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「ヒト堕ちのアレッタ」〜走って、食べて、食べて戦う幼女転生7日間の物語〜  作者: 木村色吹 @yolu


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第41話:契約



 ───アレッタがヒト堕ちとなる。



 そう知ったのは、私が神殿で祀られているとき。

 いつもと変わらない朝だった。

 

 いつもなら迎えにくる頃にアレッタは来なくて、騒がしい外の音に耳をすませて、初めて知った。


 私は常に剣の姿で、彼女と戦うとき以外、私はこの神殿に奉るのが決まりとなっている。

 だから当たり前だと言えば当たり前のことなのだろうけど、私は()が赦せなかった。


『───なぜ、私を聖剣にしたの』


 私が精霊のままでいれば、アレッタをそんな残酷な目に合わせなくてもいい。

 それに私の声が通じるものっ!

 この天界で私の声が聞けるのは、アレッタと、あの神の右手であるドゥーシャだけ……


 私は身動きの取れない自分がもどかしく、恨めしく、ガタガタと()を揺らす。

 だがその程度でしかない。

 今のアレッタを救うことも、叫んで彼女が無実であることも伝えられないなんて……!


 それでも私は必死に叫びあげる。

 だけど、誰も振り向きはしない。

 神殿に近づく者も、ない。

 ただ外からは悲痛な声が次々に聞こえてくる。



「アレッタ様がまさか……」

「……羽斬りなら致し方ない」

「信じてたのにっ」

「裏切り者」

「あの、アレッタ様が……」



 みんな、聞いて!

 アレッタは何もしていないっ!

 私にはわかる。

 魂がつながっていると言うのはそう言うことだから……

 みんな、聞いてっ!!!!



 突如、悲鳴が轟いた。

 私は瞬間、悟った。



 アレッタが、堕ちた。と────



 かろうじて生きていることはわかっても、それ以上に何も感じられない……!

 こんなことなど今までなかった。

 アレッタが生まれてきてから、ずっと感じてきた温もりが、魂の熱が、感じられない……




 私はただ絶望に泣いた────





 感じられないアレッタの感覚を、細く糸のような繋がりにすがって泣いた。

 誰にも聞こえない声を張り上げて、私は泣くしかできなかった。

 その声につられてか、()()()は現れた。


 ドゥーシャだ。


『ドゥーシャ、どういうことよっ!!!

 あたしのアレッタが羽斬りなんてやるわけないじゃないっ!

 このあたしが保証するわ。間違いなく冤罪よっ!』


「そうだとして、貴様の声はどこに届くんだ。……天界では、私以外、声が聞こえる者は誰もいなくなった」


 不敵に笑うドゥーシャを私は精一杯の気持ちで睨む。


 この男の考えていることが、全くわからない───


 注意深く見つめる私を嘲笑うように、大きく腕を羽を広げ、彼は言った。



「──君を精霊の姿に戻してやろう」



 私はその言葉に、心が跳ねた!

 不審がる気持ちよりも、精霊に戻れるというのは私にとって、願ってもないことだったから。


 ───精霊になればヒトの世界へ降りられる!!!


 私は喜びの声で返事をする。

 だが、彼の次の言葉を理解するまでに、私は時間がかなりかかった。



「アレッタを殺して来てほしい」



 ………意味がわからない。

 ヒト堕ちにされたアレッタをさらに殺さなければならない理由なんて、ない。

 ましてや冤罪なのに!!!

 だいたい冤罪であろうと、アレッタは7日間かけて罪を償うのだ。ヒトとして生き、ヒトとして死ぬために。

 それを殺せだなんて、理由も何もわからない……


『そんなことできるわけないじゃないっ

 あたしはアレッタを助けに行くっ!』


「これでもか……?」


 そこにいたのは、私の妹、アンジュだ。

 彼女は次期聖剣になる精霊。更に言えば、すでに彼女は将来神の左手になる天使と魂が繋がっている。

 アレッタがどのタイミングで神の左手を降りるかはわからないが、アンジュはいつでも聖剣となって一緒に戦う準備を進めていた。


『……あたしのアンジュがどうかしたの』


「本当に残念だ。アレッタを堕とせば、魂の繋がりが消えるかと思っていたのだが、そう簡単ではないのだな……

 私はアレッタではない()()が欲しい。()()()()()が!

 ……そう、私の愛するジョヴァンナに左手になってもらうんだ……!

