疑問
次の日。
私はエゴ世界の自室でベッドに座り、部屋に備え付けられていた端末を弄っていた。
どうやら仕事の依頼が入ったらしく、それを眺める。
内容は「この世界の解析を進めている研究者の暗殺」。
暗殺と言っても、強硬的に研究所に乗り込んで、直接排除するらしい。
つい最近までその研究者はイドの世界で夢世界の研究をしていたらしく、どうやら知ってはいけないタブーに触れてしまったようだ。
事が大事になる前に、イド世界で殺害し、穏便に済ませる。
それが今回の狙いだと言う。
「あ、あの人達も一緒なんだ」
どうやら目標の施設は広大らしく、何人かに別れて作戦にあたるという。
その中には昨日会った四人組も居た。
私はほっと胸を撫でおろすと、ベッドに横たわる。
夢の中で夢を見ると言う少し不思議な感覚ではあるが、目を閉じるとすっと意識が眠りの中へと引き込まれていった。
私は目を開ける。
ベッドから降りた私が横を見ると、ルイズが立っていた。
「初仕事だね。頑張ろっか」
「うん!」
私とルイズは共に手を繋ぎ、部屋から出た。
外の世界はあの優しさを感じる街並みから豹変していた。
宙に浮遊したビルの残骸、蠢く異形、人ならざる形をした人。
私はその光景を目の当たりにしてゾッとした。
「人の認識が形作る世界なんだ。ちょっと可笑しな形をしてるのは仕方ないね。でも油断しないで、この世界の人たちは夢を見ていると思っていても本当は肉体事入り込んでる。万が一巻き込んじゃって死なせないようにね」
「わかった……私達も死んじゃうかも知れないけどね」
「あはは!大丈夫、安心して!」
私とあなたは手を握ったまま、強く地面を蹴った。
その直後、体がふわりと宙に浮きあがり、空を舞った。
「わぁ!」
「よし、一気に目的地まで行くよ!」
瓦礫が浮遊する空を飛び、私達は目的地の場所へ急いだ。
暫く飛んでいると、目の前に巨大な要塞のような施設が現れた。
円盤のような形をしたそれは宙に浮いており、見る者を圧倒させる。
「凄い……」
「他のメンバーは別方面から侵入してる。僕達は東の方から行くよ!」
一気に加速すると、ルイズがショットガンを構え、目の前の壁に向かって発砲した。
壁が吹き飛んで穴が開き、そこから内部へと侵入する。
様々な機器が壁一面に張り巡らされている施設内部を飛ぶ。
「……っ、防衛装置みたいなのが動いてるな、気を付けて!」
「はいっ!」
そう言ってる傍から、正面から無数の弾丸が飛んでくる。
あなたは空中で私の手を離すと押し飛ばし、弾丸を避けさせてくれた。
そのまま長く伸びた髪を翼のように翻し、砲台に弾丸を浴びせて破壊した。
すぐにあなたは戻ってきて、私の手を握ってくれる。
「大丈夫だった?」
「はい、なんとか……っ!危ない!」
私が正面を向くとそこにはずんぐりむっくりした図体の両腕に機関銃を付けたロボットが立っていた。
それは狭い道を破壊しながら機関銃を乱射し、こちらに近付いてくる。
道を塞がれているため突破も出来ず、方向転換して来た道を引き返す。
「ど、どうすれば!?」
「良し、ならアレをやろう!」
「アレ?」
私がそう還すと、あなたはフフンとほほ笑んだ。
「『合体』だよ!いくよ!『リンカーネイション』!」
そう言い放つとルイズが手を離し、等速直線運動に身を任せるように飛ぶと次の瞬間その体が鎖のような物体に変質した。
そのままその黒い鎖が私の周りを囲み、そして私と一体化した。
私の体は僕と一体化し、一つの存在になっていた。
白かった髪は白黒のツートーンカラーになり、翼と尾羽が共になったそのヘアスタイルはさながら鳥のようだった。
服装も私のワンピースと僕のネグリジェが一体化し、白に黒のレースが付いた神々しい衣装となっていた。
左手にはショットガンを持ち、右手にはチェーンソーのように駆動する刃を並べた白い剣を持っている。
『よし、行くよ!』
空中で再び方向転換し、剣を構えてロボットに突撃する。
雨のように降り注いでくる弾丸の間をすり抜け、ギリギリまで接近し、剣で切り付ける。
ロボットの鋼鉄の胴体に触れた刃は強烈な高音を鳴り響かせ、火花を散らせる。
ズタズタに装甲を引き剝がすと、そのまま寸胴な胴体を真っ二つに切り裂いた。
そのままの勢いでショットガンを乱射し、残骸を退かすと倒れるロボットの間をすり抜けて進んでいった。
中枢へと続くゲートを切り裂いて破壊し、内部へ入り込む。
一度床に着陸し、辺りを見回す。
迷路のように入り組んだその施設は侵入者が現れた事を告げるサイレンが鳴り響いていた。
