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夢IL''幻界少女  作者: ヱフノジルイ
夢幻城砦
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始まりの駅と吟遊詩人

 僕と君はホームに降り立つ。

 陸地に立つのはなんだかとても久しくて、ちょっと不思議な感覚だ。

 

 駅の中は大賑わいで、あちらもこちらも大騒ぎ。

 そこに居るのもみんなみんな個性的。


 手が四つあるモノ。

 目が八つあるモノ。

 首が二つあるモノ。

 どろどろしたモノ。

 かちこちしたモノ。


 闇底の街とは打って変わった、多種多様個性豊かなモノ達が、処狭しと犇めき合っている。

 上を見上げれば宙にも電車が浮かんでて、駅のホームが何層にも連なっているのが分かる。


 僕と君は手を繋ぎ、モノ混みの中を逸れぬように進んでいく。


 君と僕以外に、人の形をした人はいない。

 だが逆に、僕と君のような飾り気も無いただの人間の形であることが、一つのモノとしての個性なのでは?

 と、僕は蛸足髭紳士の隣をすれ違いながら思った。


 駅の改札を出ると、そこはまさに夢の世界だった。


 建物と建物が密集し、アンバランスに積み重なって一つの大きな建造物を構築している。

 宙にもモノが飛び交って、奇妙な機械がモノ達を乗せて飛んでいる。

 駅の前は大通りの商店街のようで、見たことも無い物を売っている、見たことも無い店がぐちゃぐちゃ不規則に並んでいる。

 ふと振り返れば、駅のてっぺんには歪みに歪んだ時計台があり、ゴトリ、ゴトトトンと音を経てて不規則に時を刻む。

 幻覚症状に悩まされ全てが歪んで見えてしまった人間の悪夢のようなその街は、その実、深夜であろうと明るく輝き、闇底のような暗さは感じさせなかった。


「アーヨイサヨイサ、皆は無惨に捨てられた、ここは悲しき夢の墓場。流れて積もった夢の屍、それらの上で、オイラは暮らす、アーヨーイヨイ」


 腕がギターのように変形している男が、駅前の広場で歌っている。

 誰も彼に見向きもしないが、通りがかりにシルクハットを被った雪だるまのおじ様がギータケースに何かをひょいと投げ入れた。

 それを眺めた男がははぁははぁとおじ様にお辞儀をしていたが、あの雪だるまは振り返る事無く去っていく。


 再び歌い始めたその男を僕と君が眺めていると、彼はこちらにおいでと手招きをした。


「君達君達、もしかしなくても、新入りだろう?」


 男の発言に、君は「なんでわかったんですか?」と目を輝かせて言った。


「君達のその都会に来たばかりの田舎者の如くの眼差し!それを見れば一目でわかるとも!あぁわかるとも!」


 ギターと一体化した腕をかきならし、リズムにノリながら男は喋る。


「俺も上京してきたからな!君達のその目が懐かしい!ここは捨てられた夢の流れつく場所だ!君達の名前は何なんだい?」


「僕達の……」


「名前……」


 男の質問に、僕と君は困ってしまった。

 僕と君には記憶が無い。

 自分の名前を憶えていない。

 無言で首をふる僕らを見て、男はキョトンとした顔をすると、直ぐに笑顔に戻って見せた。


「なるほどなるほど分かったよ!君達は自分の事を思い出すために、旅に出たんだね!うんうん素敵だ素晴らしい!ならばこれは俺からの餞別だ!」


 そういうと男は立ち上がり、ギターを弾きならしながら声高らかに歌い始めた。


「二人の少女は街を逝く~、捨てられた夢幻の街の中ぁ~。二人の少女は共に行く~、己の答えを探すため~。白くて平らなワンピの君と、黒くて豊満なネグリジェの君は~、とても仲良し仲睦まじき~。夢IL''少女と幻界少女~!」


 正直センスの無い上に少し不適切な歌詞が聞こえたような気がする詩だったが、僕達の事を歌ったであろうその即興の歌詞と、僕の隣で目を輝かせて拍手をする君の事を見て、僕も彼に拍手を返した。

 彼は気分が良くなったのか、ギターケースに入れられていた硬貨と紙幣を手に取ると、布の袋に入れて差し出してきた。


「一銭一文無いだろう?ここの街は自由だが、お金があればもっと自由だ!これもおまけにあげちゃうから、受け取れ持ってけ少女達!」


「えぇっ、悪いですよ!?」


「いいんだいいんだこのくらい!旅が終わったらまたここに、武勇伝を聞かせに来てくれよ!」


 僕と君は彼に頭を下げると、再会の約束をして別れる事にした。

 僕らが去った後も、彼は一人で歌い続けている。


 君と僕は手を繋ぎ、いよいよメインストリートへと進んでいった。

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