 そのためにはアレッタが死んでくれなくてはいけない。

 だから、アレッタを殺してくれれば、アンジュは使わないことにする」


『意味がわからないんだけど……』


「一度聖剣になった精霊は繋がりが消えても、聖剣になることができると聞く」


『それは理論上の話よ』



「──アレッタの羽を腕輪にし、それを媒介とする」



 彼が掲げた手には、純白の羽がある。

 羽の艶、羽の質感、どれも見ても、それはアレッタの羽────



「この羽に繋がることはできるだろう? 羽は魂のカケラでもあるからな」


『……ちょっと……』


「もし貴様がジョヴァンナの聖剣にならないというのであれば、アンジュをジョヴァンナに繋げる。

 無理に繋ぐと死にたくなるほどの激しい痛みがあるのだそうだな。

 精霊はそれでも死ねぬのだから、皮肉だな……」


 まだ幼いアンジュの顔はひどく怯えている。

 それでもアンジュは首を横に振る。

 アンジュもアレッタの帰還を望んでいる………


 唇が読める。



 わ た し へ い き



 そんなこと……平気なわけがないっ!!!

 今、アンジュも絶望を抱えている。


 だけど、私の絶望とアンジュの絶望、どちらが重いなんて比べられない……!!!


 そんなとき、不意に聞こえたのは、アレッタの声だ。



 『ネージュがいれば、どうにかなる』



 どんなに悪霊に囲まれても、どれほどに強い悪霊であっても、それこそ脚をもがれても、腕が消えても、彼女はそう言った。

 私がいれば、どうにかなる。

 アレッタの口癖みたいなものだ。

 私は心のを落ち着かせて返事をした。


『───わかったわ、ドゥーシャ。

 アレッタを殺せば、アンジュは無理やり繋げないってことね。

 逆に聞くけど、私が聖剣になれば、目的は達成ってことよね?』


「まぁ、そういうことだ。

 今の貴様はアレッタにしっかり結びついていて、いくら羽の腕輪があっても繋がれない。

 漆刻時計を渡す。次の襲撃までにアレッタを殺してくれればいい」


 ドゥーシャはぐしゃぐしゃとアンジュの髪を撫でながら、


「よかったな……お姉ちゃんがお前の身代わりになるそうだ」


「……絶対、()があなたを赦さない……」


 アンジュは睨み、呟いた。

 そこ言葉に目を見開くと、ドゥーシャの右手がアンジュの頬を殴りあげていた。


『……このっ』


 さっと身を引くと、まるで降参だとでも言わんばかりに両手を上げながらドゥーシャは言う。


()は声でしかない。

 私は何度となく問いかけた。だが、()は一方的だ。こちらの声は汲み取らない」


 だが、さらに大きく腕を、羽を広げ、神々しく目を細めると、神殿の中を彼の声で満たして言った。





「ならば、ここでは私が神だっ!!!

 よく覚えておけっ!」






 ────私はドゥーシャの手によって精霊へ戻され、そしてヒトの地へと行かされた。


 お前の手を汚さなくてもいい


 そう言われ、私はドゥーシャに不審がられないようにするために、オークにアレッタの存在を仄めかした。

 それは瞬く間にゴブリンの耳にも入り、黄金色の目の子供はヒト堕ちの子として、誘拐事件にまで発展してしまった。

 私が助ければどうにかなると思っていたけれど、結局はアレッタの力が全てだった。

 さすが、だとも思った。

 全ての原因は私の迷い。


 私はどちらも助けたい……!


 ただただ揺れる心を抱えながら、アレッタと親密な時間を過ごしても、私は彼女にかける言葉が見つからなかった。



 だって、裏切っているのだから───



 それでも、散々迷うなかで、私は決めた。



 【アレッタをヒトと同じ程度の力に落とし、魔力が消えかけたところで、ジョヴァンナと繋がる】



 アレッタを傷つけることには変わりないけど……


 でも、フィアがいるから、絶対に助かるっ!


 一番の目的は、私が聖剣となってジョヴァンナに繋がること。

 ヒトになったアレッタを殺すことが目的ではない。


 彼女が生きていれば、私も生きてられる……



 ……もう二度と、アレッタには会えないけれど………




 でも、もう、これしかないっ!!!!




 思いついた時の私は、これは素晴らしい発想だと自画自賛した。

 だって、これしかなかったんだもの………



 ───ただ、アレッタを刺しとき、私の心は凍ったのだと思う。

 なんの波も立たない心になった。

 固く、ブレもしない、ただのココロ。


 そのココロを、ジョヴァンナは、簡単に撃ち砕いた。




 彼女は言ったのだ。

 アレッタを殺しに行くと───




 ジョヴァンナは私の声が聞こえない。

 私はアレッタの羽と繋がったに過ぎない。

 想像したらわかることなのに、私はそこまで想像できていなかった。



 私はドゥーシャに、騙され、仕組まれていたんだ……

 たった1人の妹アンジュも、私が消えれば聖剣にさせられてしまうかもしれない……



 ただ、どす黒い感情が私の心を満たしていく。

 満たす速度が増すごとに、激しい痛みが魂にずんずんと響く。



 ………もう、壊れよう。



 私は、そう、砕けたココロで決めた────

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