セイを受け継ぐモノ
やがて僕らは隣町へと辿り着いた。
先ほどまでの街よりもそこは薄汚く、みすぼらしく、そして辺りには腐乱臭が満ちていた。
「……おかしい、命の気配が全くない」
君は鞘に納めた刀を持ち、辺りを見回しながら街中を歩き回る。
街の中へ入れば入るほどにその臭気は濃さを増し、吐き気を催すほどだった。
「……こっちに川があるみたい」
そう言う君の跡を付け、川の方へ向かってみた。
そしてその光景に驚愕した。
濁った川に浮かび、ゆらゆらと揺れる無数の水死体。
皆服も着て無い全裸の腐り切った死体達のせいでこの川の水が限りなく淀み、異常な臭気を発していたのだ。
川のほとりの草原も皆枯れ果て、そこに生物が住める環境など到底無い。
なぜこんな事になっているのか全く想像がつかなかったが、少なくともこの状況になってしまったのは数週間前の出来事と見ていいだろう。
「……」
君はただ、水面に揺られるだけの水死体をぼーっと眺めた。
先ほど殺した少女と同い年くらいの女の子の死体も、腐り落ちた肉の間から茶色ずんだ骨を覗かせて、ただ揺れている。
その時、君が何かを察知したかのように振り返ると、歩き出した。
僕もその後に続いていく。
街はずれの場所。
周囲を枯草で囲まれたその場所に、一つの小屋があった。
その余りにもオンボロな掘っ立て小屋はとてもじゃないが人が住み着くには厳しい環境だ。
君は草木を掻き分けて進んでいくと、小屋の扉をゆっくり開く。
以外にも照明の中のロウソクには火が灯されており、部屋の中が薄暗く照らされていた。
「……っ」
ある部屋の中を覗いた君は顔を顰めた。
死亡してからかなりの時間が経ったであろう人骨が床に転がっていた。
それは肉を削ぎ取られたような形跡があり、容易にそれが何者かによって食らわれてしまったという事が想像ついた。
「……ここ、誰も居ない。でもつい最近まで人が住んでいた気配はある……」
「……一休みしていこう、ルイズ」
君はそう言うと、リビングの方へと歩いて行った。
荒れ果てたその部屋には一つベッドと、綺麗な水が入れられているペットボトルが置いてあった。
もう外は夜が深まり、僕達はこの空き家に一晩過ごさせてもらう事にした。
僕は君にベッドを使うように勧めたが、君は頑なにソファーで良いと言い張り、結局僕がベッドを使って眠る事になった。
その硬いボロボロのベッドは寝心地が良いとはとても言えたものじゃ無く、何か変な臭いもした。
「あなたはもう先に寝て良いよ……私は、あなたに無理をさせちゃったし」
「無理って……それは君の方だよ、イリス……君こそゆっくり体を休めなくちゃ……」
僕がそう言い返すと、君は俯いた。
そして何かを考えるように、ずっと床を眺め続けている。
と、何か決断したかのように君は顔を上げると、刀を置いてこちらに近付いてくる。
「……?どうしたの?」
「ルイズ……」
そう僕の名前を呼ぶと、君は唐突に僕の口に自分の口を押し当て、ベッドに向かって抑えつけてきた。
「……!?」
何が起きたのか分からず、ただ茫然と、僕の上に馬乗りになってきた君の顔を見る。
君は顔を火照らせて、白いワンピースをするすると脱ぐと、艶めかしい肌を露出した。
「ち、ちょっと……イリス?大丈夫?」
「……分からない。でも、もう抑えられない……」
君は僕の上に覆いかぶさると、僕の服まで脱がしてきた。
全くもって状況が理解出来ない。
抵抗しようとしても君の力のほうがいつの間にか僕を上回っていた。
「ねぇイリス!?どうしちゃったの!?」
「ルイズ……私は……」
そして君は僕を強く抱いた。
脳が麻痺するような感覚が広がる。
「……あなたと、一緒になりたいよ……いつまでも……だから……」
「……」
「お願い……どこにも行かないで……」
涙を流す君を見て、僕はそっと抱き寄せた。
そうか、だから君は……。
「……いいよ、おいで」
僕は全てを受け入れる覚悟をして、君の事を受け止める事にした。
だけど、僕はそれが嫌じゃなかった。
僕もまた、君を求めていたように。
そして僕と君は、お互いを赦し合った。
夜が明け、光が差し込むまで、ずっと、ずっと。




