<<2:裏通りの物々交換屋>>
北風が強く、やさしく走る そんな街のどこか。
裏側通りの先にある・・地下道の深くて長い階段を降りた所に
その店はある。
. ギギィ・・・・・ ばたんっ
小さなカウンターの奥、そして左右の壁一面が巨大な棚でずらりと並び、白い箱が無数と収められている。
幾重にもロープで縛られて安定性が悪そうに傾いている箱、
まるでCDやMDケースのように薄っぺらい箱、
人間一人が入れそうなくらい大きな箱もある。
また、獣皮で包まれた物、不気味な色を放つ水晶球、おぞましい姿をした魚の剥製・・・・
一見、マニアやオタクの好き好みそうな店だが・・・ ここにはそんな客は来ない。
彼らでさえも、この店へやってくる者達から見れば普通の人間だ。
『現実世界』に生きる人間には・・・・・・・・店の存在自体が知られないのだ。
ここへやってくるのは・・・・・・・・
「いらっしゃいませ。・・・おや、これまた怪しいお客様だね。」
カウンターに座っている、茶髪で青い眼鏡を掛けた男の店員がにっこりと・・その店には不釣合いなほどの笑顔で客に笑いかけた。
客は黒いコートを羽織り、中は白衣 というなんとも不思議な格好だ。
科学者とかを非難するわけではないが((゜というか、作者自体が科学者の卵だし。゜))いくらなんでもその男は、あからさまに怪しすぎる。
「しかし、この店ではどんなものでも『物々交換』で手に入れることができますよ。 さて、何をお求めで?」
「・・・ある機械人形を探している・・丁度、そこの・・・」
人間サイズの箱を指差して言う。
「ぁあ、これですね。ですが、当店にあるこちらはフィギュァでして、現物を店内に置くことは出来ません。 お取り寄せの用紙は~っと・・・」
「違う。」
「フム・・・・新規のを購入したい、そういうことでは無いのですね?」
「そうだ。 探して欲しい機体のナンバーなどの詳細はこれに書いてある。」
客は、ほとんどイントネーションの無い声で答えると 二つに折りたたまれた紙切れを渡した。
「ふふ。これまたずいぶん古い機体ナンバーですねぇ。 ですが、これがどこにあるのかは知っていますよ。人間と機械の区別くらいは、出来ますからね。」
「流石だ。」
「こちらはそういう商売ですからね。 ・・・貴方も知っているからここへいらっしゃられたのでしょう?」
客は帽子とコートを深く着なおす。
「・・・深く追求はしませんよ。3日後にもう一度お越しください。商品をお渡しします。
ところで、当店では前払いが前提となっております。 交換する品を・・・・」
. ドンッ! ジャララ・・ざらっ
客は、白衣の中から取り出した皮袋を乱暴にカウンターに置いた。
袋の中から・・・宝石やアクセサリーがバラバラとこぼれている。
しかし・・・・
「ふふ、どれもこれも天然の、本物ではなく人工の鉱物ですね。」
ところが店員は怒るでもなく
「はい、充分です。お引き受けいたします。 仕事が失敗した場合や、ワタクシどもが死んだ場合、お返ししますから・・・・・」
「返却はしなくていい、どうせ元には戻らない。」
「左様ですか。 では。」
「3日後にまたくる・・・・よろしく頼む。」
「はい。 毎度どうも御贔屓にー・・・・」
. キィ・・・ ゴゴンッ
「お兄、またお客かい?」
「あぁ、また怪しいお客様だよ。 というか、たまにはお前も番台しなよ。面白いよ?」
「ォィォィ勘弁してくれよ。俺はまだこの環境にさえ慣れてないんだぞ?無茶苦茶言わないでくれよ・・・」
店員の座っているカウンターの横にあるドアから、店員と同じように茶髪で、赤い眼鏡をかけた男が入ってきた。
店員の双子(弟)だ。
「なんだなんだ、この石ゼーンブ偽物じゃないか!」
「いいんだよ。さっきのお客様にとって、この石は"大切なもの"なんだからね。
ウチの店ではお客様の望む品を提供する代りに・・そのお客様の"命"・・・なんて言うと物騒かな・・・つまり、"人生の一部"を料金として請求するわけさ。
彼にとってはこの石がこれからの人生において、必要になるはずだったものな訳。」
「う~~~~ん・・・・」
弟は納得がいかない顔のまま、指輪を一つとって指でくるくると回す。
「まぁ、お兄は『物の記憶』が読めるからねぇ。」
「そうそう、『物』といえば・・・さっきのお客様、ロボットだったよ。」
「ふーん・・・・・・ って、 ぇえええ!?」
にこやかに兄は続ける。
「正確には『アンドロイド』 って、ヤツかも。多分、創造者の依頼だよ。その人の作ったロボットがお使いに来たんだろうね。
そして、この石は機械の体の一部らしい。」
「!!?」
. カツ―ン!
指輪が小さな音を立てて弟の手から 落ちた。
「ぇーっと・・・・」
兄は、カウンターの下から青っぽい迷彩柄のノートパソコンを取り出すと、先ほど受け取った紙を見ながらポチポチとキーを打ち始めた。
「・・・お兄、まさかまだ『雨だれ』でしか 打てないのか・・?」
「・・・・・別に、指一本で打っちゃいけない、という決まりもなかろう。」
かちゃ・・・ ・・かちっ・・・
・・・・ぽちっ・・・・・・・
「~~~~~~~~~~~~っ! ぇえいじれったいなぁ! おら、貸してみろよ。」
かかかかかかかかかかかか・・・・
「早いな。」
「お兄が遅いだけだから (汗;)」
「よし、出た。 ふ~ん・・・・『NO.Tak-sa_00013』か。かなり古いね、モデルタイプかい?こいつ・・・」
「たしかこの機体、造られてすぐに行方不明になってたやつだよ。まぁ、当時は試作段階だからと気にしてなかったんだろう。
今頃になって探すとはねぇ・・・・こういう依頼は厄介だよ、本当に・・・・」
はぁあ~と、大きなため息をつく兄。
「けど、なんだか可哀想じゃねーか? 多分今まで何も知らずに育ったにちがいないぜ。 突然なぁ・・・・・俺も似たようなもんだけど・・・・・・」
「そうだねぇ。 ほら、見てごらん。今は普通の小学校に通っているよ。」
「でも・・・」
「「仕事だからな~」ね~」
「さて、行こうぜ お兄。」
「そうだね・・・しばらくお店はお休みだ。 それと、外では【アヤメ】と呼ぶように。いいね?」
「ヘイヘイ、じゃ俺のことも【レイ】って、ちゃんと呼べよ?」
「む・・・」
二人がいなくなり、不気味な静けさが戻った店内。
そのカウンターから一枚の紙が ひらっと 床に落ちた。
紙にはこう書かれていた。
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FuselageNo : Tak-sa_00013
Sexual Distinction: Missing .
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↑訳すると、 機体ナンバー:Tak-sa_00013、性別:無
(( これは、多可谷が、海神の通う小学校へ転校してきてから、2ヵ月後の出来事である ))