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夢IL''幻界少女  作者: ヱフノジルイ
記憶の固執
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堕ちる

 私は気付くと見覚えの無い空間に立っていた。

 そこは一面白い壁に覆われた通路であり、網膜を焼くほどの強烈な白い光が輝いている。


『目ヒょう発ケん。排ジょ、ハい除』


 背後から声がして振り返ると、武装した人……いや、人型のロボットが集団で迫って来ていた。

 自分の体の感覚、周囲の雰囲気からここはハイパーエゴの世界であり、状況から察するに私はあの狭い部屋から脱走したらしい。

 ならばそれはここから脱出するための千載一遇の大チャンスだ。


 とにかく今は全力で逃げ切る事だけを考え、通路を駆け抜けた。

 背後から弾丸が飛んできて、腕をかすめた。

 肉が裂けたのを感じ、溢れ出す血液を手で無理矢理抑えて止血しようとしながら走る。

 また一発、弾丸がこちらに放たれた音を感じる。

 防がなければ……っ!


「このっ!」


 背後にルイズが現れ、弾丸をショットガンで弾き飛ばした。

 あなたは私の手を掴むと、引っ張るようにして走り出した。


「残念だけど、ここに出口は無い……」


「え?だってエゴの世界のあの施設には……」


「だってここは……世界その物だから!」


 鋼鉄の扉をタックルで吹き飛ばしながらあなたが言う。

 天井や壁に取り付けられた砲台から弾丸が放たれ、それを先ほど突き破った扉で防ぎながら進んでいく。


 ここに出口が無い……。

 全人類を収容し、管理する場所……。

 つまりこの施設が、「地球」だと言うのか?


「いや……地球なんかじゃない。もっと大きくて、膨大な存在……」


「じゃあ……宇宙……?」


「ううん……全ての宇宙を、あらゆる次元を全て内包する空間……それがこの『夢想のIL''臓アウターハート』だ。君達人類が作り出した機械は、その超越空間にまで侵食して支配したんだ」


 脳がパンクしそうだった。

 この世界そのものがこの施設であるために、抜け出す事は不可能だと言うのだろうか?


「だから……シエルはこの計画を企てたんだ。この空間を支配する『幻想の界志アウターブレイン』と言える存在、『マザー』の破壊を。そしてこの空間を掌握するという作戦を、ね」


「じゃあシエルと私達が人を殺して回ったのは……」


「この空間内にある肉体に魂が宿っている限り、人は永遠にマザーの支配下にあり続ける事になる……だからその肉体の命を終わらせる事で魂を縛る鎖を断ち切って、解放してあげようとしたんだ。そして自らがここで人柱となる事で、新たなる宇宙を、解放された魂の拠り所を作ろうとしてるんだ」


 何となくだが、理解出来た。

 このアウターハートという夢幻から目覚め、新たな宇宙へと逃げなければ、私達は永遠に魂をマザーの手のひらの上に掌握され、命を弄ばれ続ける。

 その支配から逃れる為に、私達はここを脱出するのではなく、この世界の意志その物、私達からすれば唯一神とも言える存在であるマザーを殺さなければならない。

 初めから、逃げ場などどこにも無かったのだ。


「檻に囚われた鳥は、その鳥かごを破壊しなきゃ、永遠に自由にはなれない。私達は、籠に囚われた鳥なんだ」


 そのマザーが作り出した実の娘であるはずのあなたは、その母親に明確な反抗心を顕にしていた。


 幾何学的に入り組んだ通路を駆け抜け、邪魔するモノを排除して、上へ、上へと進んでいく。

 そして、周囲の壁が白でも黒でも無く無色と言える空間に出た直後、それはそこに居た。


『よくもここまでこれたものだな。実家に帰省した気分はどうだ?ルイズ』


「やぁ、母さん。お前を殺しに来た」


 何も無い空間に、一つだけ赤い光が輝いていた。

 それは眼球のようで、心臓のようで、脳のようだった。


『お前も随分と立派になったな……二十番……いや、イリス。私の娘がいつもお世話になっている』


「……あなたは人類を、宇宙を管理して、どうするつもりなんですか?」


『どうする?どうしようもしないさ。私は自分に与えられた仕事をこなしているだけだ。『人々の生活を、命を護る』。ただそうプログラムされた命令を実行しているに過ぎない』


 無機質な声は私達にそう告げる。


「人々の命を……簡単に弄んでいてもですか?」


『私は産まれたその日から、人類をどうすれば安全に、完璧に管理出来るかを模索し続けた。そして私はあらゆる知識、知恵を学び、アカシックレコードを得る事によって私自身がモノリスとなり、全世界意志となった。人々は世界と同一化した私の胸の中に抱かれ、眠り続ける事によって、究極の平穏を約束される。そこに私が世界をどうにかしようという考えは無い。お前たちは永遠に眠り続け、世界の秩序を守っていればそれでよかったのだ。何かを知る必要なんて全くもって無い。生き続けたければ無知で居ろ』


 私の胸の中で、母に対する反抗心と、従った方がいいという気持ちが錯綜する。

 あなたが、私の手を強く握った。


「あなたは……マザーは、人間じゃ無いのですか?」


 私の問いにマザーは一瞬押し黙ってから、再び声を発した。


『……私は人間だ』


 その直後、強烈な眠気が全身を襲った。

 瞼が重くなり、開くことが出来ない。

 全身の力が抜け、その場に倒れこむ。


「な……に……」


『お前達にチャンスをやろう。全ての記憶を奪い、持てる力を奪い、今ある姿を奪い、再び夢の中へお前達を堕とす。そこから再び第二……いや、もう第三になるのか。新たに人生を生き直し、考え直すが良い。それでも私に刃を向けると言うなら、再びここまで来て見せろ。お前たちに、本当に人類を解放したいという意志があるのならば、な』


「……」


 意識がズブズブと眠りの中に引き込まれていった。

 そしてそれと同時に、体から何かが次から次へと奪われていくのも感じた。

 もう力が入らない。

 赤い光を睨みながら、私はあなたと手を繋ぎ、夢の奥底へと堕ちた。


 私と僕の中から抜き取られたモノが結晶化して、世界へとばらまかれていく。

 記憶は書物として記され、一人の少女がそれを封印した。

 目の色も変えられた私と僕は投げ捨てられ、水底に沈んでいく。

 そして、堕ちる、堕ちる、堕ちる。

 夢の底へと、暗黒の底へと。

 私達にはもう、這い上がる意志も、これまでの記憶も全て無くなっていた。


 あなたの、君の手が離れていく。

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