紗綾形ボイラー地下迷宮
「もう、起きて!」
「んあ……」
体を激しく揺さぶられているのに気付き、目が覚めた。
目を開けるとそこには君の顔があった。
「よかった……頭打ってダメになっちゃったのかと……」
「ごめんごめん……」
僕は君の顔を見つめる。
あの夢は何だったのだろうか……。
いや、そんな事を考える前にまずは状況を整理するべきだ。
僕らは階段から落下した後、この場所へ引きずり落とされたらしい。
周囲を見回すと、辺り一面には「卍」を崩したような形をしたパイプが何本も組み合わさり、壁一面に張り巡らされていた。
パイプからは蒸気が吹き出し、辺りは非常に蒸し暑い。
赤熱したパイプからは熱が伝わり、まるでストーブだ。
折角温泉に浸かり、身を清めたというのに額には汗がにじむ。
「出口を見つけたいところだけど……この雰囲気……」
「うん、間違いない。どこかにカケラがあるね……」
とにかく先に進もうと、僕と君は手を繋いで歩き出した。
……そしてものの見事に迷った。
辺り一面同じ風景の為、ここがどこなのか分からない。
複雑に入り組んだこの地形は、同じ場所を何度もぐるぐる回っていると感じさせられてたまらない。
「……ここ……さっきも通らなかったっけ……?」
「……だね……」
全身から汗が吹き出し、布がべっとりと服に張り付く。
僕はもとより、君の白いワンピースさえも、向こう側の肌を透けて見えさせている。
温泉などに行けば大体の場所にサウナが備え付けられているが、気分的にはそんな状態だ。
早いとこカケラを入手し、戻ってしまいたい。
このままでは二人一緒に蒸し焼きになってしまう。
「……あぁ……もう……」
「……!大丈夫!?」
君が顔を真っ赤にして、だらりと座り込む。
熱にやられたのか、その体はぐしょぐしょで、体も火照ってしまっている。
「くそっ……僕がこんなところに行こうって言わなければ……っ!」
「いいの……カケラは手に入れなきゃいけないから……」
君を抱え、辺りを見回す。
ふと、パイプに一つのバルブが取り付けられているのに気付いた。
僕は君を地面に座らせてから、それに手を伸ばす。
両手でバルブを握った瞬間、熱せられた鉄板よりも高温の凄まじい熱さが掌を襲った。
「あ―――っ!」
それでも僕は、気力を振り絞り、バルブを捻る。
「だ、だめ……!火傷しちゃう……!」
「大丈夫……っ!この……くらい……ならっ!」
バルブを捻りきった瞬間、高温の蒸気を吹き出しながらパイプが複雑に変形し、道を開いた。
向こうにはハシゴが見え、地下に向かって続いていた。
「はぁ……はぁ……」
バルブから手を放し、額に流れる汗を拭いた。
「これで……いけるよ」
「……そうだね……」
僕は君を抱きかかえると、片手と足を使って、梯子を降りて行った。




