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第21話:初めてのおつかい 【山小屋編3】

 恐ろしいモノに出会うと、ヒトは自分の持つ最大の力でねじ伏せる。


 これは当たり前の行動なのかもしれない。


 なぜなら男たちはこの小さな幼女に恐怖を感じていた。

 どこまでも立ち向かってくる強さ、目の色、声音……

 どれもが今まで見たことがないモノだった。


 だからこそ、腕を振り上げ、足を振り上げ、アレッタを黙らそうと最大の力を振りかざす。


 だがアレッタは、床に投げ出されるも、再び振り上げられたその足に掴まり、蹴られまいと体を丸めた。そのため蹴られはしなかったが、軽い幼女の体は、難なく壁へと飛ばされていく。


 鈍い音が鳴り、ずるりと床に落ちていく。

 それでもむくりと立ち上がるアレッタ。

 男の足が、後ろへずれる。


「……なんだ、このガキ……」


 大の大人が、それも男が、怯えるのもしかたがない。

 普通の子供であれば泣きわめき、逃げ回るだけだ。

 なのに彼女は立ち上がり、さらに鋭く光る目は衰えない。

 むしろ、口元が笑っている───

 

「……また、フィアに怒られるな……」


 アレッタは口の端から流れる血をぬぐって、大きく唾を吐き出した。

 血溜まりが床にべちゃりと跳ねる。


 アレッタは再びトンファーを構え、体勢を整えた。

 息を大きく吸いこむと、


「……エン、行くぞっ!」


 掛け声とともにアレッタは小さな膝を踏み込んだ。

 だがそんな彼女に、まるでおぞましいものを追い払うように、容赦なく棍棒や包丁が襲いかかる。

 それをギリギリでかわしながら、エンが爪を振り、トンファーを振りかざし、この部屋にいる男3人を翻弄していく。


 だがこの攻撃は致命傷にはならない。

 ただの時間稼ぎだ。

 アレッタのトンファーが脛を叩き、エンの爪が腕を引き裂く。

 地味に削られていく体力、深くなる傷、諦めずに襲ってくる幼女に、男たちはもう声で脅すしかない。


「ガキがいい気になるなよ!!!!」

「殺すぞ、このガキ!!!!」

「ひねり潰せっ」


 ひたすらに向かってくるアレッタに男たちの怒声が飛び、腕が振り回る。

 部屋を駆け回りながら、アレッタは思っていた。


 いくら怒鳴られても構わない。

 彼らが逃げる時間が稼げればそれでいい。

 


 ………でも、なぜこんなことをしてしまったのだろう……



 アレッタは肩を揺らし、息を整えながら、トンファーで刃を受け流して床を転がった。

 服もドロドロだ。それでも立ち上がり、重くなり始めたトンファーを振りかざす。



 ───私はヒトだ。

 もう、死ぬかもしれないのに……

 あばらが軋んで、立つのも辛い……



「………うぉぉぉおおぉっ!!!!」



 アレッタは唸り声をあげて、走り込んだ。

 小さい体を利用し、膝を狙う。


「まずは、1人目……」


 再び光る目が流れていく。

 アレッタはテーブルの上に一気に飛び乗ると、振り下ろされた包丁を叩き割って、顔面に突きを入れた。

 見事に眉間にはまったトンファーは、鼻を潰し、すぐに意識も潰せたようだ。

 膝から落ちていく男を横目に、


「2人目……」


 すぐに包丁が横に薙ぎ払われ、アレッタは足を踏ん張りのけぞった。

 ブリッジした体をトンファーで支え、自身を掴もうとする手に向けて足を蹴りだす。

 幼女の手のひらに満たない小さな足は、男の太い手首を捉えると、いとも簡単に圧し折ってしまう。


「………い、いってぇぇぇっ!!!! いでぇぇ……

 ……な、なんだこいつ……馬鹿力出しやがって……っ」


 腕を抑えもがきながら、逆の手でナタを取り上げアレッタに投げつけた。アレッタは寸前でかわすも、水平に円を描く刃が頬をかすっていく。熱く焼ける頬を拭うことなく、ナタを投げたことで前屈みに崩れた男に向かってトンファーを振り下ろした。


 体を弓なりにして振り下ろしたのに、横に転がり避けられる。

 叩き込んだトンファーが台にめり込んだ。だがアレッタはすぐにそれをも持ち上げ、起き上がった男のみぞおち目掛けて突き押した。それはみぞおちにハマり、しっかりと食い込んでいく。


 それを横目に3人目へとアレッタは視線をずらしたが、


 ……男の目が死んでいない……!!!


 すぐに生きている手でトンファーが捕まれた。

 がっちりと握られ、ビクともしない。

 多少の脂肪と筋肉で、彼の腹は守られたのだ。


 アレッタはトンファーをすぐに手放し、台から一気に飛び降りた。


 なぜなら床に棍棒が落ちているからだ。


 着地と同時に走り込むが、長い男の腕は、至極簡単にアレッタの襟首を掴みあげた。

 幼女の歩幅は思っているよりも小さいのだ。

 首を吊るように持ち上げられ、彼女が足をばたつかせるも全く離されない。

 エンも爪を伸ばしアレッタの援護しようとするが、もう1人の男に布袋に詰め込まれてしまった。袋の中できゃんきゃんと喚くエンの声が虚しく響く。


 両肩を抱えて捕まえられても、まだアレッタはもがき、諦めない。


 この腕から逃れられれば……!!!


 アレッタは渾身の力を込めて体を揺する。

 だがそれはただ体力を消耗するだけで、足が床に着いてくれない。


 さらに暴れるアレッタに、エンを捕まえた男の腕が飛んできた。


「黙ってろ、ガキっ!!!」


 頬とみぞおちを殴られ、目をチカチカさせる。

 言葉にならない声を漏らし、涎を流し、ぜえぜえと息を切らしながらも、落ちそうになる意識を無理やり起こし、殴った男を睨みつけた。

 その目はまだ諦めていない。

 絶対に逃げるという意識が途絶えない。


 もう一発殴ろうと男が腕を振り上げたとき、


「おいっ!! やめろっ!!!」


 濁る意識でアレッタは声の方を見た。

 扉に男がいる。


 明るい光を背負いながら現れた男は、



 ───エイビス………?



 くっきりと現れた男の両脇に、ジャンとシルファが抱えられている。

 だがシルファの頬は赤黒く腫れ、それでも暴れるシルファは逃れようと必死だ。



「………ったく、ガキ1人になにやってんだ、てめぇらっ!」



 アレッタの思考が止まった。



 ………4人目が、いた……



 あの忘れかけた絶望が、アレッタの足に再び縋りついた瞬間だった────

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