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「海神の唄」  ~Takaの唄~  作者: Taka多可
4/9

3>突然の真実 1


多可谷悟があたしたちの学校に転校して来てから二ヵ月くらいたった。

相変わらず多可谷が女なのか男なのかは分からないけれど皆と仲良くやっている。

そんなこと、どっちだってかまわないのだ。

言いたくない事があるなら何も言わなくて良い。あたし達も聞かない。


皆が自然にそう決めた。



放課後の音楽室。

あたし達合唱部は、冬の音楽祭に向けて猛特訓をはじめていた。

卒業する六年生にとっては最後の合唱。

それに、あたしは今回ソロパートも当てられている。

とても熱が入る。


「~♪♪」


「はい、今日はここまでにしましょう。海神さんは、もう少しソロの練習しましょ。」

「はぁい。」


ソロの事は顧問の先生直々に推薦されたのだ。頑張らなくちゃ。


「バイバイ、海神!」

「頑張ってネ~」

「うん、ありがとー。」



・・・・・・

変わりゆく 景色

色燃ゆる 木々

心の松明 高く掲げて

いざ 行け旅路へ

振り向く事 なく

信ずる(まなこ) 曇らぬために



パチパチパチ・・・


「! 多可谷・・・」

「あら、お友達?」

「ぇーと・・・そのー・・・・・・」


いつの間にか、多可谷が音楽室の扉の近くに居た。

拍手をくれたのは多可谷が始めてだ・・・・・・


「自分は海神さんのクラスに入った転校生です。あの、入部届持ってきたんですけど・・・・」

「あら・・・残念だわ、折角来てくれたのに。もう、コンクールの人数は決定してしまっていて参加できないのよ。」

「かまいません。海神の側に居たかっただけなので。」

「・・・ぇ?」

「そぅ。それじゃこれにー・・・・・・・・」


多可谷が先生から渡された紙に何かを書いている間、

先生はあたしをじーっと見ていた。

多分、変な誤解されてるんだと思うけど・・・・・放っておこう。


そうして多可谷は 合唱部へ入部した。



北の冬は夜が早い。

練習を終えて外に出たときにはもう、雪がバラ色に染め上がっていた。

屋根からずり落ちそうなのに落ちない雪。

二車線の道路が一車線になるほど、歩道から押し付けられて高く積み上げられた雪山。


そんな道を多可谷といっしょに帰る。

二人だけで。


「もう こんな時間・・・」

「いつもこんなもんだよ。お日さまが完全に沈んじゃってた事もあるしね。」

「・・・・大変だね。」

「ううん。あたし、運動と歌は大好きだもん!もっと頑張りたい位だよ。」

「そっか・・・」


多可谷は優しく笑った。


「ねぇ、なんで運動好きなのに体育系の部活入らなかったの?カケモチできるはずじゃ・・・」

「ん~ 特に意味ないけど・・・あたし、同時に二つの事出来ないからさ。」

「あはは、そっか。 どおりで体育系の部活全部回ったのにどこにも海神が居ない訳だね。」

「ぜっ全部?!」

「うん。」

「なんでそんな・・・・誰かに聞けば――てかあたしに聞けば一発だったのに。」

「自力で探したかったんだ。まさか音楽とは思わなかったよ。」

「そぅ・・・」


「でもさ、多可谷ぃ?もしあたしが運動部に入ってたとしたらあんたも入る気だったの?まさかその足なのに?」


あたしは多可谷の左足を指差した。


「うん、チームに入れないのはわかってるよ。マネージャーでもなんでもやるつもりだったから。」

じゃ、本当にあたしのいるとこにはいりたくて・・・・


「でも結局、全部回っちゃって途方にくれて、サッカー部の人達に教えてもらったんだけどね。」

多可谷が頬を掻きながら照れくさそうに言う。

「・・が 合唱だって結構大変だよ、大丈夫?」

「うん、頑張るよ。」


それにしても・・・・どうして今ごろ入部しようとしたんだろう?



「あのさ海神。」

「え?」

雪に落書きしていたあたしの背中に多可谷の声がかかる。


「歌、すごく上手かったね。実はさ、最初のほうからずっと聞いてたんだけど・・・海神のが一番よく聞こえたよ。すごくドキドキした。カッコよかったよ!」

自分の顔が真っ赤になっているのがわかる。


「なっなぁんだ。ホめてくれるのは嬉しいけど"かっこいい"じゃなくて"キレイ"って言ってくれたほうがいいのにな~」


後ろを向けたまま、頭を掻きながら そんなガラにも無い台詞を言ってみたりする。

多可谷がどんな反応をするか見てみたかったんだけど・・・・・・


「そっか。・・・・キレイだったよ、うん。」

「!!」


どこかで ボンッ! と音が聞こえた。

コッチが言わせたくせに耳まで真っ赤になるほど恥ずかしくなった。

真顔で、それもこんなキレイな顔で・・・


もし 多可谷が女の子だとしたら・・・・・・・

あたしってば『そっち』系!?


ヤバイヤバイヤバイ、絶対危ない!!


最初の頃は女の子がいいな、と思っていたけど・・・・今じゃ男であることを願ってみたりする。


やっぱり、『好き』なんだ。

友情の錯覚なんかじゃない、本当に。




「海神?」

「ぇ、あ 何?」

完全にのぼせ上がっている顔を見られないように毛糸の帽子を被りなおすふりをしながら返事をする。


「家の方向 あっちでしょ?いいの?」

「ぇ・・・・・・・ぁあっしまった!!」


ぼーっ としてたせいで大分道をそれてしまった。

多可谷は噴出し笑い。 はずかし~~~!


「あーもぅ何してるんだ、あたしゃ!それじゃまた月曜日にね。」

慌てて引き返そうとしたところへ・・・・・


「あ、ちょっと待って。」

多可谷があたしの手をにぎった。


寒かったせいなのか手袋ごしなのにひんやりしている。


「明日、自分の家に来て。色々話したいことあるんだ。」

「?うん、わかった。」



ぱたぱたと手を振って別れ、一人になった。

もらった手書きの地図は、消しゴムの跡だらけでかなり読みにくい。

何度も書き直したんだろう。

しかし・・・・・


「字、下手ねー・・・・あたしもけっこう適当に書いてるけどこれはちょっと・・・・・」


家に帰ってから、書き直そう。

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