『対象は中央にいるはずだ。誰よりも早く仕事を終わらせよう!』
「わかった!」
頭の中に響いた僕の声を頼りに、通路を飛んでいく。
と、その時目の前に一人の人影が現れた。
金髪の髪に青い髪。
高貴そうな鎧に身を包んだその少女はどうやら同じ仲間らしい。
「あ、あなたも……」
「あら、貴方新入り?気安く話しかけないでくださるかしら」
突然突き放された言い方をされ、私は一瞬固まった。
「私は序列11のノブリス。この優秀な私に、貴方のような底辺の新入りが気安く話しかけないでくださいな」
「す、すいません……」
『序列11……15の中の一人か、相当優秀だよ、この人……』
頭の中の僕の声も、そう言うしかなかった。
ノブリスと名乗ったその少女は先へ進んでいく。
「どうか邪魔だけはしないで頂戴。報酬は私一人が貰えればそれで充分でしてよ」
「はい……いってらっしゃいませ」
『あぁもう先越されちゃうよ!あんな奴に負けらんない!』
僕は声を荒げ、壁の方を向く。
そのまま剣で壁を切り裂いた。
向こうをみればノブリスは律儀に道を歩いて進んでいるため、このまま壁を切り裂いていって近道してやればいいだろう。
「よし……行こう!」
私は剣で何枚にも重なった壁を切り裂いていきながら、若干ズルをしているような罪悪感に苛まれつつ、先へ進んだ。
どれほど壁に穴を開けただろう。
気付けばエレベータールームのような場所に出ていた。
振り返れば今まで開けてきた穴が一直線に連なっている。
ここから上に行けば目標が居る、そんな気配がした。
『……行こう、初仕事を終わらせるんだ』
「……はい」
私はエレベーターに乗り込むと、上へと上昇していった。
エレベーターを降りる。
そこはどうやらこの施設の制御装置が置かれた部屋らしい。
そして一人の男が、身を潜めていた。
「くそっ!なんでここまで来れるんだ!お前ら何者だ!?」
「……」
私が近付いていくと、男の目の前に一体のロボットが落下してきた。
先ほどのずんぐりしたものよりも図体がデカく、その全身に武装が施されていた。
「ならば最終手段だ……私はこの研究結果を全人類に報告し、警鐘を鳴らさなければならない!今人類は危機的状況にある、となぁ!」
男はそのロボットに乗り込むと、それを起動した。
凄まじい駆動音を鳴り響かせながら、こちらに拳を振り下ろしてくる。
私はそれを避け……ずに剣で迎え撃った。
巨大な拳と剣がぶつかり合う。
火花がこちら側に降り注ぎ、剣が拳にめり込んでいく。
だが相手の力の方がまだ強く、このままではこちらが圧し潰される。
「こ……の……っ!」
『このままじゃ……』
その時、赤と黄緑の閃光が部屋に飛び込んできた。
「イリスーッ!」
その閃光はロボットの巨体に突撃するとそれを吹き飛ばした。
抑えつけていた拳がなくなり、私の体が軽くなる。
「大丈夫だったか!?」
「アスカ!」
髪に黄緑色が混ざり、片目も黄緑色に発光しているアスカが、手にパイルバンカーのような機構を備えた赤と黄緑のナックルを装備して私の前に降りてきた。
彼女は私に手を貸すと、立ち上がらせてくれた。
「初仕事なのによく一人でここまで来れたな!偉い!」
「あ、ありがとうございます」
ズルをしたとは言えず、若干目を逸らしながらそう言い返した。
『このっ……バケモノ共が!』
ロボットが立ちあがり、こちらにミサイルを大量に放ってきた。
まずいと思ったその瞬間、深紫とミント色の人影が現れ、私達の前に黒い壁を作り出した。
それはミサイルを全て受け止めると無効かし、私達を守ってくれた。
「よく耐えたな、イリス」
「ブラムさん!」
「シアン!ヒスイ!行け!」
「言われなくても!」
「……わかってる!」
背後から二人の人影が飛び出した。
一人は白と黒二本のマフラーをたなびかせ青と黄の髪を揺らし、その全身を超重量銃火器で武装したシアンだった。
もう一人は緑と紅の髪をたなびかせ、美しい日本刀を構えるヒスイの姿があった。
ヒスイは空中を華麗に舞いながらロボットに接近していく。
その背後でシアンが両腕に構えた身の丈の三倍はあるバズーカー砲と肩に担いだミサイルポッドを乱射し、ロボットを集中砲火していく。
爆炎と弾丸を浴びたロボットの装甲はボロボロに崩れ落ち、コクピットが剥き出しになった。
『クソッ!なんなんだ貴様らは!』
そこをヒスイが切り裂き、コクピットと機体の接続を切断し、切り離した。
落下したコクピットから男が転がり落ちる。
「クソ!クソ!このバケモノ共が!お前らは……お前らは何が目的なんだ!」
