ブックマーク・ドリーム
『二十番、調子はどうだ』
僕の意識は無機質な声によって目覚めさせられる。
硬く冷たい床が体を冷やかした。
そこは狭い狭い独房で、扉も窓も何にもない。
あるのはベッドとトイレ、一つの監視カメラだけだった。
『潜在無意識化のせいで頭がまだぼんやりとしているのか?それともリンカーとの接続が解けたばかりで人格がはっきりしないのか?』
状況が理解できない。
床に手をついて起き上がると、やはりこの体はあの子の物だった。
『他のオリジナル達は既に出所していると言うのに、やはり二十番と十六番だけは未だに不安定で要監視対象のままだ。いい加減に完成してはくれないものかね』
僕は何と返したらいいか分から無い。
まずここは何処なのか……。
『全人類が潜在的無意識を通じてネットワーク化され、肉体事自由に集合的無意識の世界に没入する事が出来るような世の中になったからこそ、お前達のような夢の管理者が必要となったのだ。早く成熟して貰わないと困るのだよ』
無機質な言葉は何を言っているのか全く分からない。
ただただ頭がぼーっとする。
『リンクメイカーの不調か?意識はあるようだが……まぁいい』
僕は一体何なのか、ますます分からなくなってきた。
リンカー?
リンクメイカー?
潜在的無意識?
そもそもこれは本当に僕の記憶なのか?
「あの……」
『なんだ、二十番』
機械のような無機質な声が僕の声に反応した。
「僕は……」
僕がそう言いかけた時、声がそれを遮る。
『「僕」?お前、もしかしてリンカーか?いつ本体の意識を乗っ取った?』
「な、なんの事だかさっぱりで……」
『ほう、機械が白を切るか……いいだろう』
天井が開き、そこから先端に鋭い装置が付けられたアームが降りてくる。
それはゆっくりとこちらに狙いを澄ませた。
『ならば一度強制終了するほか無いな。胸を出せ。リンクメイカーを一度シャットダウンする』
「……嫌だ」
僕は無意識にそれを拒絶した。
アームから逃れようと、部屋の隅に逃げる。
が、それはこちらを逃がそうとはせず、近寄ってくる。
『人工知能の分際で母たる私に逆らおうとしないでもらえるかな?永久停止処置を食らいたくなければ直ぐに……』
「嫌だって言ってるんだ!」
僕が叫んだ直後、真横の壁が吹き飛ばされ、大穴が開いた。
そこには拳銃を構えた、金髪と青髪が混ざったマフラーの少女が立っていた。
「はやく……こっちに」
『十六番……なんのつもりだ?現世でリンカーネーションを発動するとは、亜素濃度が急上昇して自分の体を滅ぼしかねないんだぞ?』
「私達はお前に管理されて手駒にされたりなんかしない。私達は私達の意志で生きるんだ」
『ほう……同じイレギュラー同士、気でも合うのか?』
「さぁ、早く……」
白いマフラーとヘッドフォンが印象的な少女は元の青い髪に戻ると僕の手を握って、走り出した。
『……面倒事ばかり増やしてくれるな、私の娘達は……』
サイレンが鳴り響く白い施設内を駆け抜けていく。
「出口はもうすぐだから……」
後ろを振り向くと、武装した顔も見えない人々が銃器を持って迫ってきていた。
正面には出口の光が見えてきていた。
「……君は先に……」
ぐいと背中を押され、僕は前に出た。
振り返るとそこには、口の端から血を流し、それでも必死に僕に微笑みかけている少女の姿があった。
「君はっ……早く!」
「私達は……もう……だから、先に行って」
「……っ」
静かに手を振る少女を置いて、僕は踵を返し、走り出した。
光の向こうに出ようとしたその時、背後で銃声が鳴り響き、その後に何かが地面に倒れた鈍い音が響いた。
僕はただ振り返る事無く、光の向こうへと抜け出した。
眩しい白光に照らされて、やがて僕の意識は覚醒した。




