、無気力に王へと目を向ける。


豪奢な衣装に包まれたソイツは、俺の目からしたら酷くみすぼらしげで、頼りなく見えるものであった。


「…お宅の兵隊さんでは役不足だ。俺を殺したいなら、竜王でも獣王でも連れてくることだな」


そう言いながら俺は周囲の兵士達の顎を、槍の先端に立ったまま爪先で打ち抜く。


何が起こったのか分からぬまま、彼らは意識を刈り取られた。


何も言えず、恐怖に震える王の姿。


何事もなく着地した俺は、哀れな王に背を向けた。


「んじゃーな王様。生きてる限り、もう会うことはないだろうよ」


無感動に言い捨てて、俺はその城を後にした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その後俺は王国を出た。


何処に行くでもないが、どこか、まだ行ったことのない場所を目指した。


それこそ適当に進んだ。


食料や日用品、金など、必要な物は全て揃っている。だから問題ない。


行商人が使う道を進んでいく。周囲は森に囲まれており、人通りもそこそこにあるため、あまり不自由はしない。


漆黒のローブを纏っているため怪しさ全開ではあるが、今の俺からしたら誰かに話しかけられることこそ面倒なため、好都合である。


が、しかし。


「なー、なー!そこのにーちゃん!」


俺は子供に絡まれていた。


薄汚いボロのような衣服、ボサボサの頭、あどけない眼差し。


一人でいるところを見るに、余程の事情があるか、捨てられたかであろう。


明らかに面倒な案件である。


そう思い無視するが、彼?彼女?は、一向に話しかけることをやめようとしない。


「聞こえてるんでしょー!?なんで無視するのさー!!」


頬を膨らませるが、それでも無視を続けてみる。


いつか飽きて別の奴のところに行ってくれるだろう。そう思ったからだ。


だがしかし、それからずっと歩いていても、いくらペースをあげても付いてくる。


辺りが暗くなり始めた頃、遂に俺は根負けしてしまった。


「なーなーなーなー!!いつまで無視するんだよーーーー!!」


と、延々叫び続けるソイツに耐えきれなくなったわけではない。決して。


荷物を下ろし、ため息を付きながら仕方なく答えてやる。


「わかったお前ちょっと黙れ」


懐から抜いた剣を喉元につきつける。


王国にいた頃の同僚の騎士団長がそれを見たら「違う、そうじゃない」とツッコミを入れそうなものだが知ったことか。


こちとら昼からずっと付きまとわれているんだ。多少イライラしても仕方ないだろう。


あわよくばこれで逃げてくれるか、腰を抜かしてもう付いてこなくなるかもしれない。


どっちみち今日はもう野宿確定だ。不安な要素は出来る限り排除するに限る。


だがソイツは、逃げも腰を抜かしもしなかった。


「やっと反応してくれた!」


そう言って、微笑むくらいだった。


その姿に俺は、驚き目を見開いた。


喉元に刃を当てられ、平常心でいられるものは少ない。


それこそただ狂ってるか、訓練して慣れているかのどちらかだ。


だが目の前にいるソイツは、そんな風にも見えやしない。


「私、ライア!!にーちゃん、私を拾ってくれない!?」


ソイツ…ライアは紺碧の瞳で俺を見上げ、眩しいほどの笑みを浮かべながらそう言った。


そして俺は理解した。


これめんどくさいやつだって。

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