壁際に逃げた男を、私達は追い詰める。
男は引き攣った顔で叫び続ける。
「人間が……人間が機械なんかに支配されるなど、私は認められない!機械は人間の道具に過ぎないんだ!知っているぞ!貴様らも機械なんだろう!?お前らなんて人類の敵だ!」
「イリス、お前が殺れ」
「えっ……」
ブラムは私にそう促してきた。
私は剣を振り上げて、男の前に立つ。
「まっ、待ってくれ!お前らはなんで機械なんかに従うんだ!?何か理由があるのか!?なぁ!」
「……」
刃を駆動させ、甲高い音を鳴り響かせる。
男は怯えるばかりで、私はそれを振り下ろす勇気が無い。
「人に作られた中途半端なマシン風情が!人間様に逆らいやがって!お前らなんか死」
「うるさいな……」
次の瞬間、私は意図せず剣を振り下ろしていた。
剣は脳天から胸の方までめり込み、肉を回転する刃で滅茶苦茶に破壊し、血飛沫をまき散らした。
男はとうに絶命し、もう動かなくなっている。
刃の駆動を止めると、私はゆっくりと剣を引き抜いた。
「おつかれ。今日の取り分は全部イリスの物だ」
「私は……」
「……これが私達の仕事。機械のように、冷静に、冷淡にやればいい」
シアンが喋り終わらないうちに、制御装置が爆炎を上げた。
施設が大きく傾くのを感じ、バランスを崩した。
「時期にここも落ちるみたいね。今日はおつかれ様。また明日会いましょう」
「えっと……今度は私が食事奢りますから、みんなで行きましょう」
「おっ、いいねぇイリス!じゃあ焼肉行こう焼肉!」
「もういいからさっさと離脱するぞ」
私達は天窓を突き破り、施設から飛び立った。
離れてから振り返ると、その浮遊施設は燃え上がりながら落ちてゆき、やがて海の中へと沈んでいった。
私達は解散した後、各自自室へと戻っていた。
部屋に戻ってから、私がリンカーネイションを解除すると、ルイズが私の体から分離して戻った。
気付けば手のひらは血塗れになっていた。
「……私は」
ぼんやりと自分の手を見つめていると、インターフォンが鳴って、二人の人物が入ってきた。
一人はシアン、もう一人は金髪の、裸パーカーの少女だった。
「……おつかれ、イリス」
「おっつかれ~ルイズ~……で、あってるよね?」
その少女はどうやらシアンのリンカーらしい。
ベッドに座っていた私の隣に、シアンが腰かける。
ルイズとその少女は一緒に床のクッションの上に座った。
「この子はテトラ……私のパートナーのリンカー」
「よっろしく!」
テトラはそういうと右手をぴっと上げた。
シアンとは対照的な、かなり元気な子らしい。
「よろしく、ね……」
「……初仕事、どうだった?」
シアンが私に問いかける。
私は返答に困った。
「……分かんないです」
「……そっか」
ルイズとテトラがじゃれ合って遊んでいる。
まるでペットの飼い猫のようだった。
「私達は……いや、私は、人は機械に支配されるべきでは無いって思ってる」
「え?」
「人と機械は、お互いに共存するべきだって、私はそう思ってる……だから、私はマザーの考えにはあまり賛同出来ないし、あの男にも同意出来ない……イリスは、どう思ってるの?」
突然、訳の分からない質問を投げかけられた。
どう返答するか悩んでいる私を、テトラとルイズが見つめる。
「……私も、そう思います。でもこの質問になんの意味が?」
「……人はいずれ、泡沫の夢から目覚めなければならない。それは、脳の見る錯覚じゃなく、魂が縛られる、一つの人生という夢幻……さもなければ、人は永遠に停滞し続ける」
「シアン……?」
彼女はただ、虚空を見つめながらそう言った。
私はその言葉の意味が分からなかったが、一つの怖さを感じた。
「……なんでもない。今日はありがとう。テトラ、帰るよ」
「わかった!じゃーね、また明日!」
「ばいばーい!」
去っていくテトラとシアンに、ルイズが手を振っていた。
私は、シアンの言葉の意味を考えていた。
人生という夢幻……。
それから目覚めなければならない。
私はその言葉の意味が分かったような気がしたが、ただその答えは余りにも恐ろしかった。
言葉の真意を考え、悩みながら私は再びベッドに横たわった。
そのベッドの中に、ルイズが一緒に入ってきた。
「いいかな、一緒に寝ても」
「いいよ……」
「ありがとう……あはは、やっぱり人間の体温は暖かいや……」
ルイズはそういった。
人と感情を持った機械の違い……。
リンカーも恐らくアンドロイドという部類に入るのだろう。
……アンドロイドも、人のような夢を見るのだろうか。
私はそれを考え続けながら、目を閉じた。




